不死不滅の怪物

其の名


〈それ〉を見てはいけない。


〈それ〉に近寄ってはいけない。


〈それ〉はやまいを運ぶ。


〈それ〉は姿を自在に消し、現す。


〈それ〉は森を歩き続ける。


〈それ〉は全ての時代を彷徨さまよう。


〈それ〉は捕食する為の触手を持つ。


〈それ〉は幼児を好む。


〈それ〉は不死性を持つ。


〈それ〉は人々の思念により産み落とされた。


〈それ〉は全ての理不尽を与えられた。


〈それ〉は伝説と神話を持つ〈最古にして最新の化け物〉だった。


〈それ〉は黒いスーツ姿で、顔は白く能面で、背に枝垂れ柳のような触手を無限に生やし、長躯痩身ちょうくそうしんで、誰がどう見ても古い時代の存在には見えなかった。


 瞳も口もなく、無になった顔面で彼は周囲を見渡し、どこから発しているかも分からない低くうずもれたような笑いを響かせながらに彼は己の真実を名乗った。


「或いは〈都市伝説〉であり、或いは〈死〉の象徴であり、或いは……そういった〈人々の好奇心と妄想から産まれた〉出鱈目だよ」


〈それ〉は大正時代にも確認されている〈はず〉だった。

 世界各国、古今東西で多くの人々に存在を認められている〈はず〉だった。


〈それ〉の産まれは不明のままで真実の発生源も同様だった。

 しかし、その特徴的な長躯痩身の姿から現代ではこう呼ばれている。


「然らば終わりのその時だ。愚かなる〈都市伝説〉の君よ――」


 森を産む者、不死者ノスフェラトゥ、病を運ぶ男、背広スーツ姿の化け物。


 数多の理不尽と出鱈目が産み出した、人々の思念により形作られた近代における〈都市伝説〉及び〈呪い〉や〈怪異〉の内、最恐最悪に位置する夢幻むげんの化け物。



「この〈スレンダーマン〉の餌食となり、死ね」



 埋もれた笑い声が響き、それと同じような音量で異音が鳴り響く。

 少女達の悲鳴と断末魔をも掻き消して大きな笑い声が渦巻く。


 ここは間違いなく地獄だった。

 必殺必死を誇る〈都市伝説〉の少女達は供物くもつだった。


 不死不滅の怪物〈スレンダーマン〉は笑う。

 鮮血に塗れながら、少女達を喰らいながら。

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