第2話 六本木を平和にしてバズり始める
もぬけの殻となった竜王の巣穴。
その様子を永遠と写し続けているドローン。
数々の冒険者の行手を阻み続け、六本木周辺で暴挙の限りを尽くしてきたエンペラードラゴンは、巣穴から退去した。
<救世主の登場だ>
<竜次郎って実はいい奴だった説が微レ存>
<富竹は共存の道を選んだのか、今までにないパターンだな>
<今んとこ唯一無二だろこの能力>
<ありがとうございます! ¥10000>
<ありがとうございます! ¥5000>
<わりぃ、俺はお前をみくびっていた>
コメントの雰囲気が一気に変わったな。
罵っていた連中も俺を認めざるを得ない。
単純な連中だ。
ん、鳴き声が聞こえる。
『グゥオオオォォォーン……!』
雲一つない月明かりに照らされた満点の星空の中を駆け回る一匹のドラゴン。
アイツは別れを惜しむかのように空を飛び回りながら唸り声を上げ、最終的に空の彼方へと消えていった。
竜次郎は色々と話してくれたんだ。
度重なる冒険者から受けた攻撃。
赤黒い鋼の攻殻を持つ
災害と称された竜は疲弊していたのだ。
三十年間、人間に恨みを抱いていた竜次郎は、俺とのコミュニケーションを通して人間に抱いていた不信感を払拭、そして豪華なベヒモスのお肉によって、ようやく心を開いた。
結果、竜次郎は満足げに空気を読んで去って行ったのだろう。
「竜次郎、いつの日かまた会おう……!」
こうして六本木ビルズ周辺に元の平和が取り戻された。
<感動的じゃん>
<六本木ビルズの攻略おめでとう>
<チャンネル登録完了っと>
<ダンジョンの難易度を大幅に下げた男>
<お前コミュ障の割には流暢に魔物と対話してたやん>
ついさっきまで50人前後だった同接が、一気に30万人を超えている。
もはや俺を馬鹿にする奴はほとんどいない。
今の俺は半ば英雄扱いされているため、生半端に叩こうもんなら逆に袋叩きに遭う可能性が高いからな。
加えてチャンネル登録者数が大台の四桁を突破している。
みんな大好きYAPOOニュースでは、『ダンジョン冒険者の富竹長門、エンペラードラゴンを打ち破った件』の記事が見出しのトップを飾り、数多くのコメントが寄せられていた。
これはバズったと言えるのではないか?
ああ、勝ち組だ。
ダンジョン配信者として最高のスタートダッシュを決めることができた。
……全ては【会話】スキルのおかげだな。
俺は地上へと戻るために六本木ビルズのエレベーターホールへと向かった。
道中には三体のスケルトンウォーリアがこちらをマジマジと見ているが、特に問題はない。
この魔物たち……いや、彼女らもまた、俺と【会話】をすることで既に気を許してくれている魔物だからだ。
本来であれば容赦なく襲ってくるのだが、昨日の時点で既に調教済みである。
『うぅぅ……うぅぅぅ……うぅ』
普通の冒険者であればただの唸り声にしか聞こえない。
だが俺の【会話】という常時発動型のパッシブスキルによって、魔物の言葉は自動的に日本語へと変換されて耳に入ってくるのだ。
『お帰り』
『お帰り』
『お帰り』
「ただいま。竜次郎がいなくなっちゃったから、しばらく冒険者たちがいっぱいくると思う。君らも気を付けて」
同時に、俺の発する日本語も魔物が理解できる言葉へと変換され、魔物の耳へと入っている。
『私たちなら大丈夫』
『心配いらないよ』
『元々死んでるからね』
この子たちは骨の体に剣と盾を持つ魔物だ。
外見からでは性別の見分けが付かないが、三匹共にメスなのだ。
だから紳士的に対応しないとな。
「かわい子ちゃん、また近いうちに会いに来るから、待っててくれよ」
『はい』
『分かりました』
『待ってる』
スケルトンウォーリア三姉妹は同時に頷いた。
手を振って別れてからエレベーターに乗り込む。
「リスナーのみんな、今日は見てくれてありがとう。明日からも是非期待しててください」
<楽しみにしてる>
<難易度SSS級、東京迷宮スカイツリーの攻略はよ>
<お前のせいで六本木のモンスター狩りしずらくなっただろ>
<近隣住民のワイはマジで感謝してるぜ。これは謝礼だ、受け取れ。 ¥10000>
一度拠点へと戻ろう。
支部の隊長に今日の活動報告をしなければ。
◆◇◆◇◆
——迷宮協会渋谷センター街拠点、災害対策支部
渋谷センター街の地下にひっそりと存在する冒険者の拠点。
俺が冒険者として活動を始めた三日前からお世話になっている場所だ。
入り口付近の人型AIロボットに話しかける。
「今戻ったよ。隊長は居るか?」
『隊長は、今さっき渋谷駅ハチ公口前に向かわれました』
「なんでまたそんな場所に?」
『渋谷駅前にて
ダンジョン化に伴い銅像に魂が注ぎ込まれてしまった、かつて忠犬ハチであった魔物。
渋谷駅近郊にて無差別に人を襲っているとニュースでよく耳にしている。
「分かった。俺も向かおう」
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