第4話

 大きく青いどこまでも広がっている絶対的存在を前に凄いとしか発せなくなる俺は、語彙力がないのだろうと時々思ってしまう、特に今のような状況では、もっとボキャブラリーが多ければ頭がいいと思われたのだろかと思うと勉強をもう少しやっていればよなったと、後悔の念を隠しきれない。

 潮風に吹かれてジャリジャリの地面を普段だとありえないがこの場所だけは許される土足という禁忌を犯している。外に出るのに上裸に短パンとは本来ならば恥ずかしがるはずだがここにいる者たちは下着に近い姿か俺と同じ格好のものが多い為恥ずかしいとは思わないのである。

「お待たせ、待ったかな。」

 声の方に目線をやるとそこには白いヒラヒラの水着を着たボンがいた。正直に言ってみる場に困る、顔は可愛いし何でか今日に限って俺の好みの髪型だ。いつもは後ろで束ねてたりする癖になんで下ろしてんだよ。下も見れないし上も見れないとなるともう遠くを見るしかない。彼女には焦点を当てず遥か彼方を見つめた。そのな俺に気付いてからムッと頬を膨らませ睨んでくる。

「こんな可愛い子を捕まえて別の子を見るなんて失礼だよ。」

 何と全く持って検討はずれなことを言い出した。ボンより可愛い子なんて知らないし、同じレベルの奴らもハニーとジンくらいなものだ。それなのに他の女に見惚れていたと、ありえないね。はっきりと言える。絶対にそんなことはないと。しかしそんなことを言ったら今までの経験上揶揄われるだけだと知ってる。だからあえて言わない。そんな美味しいネタを自分から提供したりはしないのだ。

「どうかな、これ少し攻めすぎかな。」

 俺の意見を聞いてくるが答えはよく分からないとしか言えない。まぁ似合ってるし、可愛いがそんなことは聞かれてないので検討外れなことを言うと、何言ってんだコイツという目で見られるに違いない。攻めすぎかどうか。難しい質問だ、確かに露出は高いしかし、どこを見てもそれくらい出してる人しか居ない。なので答えは、

「普通だと思うが。」

 我ながら良い答えだ。完璧なベストアンサーだろう。何ならグレートと自分を褒めてやりたい。俺の最高の答えに満足したのか、「そっか」とだけ言い青い絶対的存在に躊躇なく向かって行く、凄い度胸だ。俺はしっかりと準備をしてから万全の体制で挑む。

「マー君は泳ぐの得意なの。」

 俺は小さいことから泳ぐのは得意だけど、それを言うと自慢ぽく聞こえるだろ。ナルシストは嫌いな女が多いと聞いたので、答えに困る。なぜこうも困る質問ばかり投げかけてくるのか、女はイマイチわからないな。

 しかしそれにしても意外だった。アレはいつもどおりにボンとお昼休みを一緒に過ごしていた時のことだ。

「ねぇマー君、私さ先月までのポイントでビリだったでしょ。だからさ、その。私とデートしてくれないかな。」

 いきなりのことで食べかけの伊勢海老を吹きかけた、危ないこれが一体いくらするのか、想像するだけでも怖いのにそれを食べれなくするとこだった、それにしてもいきなりだな。彼女もちゃんと気にしていたのかあのゲーム。俺はもうほとんど気にしていなかった。

 ただ可愛い子といちゃつける口実くらいにしか思ってなかったが、思わぬとこで幸運が転がり込んできた。正直ボンとのデートはすごく気になる。てか行きたい。

「デートか、どこ行くか決めてるの。」

 俺がそう聞くと待ってましたと言わんばかりに鞄を漁り始めた。出してきたのは雑誌、それもタイトルは『おすすめデートコーストップ十』となっているのだ。ああ、最高の予感がする。

 多分嬉しいイベントだ、それなら乗ってみるのが男というものだろう。雑誌をパラパラめくりあるページを見せてきたビーチの写真に見出しが『夏だ海だ青春だ』とどこにでもありそうなキャッチコピーだ。何とも安易な、されど王道そして水着のボン、想像するだけでもう気分爽快だ、よし行こうか。もう俺は行くに満々でいた。

「いつ行くの。近くにはあるのは知ってるけど、休みの日しか行けないでしょ。」

 そう海デートをするなら彼女の部活のない一日コースしか行けないだろう。行くこと自体は出来るだろうがきっと遊ぶ時間が一時間弱しかないだろう。なので行けるとしたら彼女の部活のない日だが、難しいだろうな、今まで一日休みがあるのを見てないし。

「行くのは週末だよ。ちょうど部活もお休みだしね。行くならその日しかないかな。」

 もうそれはその日に行けという神の導きだろう。俺達は天啓に従うしかない。ノアだって従って生き残れたのだから俺達も信じよう。先人が教えてくれたことを活かして。そういえば俺海パン持ってたっけ。ないなら買わないといけないが、放課後は別の二人と帰るし、どしたものか。

「マー君は水着持ってる。持ってないならさ、私と一緒に買いに行かないかな。」

 何だその神イベント、行くに決まってる。色んな水着姿のボンを見るチャンスだ、海に着てかなくても、店で見れれば変わんないし。どんなの着てもらおうかな、スク水タイプかビキニタイプか、一緒にいるなら断然ビキニが良いけど見る分にはスク水タイプも拝んでおきたい。折角なら色んなの着てもらおう。

「マー君今えっちなこと考えてたよね。鼻の下伸びちゃってるよ。」

 クスクスと可愛く笑いながら指摘された、どうやら不快には思ってないらしい。何だこの可愛い子悪魔は、いつもは元気で明るいシトリンの様だが、最近はいたずら好きな困ったちゃんの一面もちょくちょく見え隠れしている。後は偶に登校時に会った時や下校時に別れる前、同じ人物か疑いたくなる顔をする時がある。やけに上手い料理も誰に教わってるのかかなり気になる。俺らくらいの年代で板前レベルは流石に何かありそうだ。

 まぁ彼女の影響で疑っているだけだろうが。でも放課後デートはかなりそそられる。アイドル級の子と水着を一緒に買うかぁ、最高の神イベかな。

「買いに行くのはいつか決めてるの。他の奴も居るし、いつでも行けるわけじゃないからな。」

 待ってましたよその言葉と言わんばかりに腰に手をあて胸を張りふふふと悪役顔負けの悪い笑い声をあげる。

「今日が月曜日だからさ、水曜日は私のターンだよね。その時に買いに行こうと思ってるの。」

 私偉いでしょう。と心の声が見え見えだ。まぁそれを言わないのが男の度量だろう、いや言うのが男としてないだけで、これが普通か。彼女のご立派な男の脅威をチラッと見ては、水曜日にあれが拝めるのか、それの水着姿で。妄想がとても捗りそうだが俺は硬派な漢だ、そういう変なことは月に数えるくらいしかしない。少し盛りすぎたか。今日から土曜が楽しみで寝れるか不安だなぁ。寝れなかったらデートの指南書でも読んでおくか。

 水曜日のお昼、いつも通りに彼女と待ち合わせ場所の中庭で合流し、少し一緒に歩いてあまり人のいない旧校舎の空き教室で食べる。こんなとこで食べて良いのかと思ったがボンが先生に許可を取ってくれたらしい。

 初めはかなりの人が付いてきていた。こんな場所で何をしてるのか気になったのだろう。しかしここには先生が居る。何でも目の届かない場所では子供ははしゃいで何をしでかすか分からないから見張っているのだと言う。まぁそりゃそうか、高校生で、男女の仲になる奴が多い中、こんな誰も近付かなそうな場所絶好のチャンスだ、まぁ、そう思ってきたら絶対に見せる位置に先生が居るってことか。

 この教室でならと許可されたのは先生が居るから。で何でこの教室なのかというとここに来ると必ず見えるのがこの場所だということか。先生を見て逃げる生徒も何人がいたらしいから、抑止力にはなっているみたいだな。

 まぁそういう訳でここでなら食べて良いとお許しが出た訳だ。でも先生の前で食べるのちょっと気まずくね。そう思うだろ。俺と思う、しかし彼女は別にやましいことをやってる訳じゃないから、良いじゃんと結構軽い。

 俺と食べない時も先生と二人で食べているらしい。あと先生は、こちらに話しかけてこないし、話しかけても窓の外を見ている。これが仕事だ邪魔するなと、かなり邪険にされるが、廊下ですれ違った時は軽く挨拶と一言言ってくれる。まぁ先生とは食べたくないだろうから皆付いてこなくなった。

 それとここ以外の場所で食べると怒られるようだ、何人か怒られてたし、許可していない場所で食べるなと。本当に硬い先生だよ。まぁそのお陰で気にせずに今では話せているけどね。

「今日水着を買おうよ。放課後一緒に帰る日だよね。」

 ニッコニコで俺に言ってきた。凄く眩しい、後光が刺してるのかと思うくらい光って見える。あぁ美少女が笑うとこうなるのか、目の保養も行き過ぎると毒になるらしい。

 覚えておこう、忘れない方が何かと対応出来るだろう、美人と関わる機会は人より多いし。毎日必ず一日一美人はある。平日だけだと最低二美人だな。こんなに恵まれているのは俺くらいだろう。

 多分ハーレムコンテストなどがあれば量を問わずに質だけ見てくれるなら、優勝する自信しかないな。

「ちょっと遠いけどね、すっごく大きなショピングモールがあるんだ。そこに行かない。」

 ずっと思っていたが彼女はわざとやっているのだろうか、上目遣いはずるすぎる。こんなの断れる訳がない男ならイエス一択だろ。他の選択肢がハニーやジンから提示されたらもしかしたらそちらに靡く可能性もあるが、そうならないようにしたのは俺か、抗う術を自ら手放していたとは何とも愚かなんだ俺は。

 自分の過去の過ちを悔いながら彼女の可愛さで心を保つ。そうして心のバランスが取れるというものだ。若干プラスに偏ってるが。

「マー君はどんな水着が好きなの。やっぱりフリフリのやつかな。好きそうだし。」

 凄い偏見で俺を語る。まぁ間違ってはいないが何でわかったんだ。確かにフリルの付いたビキニの中でも少し露出少なめが、大胆なものよりも絶対に魅力が詰まっていると思うが、言っても誰も分からないだろう。

「ボンはどんなのが着たいのさ。」

 俺の趣味が暴露されて恥ずかしいので、少しだけずらしてみた。人差し指を顎に当てんーと悩む君を俺は何時間でも多分黙って見てられる、いや時間が止まったように感じるからそもそもの時間がないか、つまりずっと見てられる。

「私は可愛いフリルが付いたのに、上着みたいなのが着たいかな。」

 絶対に後半のは遠慮して欲しい。てか無くなれこの世から。何であんなものがこの世にあるんだ、要らないだろ。どうやって阻止するか、真剣に頼めばキモいしかと言って何も手を打たなければ本当に着かねない。やんわりと伝えるいい方法はないものか、俺が答えを捻り出そうとしてるとそれを見た彼女は可愛く笑う。

「やっぱりマー君といる時が今は一番楽しいよ。」

 え、ボンさんやそれは多分世の男全員が、勘違いするだろう、なのでやめていただきたい。俺も不覚にも心音がかけっこし始めた。こんな良いことあっても死なないだろうか。神が最後にくれたおみあげとか言わないよな。怖い、そう思うともうそうだとしか思えない。

 俺はまだ死にたくない、確かに女の胸は触ったが、新たな夢ができたんだ、それを完遂するまでは、何としても死ぬ訳にはいかないんだ。

「じゃあ、今日の放課後は結構歩くけど、ショッピングモール一緒に行ってくれるかな。」

 あぁ、これの答えは一つだろう。すんごい笑顔でこんなことを言われたら誰だって無条件に返事をしてしまう。

「そうだね、毎週バスケをしてる体力を見せる時がやっと来たのか。」

 俺は素直にイエスと言えば負けた気がするので少しだけ表現を変えて答えた。まあ中身が同じだから変わらないが。どうしてこうも彼女の笑顔には逆らえないのか。ここ二ヶ月毎日美人と会い耐性は付いてきた気でいたが。

 まぁハニーはあまり笑わないし、ジンは見たことが今までで数回ともはや普通の奴は見れないくらいレアだ。なので毎日会ってる美人でもタイプが全員違うので別のステータス表示なのだろう。

 ジンは感情の起伏があまりない、ない訳ではないが少ないな人と比べたら。でも最近は増えた方だ。小説の話をする時は少しだけ饒舌になり一人で話しすぎたと反省し、俺がおすすめを読んだというと少し嬉しそうに口角が上がる。

 毎回このパターンしかないが、今まで俺が一方的に話してた頃と比べるとこっちの方が可愛い顔が見れるから良いのかも知れない。真剣な顔に落ち込んだ顔、喜んでる顔。色んな顔が見れるし、早くあいつの好きなのが小説と知ってたから聞いたらよかったな。

 ハニーは感情の起伏は普通にある。しかし根がクールなのかあまり笑わない。いつも将棋やチェスの話だから真剣だし、俺が悪手を打つとまたやったわね。と呆れた顔をされる。少しほんの少しだけそれが見たくてわざとしてることもない訳じゃない。

 でも笑顔はあまりというか、本当に見せてくれないな。俺がルールを覚えた時は笑って褒めてくれたっけ。もっと俺が上手くなればもっと褒めてくれるかも知れないが彼女のプライドを傷つけるかもしれないから、そんなことはしない。

 まぁそんな訳で美人の笑顔に対する耐性はボン以外では付けれない。てかボンの笑顔を見てからその辺の女は芋にしか見えないし、初めて話す時も緊張しなくなった。まぁ三人でなれたというのもあるだろうが、これでちょろい男とは思われなくなったわけだ。

 放課後、教室にボンが来た、いつもなら校門前に集合なのだが、どうしたのだろうか、今日別の用事で行けなくなったのか。そんなこと今まで一度もなかったが、今考えるとなかった方が不思議ではある、ボンは俺を見つけると大きくて手振り満面の笑みで走ってきた。

 チワワかな。そんな失礼なことを思いながらも、どうしたのか聞かねば。と思い正常を装う。

「どうしたのいきなり、こっち来るの初めてだよね。」

 普通に気になった疑問をぶつける。すると彼女は俺の手を取って出口に向かいながら

「早く行きたくてね。我慢できなくなっちゃったの。」

 テヘヘと可愛く笑い舌を出す。あぁこれで何人の男がクリーンヒットを貰ったことやら。彼女に引っ張られて教室を出たが、後ろから嫉妬の声が波のように押し寄せてくるが、それより早く彼女と逃げる。

 少し駆け足で歩いてたがいつの間にか気づいたらお互い隣で向き合ってアニメの話をしていた。手は繋いだままだ、まぁ普段から繋いでるし今更気にする方が変だ。バックハグまで一回だけだがされたのだ、流石にこの程度で狼狽える俺ではないのだ。

 楽しい時間はあっという間だ、彼女と話しているともう着いてしまった。早いな、それとデカいな想像の倍はある。で、それ以上に人が多い。

「こういうとこ来るとね。私よくナンパされちゃうの。でも今日はマー君居るし、腕に抱きついてたら変な虫寄ってこないよね。」

 満面の清い笑顔でとんでもないことを言う。虫って酷くね。俺は殺虫剤ではないんだか。ボンが俺と手を繋いでいる方の腕に手を繋いだまま抱きついてきた。柔らかな感触が腕全体に広がる。正直最高。幸せを噛み締めながら俺は顔に出さないように、ポーカーフェイスを保つことに。モールに入ると彼女の声が一段と大きくなった。普通逆ではないだろうか。外より中の方が声を抑えるものだ。

「マー君、海楽しみだね。」

 恋人がラブラブでイチャついてるような言葉を定期的に言い出す。かなり大きく。後は店に対してあれ気になるとか、あれ可愛いとか、そんな事を話していた。何でこんなことをするのかと思ったが、少しづつわかってきた。彼女を見る周りの目で、確かに一人では来れないな。なんなら俺が居るのに、「お前行ってこいよ、あんな冴えない奴どおってことないって」と茶化してるし。かなりショックだ、他人からはこの組み合わせは不釣り合いなのだろう。

「マー君はこの世で一番かっこいいからあんなの気にしなくていいよ。」

 何とかっこいいこと。ボンが毎回俺に対する嫌味が聞こえるとそう言ってくれる。相手は眉をひそめてそそくさとどっかに行くので、かなり効いてるらしい。まぁ、効くかこんな美少女にお前よりこっちの方が良いと言われたら。

 ナンパ成功確率もうないですよと言われてるようなものだしな。後俺の気分も良い、牽制の為に言ってるにしても可愛い子からかっこいいと言われて嬉しくない男は居ないからな。

 しかしそんな幸せを感じてるのも束の間、ガタイのいい俺らくらいの男が三人話しかけてきた。



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