コミュ障と馬鹿にされていた俺〜魔物と会話する能力でダンジョンの凶悪な魔物を手懐けてたら段々と平和になってバズりまくってるんだが〜

微風

第1話 竜を手懐けた男



『————危険、危険、ダンジョン内部にいる冒険者は、速やかに避難を開始して下さい』


ここは危険区域に指定されている。


数ある迷宮の中でも難関として世間から注目を浴びている東京都港区の一角にそびえ立つ、高層二百メートルを超えるオフィスビルディング型のダンジョン、迷宮六本木ビルズ。


冒険者となって三日目の俺は、六本木ビルズの屋上部分、通称、竜王の巣穴・・・・・へと辿り着いていた。


相対するはエンペラードラゴン。

危険度SSランクに位置付けられる難敵だ。

日本中が突如としてダンジョンという異形の建造物に変わり果ててから三十年という長い年月が経過した今でも、決して倒されることのなかった竜種の魔物である。

その名の通り皇帝や帝王と称されるダンジョン界における生きた伝説として広く知られており、人々から恐れられていた。


『グルル……グガァァァ……』


全長五メートルを超える巨体。

赤黒く染まった鱗。

背中から生えている堂々たる羽。

狙った獲物を確実に仕留める鉤爪。

ふしくれ立った無数に棘の生えた尻尾。

他の魔物とは一線を画する存在感と威圧感である。


……おっと、早速コメントがきてるな。


<デカっ、何あれ……>

<エンペラードラゴンえげつな>

<誰も挑戦しないのも頷ける>


これは巷で話題のドローン生配信。

最近では冒険者一人につき一台の撮影用ドローンを持っていることが当たり前になりつつある。

俺の高校でも結構なブームとなっており、配信活動を通して一躍人気ダンジョン配信者となった同級生もいるくらいだ。


俺は自身をコミュ障だなんだと馬鹿にしてきた奴らを見返す為、この局面で初めてのドローン生配信を開始している。


タイトルは……『俺、六本木の帝王を攻略する』にしておくか。


強大な敵を相手取る高校三年生の俺こと富竹長門とみたけながとは、当然のようにリスナーさんから貶されていた。


<お前じゃ絶対勝てないから諦めろ>

<その身なりでよくここまで辿り着けたな>

<明らかに弱そう>


大方リスナーの言う通りだ。

俺は、迷宮協会からダンジョン探索の許可が下りて僅か三日の駆け出し冒険者。

ダンジョンに潜り始めていきなり挑戦するには相手が悪すぎるのだ。


<俺こいつ知っとる>

<陰キャ野郎だよ>

<彼女いない歴=年齢の童貞>


ちっ、好き放題ステータスをバラしやがって。

ああ、決して間違っちゃいない。

学校では陰キャだコミュ障だと蔑まれ、教室の隅っこで大好きなラブコメ漫画を読み漁っている男がこの俺だ、悪いか!!


このコメントはおそらく高校の同級生で俺のことを知っている奴らだが、名前も匿名で口だけ達者なチキンだ。

コイツらは何だかんだでエンペラードラゴンが気になるから見にきてるのだろう。

ふっ、お前らじゃここまで到達できないからな、屑どもめ!


だがしかし、さすがは高難易度である竜王の巣穴、一般視聴者の同接が最初にしては明らかに多い。

興味本位で視聴してる感は否めないが、それだけ注目度が高いのだろう。


<お前いきなりエンペラードラゴンはマジで洒落にならんぞ>

<近くに救急車呼んどいてやるよ>

<六本木の空の皇帝と恐れられたSSランク級の災害竜に立ち向かう無謀さに対して、ある意味興味が湧いたけどな>


リスナーの反応なんて所詮はこんなもん。

無鉄砲な配信者はどうせ負けるって思われて荒れた感じになるのだ。

エンペラードラゴンの前ではだいたいの冒険者は普通に蹴散らされて終わるだけのつまらない配信になるから、仕方ないけどね。


まあ、俺、普通じゃない・・・・・・けど。


……よし、そろそろ攻略するか。


<みんな辛口だけど、少しは応援してあげよ♪>

<期待するだけ無駄ってもんよ>

<雑魚乙wwwww>

<時間の心配しなくていいよ、秒で終わるから>


俺はリスナーの煽りを無視しながら背負っていたどデカいリュックサックを下に置き、長いファスナーを開けていく。


<お前何チンタラしてんだよ>

<うわっ、舌出しながら大きな口開けてる……>

<おい、新米冒険者、ドラゴン近付いてきてるから早く逃げろ!>

<キャぁぁ〜〜逃げてぇぇ〜〜>


エンペラードラゴンが大きな口を開けて炎をチラつかせながら、煌々と目を輝かて近付いてくる。

頭を噛みちぎらんとするかの如く、牙を突き立てヨダレをダラダラと垂らしている……。


『グルル……グルッ……グルル……』


……そして、俺とエンペラードラゴンの目線が繋がった。











「よ、昨日振りだな、竜次郎エンペラードラゴン !」


『グルッ、おい長門、約束の肉は持ってきたんだろうな〜おぉん?!』


「当たり前だろ、竜次郎。欲しがってたベヒモスの最高級サーロインステーキを持ってきてやったぞ」


『……どれ、クンクン……な、な、な、なんとこの匂いは、間違いなくベヒモスのサーロインではないか! きめが細かくやわらかい食感で、じゅわっと広がる肉の旨みや脂を楽しめる超常の逸品、是非とも食してみたいと思っておったわ!』


「早速食ってみなよ。生肉と直火焼きで味付けしたステーキ、どっちも用意しておいたからさ!」


『うむ、やはり貴様は他の人間共とは違うようだ。なんせ我らと【会話】が出来るのだからな』


「おぅ、人間よりも魔物の方が物分かりがよくて助かる。また機会があれば持ってきてやるからな」


『お主とは良い関係を結べそうだ。ほれ、我を手名づけた報酬として【経験値】と【帝王炎竜の逆鱗】をやろう、受け取るといい』


そう言い残して気高きエンペラードラゴンは空高く飛び去り、何処か遠くへと旅立って行った。


<あのエンペラーが目をキラキラさせて飛び去って行ったぞ……>

<ぶはっ、竜次郎かわゆすwwwwww>

<ドラゴン語? 日本語?>

<六本木に…………平和が戻った!!>

<ダンジョン界に新たな旋風が巻き起こる>

<感謝の意を込めて ¥10000>


この瞬間、俺はただの惨めな高校生から、ある意味で最強のダンジョン探索者として名を轟かせ始めたのだった。



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