第7話 花屋の売り子さん ☆ ~ Flower bloom ~ ☆
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今日は、花売りのお手伝いの日!
目を覚ますと。
いっぺんに朝の眩しい光りが目の中に飛び込んできて。
ベットの上で上半身を起こすと、ベッドサイトの小テーブルの上に、瓶に入った綺麗なピンクの桜貝と水色の貝殻のペンダントが、朝日をうけてキラキラ輝いていた。
今日も頑張らないと!
ペンダントを首に掛け、階段を勢いよく降りていく。
下では、もう J が起きてモーニングの支度をしていた。
「おはよう、よく眠れた?」
「うん。元気、元気!!」
両手を上に上げて、う~と大きく伸びをしてみせる。
真っ白な歯を見せて笑う J の首にはアムール貝のペンダントが掛かっていた。
今日の J は、白い T シャツにホワイトジーンズというラフな格好で機嫌良く目玉焼きを作っている☆
「魔法使いらしくないだろ?」
ちょっと、照れくさそうに言う J は、普通の男の子みたいで。清潔感が全身から溢れて、とっても好感が持てるの。
……なんて私が言える立場じゃないんだけどね☆
「すごく似合っているよ、 J 」
J が目玉焼きを焼いている間、エイミーはパンに薄くバターを塗って。
得意のトーストサンドを作ることにした。
2人の分担作業もすっかり慣れて、今では目と目で通じ合うっていうかね☆
J が何をして欲しいか大体、分かるようになってきたの。
真っ白なお皿を三枚出して、出来たトーストの上に新鮮なレタスとトマトを載せ、マヨネーズとマスタードをたっぷりかける。
J は、マスタードをたっぷりかけたトーストサンドが大好物なんだ☆
出来立てのコーヒーをカップに注いで。
ミルクをゆっくり注ぎながら、 J の目玉焼きが出来るのを待つ。
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この、白いミルクが琥珀色のコーヒに混ざっていく瞬間が、とっても好き。
「エイミー、出来たぞ」
J が、熱いフライパンを持ってテーブルにやって来てフライパンの柄を軽く叩くと。
3つの目玉焼きが大きなお皿に、ポンッて勢いよく飛び乗る☆
「わーいっ!!」
いっつも、サービス満点の J 。
エイミー。そんな J も大好きなの。
今日の朝も、3人そろって仲良くコーヒーを飲む。
「今日は、花売りの手伝いだな。オレ、今日は特に用事ないから、見に行ってやれるぞ」
「そうして、 J ♪」
J が来てくれたら、不安もいっぺんに吹っ飛んじゃう。
戸口のモスグリーンのマットを一歩踏み出したとこで、
J がそっとエイミーの耳に囁いてくれた☆
「いい印象を最初に持たれると、あとあと助かるぞ。エイミー」
うん、分かった J 。
精一杯、やるだけやってくるね。
それでは、出発!!
真っ青な空に、薄い綿のような白い雲がたなびいて本当に綺麗な空。
空気もちょっと涼しくなってきて、とってもいい季節。
ちょっと機嫌よく、上空飛行。
下は緑の樹木がたくさん植わったレンガ造りの舗装道路を親子連れや、買い物客が通って行くのが小さく見える。
週末の、のどかな1ページ。
お店で売る花は、この国の南の外れのすべての季節の花が一斉に咲きほこる「秘密の花園」から採ってきます。
まずは、その花の仕入れの手伝いです。
遠くの方に、鉄製の白い柵に囲まれた朝の露に濡れて少し霧のかかった神秘的な「秘密の花園」が見えてきた!
急いで、低空飛行!
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花園の前では、花売りの女の子がたくさんの籠を持ってエイミーを待っていたの。
「おはよう。エイミー」
「おはようございます!!」
元気よく朝の挨拶をする♪♭#
「それじゃあ、早速だけど。この籠一杯に満開の花を入れてちょうだい。枯れかけたのや、まだ小さい蕾の花はダメよ、エイミー」
「は──い」
秘密の花園の中は、それぞれの季節の花と色とりどりの花で。
香ばしい匂いで一杯。
真っ赤なハイビスカスにサルビア。
黄色の麦藁草、大小の向日葵。
青いリンドウ、キキョウ、ブルーファンタジアにミヤコワスレ。
白いマーガレットに可憐な露草。
紫のトルコキキョウにペチュニアが所狭しとばかりに咲いている。
一番綺麗に咲いている花を、注意深く選んで麦藁の籠に詰めていく。
どれもいい匂いで、ほんとに可愛くて綺麗なお花に囲まれて。
エイミー、とっても幸せ☆
思わず、お花に見とれていると……。
「エイミー、早く摘むのよ!」
花売りの店長さんが、ちょっと困ったように呼びかける。
失敗・失敗!★
大急ぎで、籠一杯に色別に花を摘み入れる☆
籠一杯に摘み入れられた花を、荷馬車に乗せて。
一番よく人が通る表通りの花屋のお店まで引いていくの。
本っ当に、良い天気!☆
なんだか、上機嫌になってくる♪
花園から歩いて三十分位のところに花屋さんがあって。
その前の白い煉瓦造りの大通りを、買い物客がたくさん通って行く。
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親子連れに、若いアベック。
腰をかがめたお年寄り達。
みんな久しぶりの休日で幸せそう。
「お花はいりませんか?」
通りを行き過ぎる一人一人に、丁寧に挨拶をしていくの。
みんな週末で、ご機嫌な様子。
ふと見上げると一人のうら若いお姉さんが、エイミーの顔を見て。
にっこりと微笑んでくれた☆
「お嬢さん。その赤とピンクのチューリップの花、2本つづ採ってくれる?」
「はい。少しお待ち下さいませ」
短く切りそろえて、透明のセロファンで包装をする。
それに、細い緑のリボンをつけて。
「どうもありがとうございました。またお越し下さいませ」
ぴょこんと爪先を揃えてお辞儀をする。
「可愛いわね。ご苦労さま」
そう言って、頭を優しく撫でてくれるの。
「エイミー、その調子、その調子!」
花売りの女の子達が、口々にほめてくれる。
続いて子犬連れのゴールデンレトリーバの親子がやって来て。
「いい匂いだなあ」
とクンクンお花の匂いを嗅ぐ。ふふっ、おもしろそう♪
「パパ、お花買って帰ろうよう」
金色の毛並みの可愛い仔犬が、お父さん犬に甘える。
「そうだな……天気もいいし。リビングに飾ろうか。どの花がいい?」
「えっとねえ。あの大きなヒマワリと、濃いピンクのガーベラの花がいいな」
「しょうがないな。それじゃ、そうしようか」
長い毛並みのゴールデンレトリーバのパパが。
ぴかぴかの銀貨を一枚、つっとエイミーに差し出す。
エイミー、銀貨をきっちり受け取って。
少し青みのかかった透明の包装紙を選んで、そおっとお花を包み込む。
リボンは、白い太めの細かいレース状のを選んだ。
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「どうもありがとうございました」
ゴールデンレトリーバの仔犬にそっと、花束を渡すの。
「おねえちゃん。ありがとう☆」
真っ黒の鼻の仔犬が嬉しそうに、小さな尻尾をくるくる振って花束を受け取ってくれた。
みんな楽しそうに、花束を持って。
家路に向かって軽い足取りで帰っていく。
お次は、真っ白な毛並みのいいペルシャ猫の親子連れがやって来た★
「まあ綺麗なお花」
知的なライトブルーの瞳で、うっとりと満開の花を眺めている。
「うちのミミちゃん、お華習ってるのよね」
いかにも大人しくて賢そうな、純白のペルシャ猫の仔猫がじっとエイミーの顔を見つめている。
「そうなんだ。可愛いお嬢さんですね。お華のお稽古。頑張ってね♪」
少しでも、印象を良くしないと。
朝、出かける時。 J に言われたことを思い出す。
~ いい印象を最初に持たれると、あとあとから助かるぞ。エイミー ~
ここは、なんとしても、試験に受かるように頑張らないとね。(汗)
ペルシャ猫のお母さんは、じっくり店内を見渡して。
慎重にお花を選んでいる。
「ミミちゃん、どのお花にする?」
「あの水仙と梅の花がいいな」
「そうね。床の間にはそれを飾りましょう」
そう言って、ペルシャ猫のお母さんは水仙と梅の花を数本選んでエイミーに渡す。
「それと……キッチンに、紫とピンクのトルコキキョウ3本づつに露草を数本」
「はい!」
急いで、それぞれの花束をそれぞれに似合った包装をして、サッと差し出す。
「どうもありがとうございました。また来てね。ミミちゃん」
ミミちゃんが、小さな手をぎこちなく振ってくれる。
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ほっと一息。
その時、向こうの方から、首にアムール貝のペンダントを首に掛けた J が白い T シャツにホワイトジーンズの格好で気持ちよさそうに歩いてくるのが見えた。
「 J !」
思わず、飛び上がって喜んじゃった☆
「ここだよ。 J 」
J が爽やかに笑ってくれる。
さらさらした髪の毛に、金色の光りの帯が砂のように降り注いでいる。
「今日ぐらいの天気が、一番気持ちいいな?エイミー」
J が、のんきにそう言うの。
「エイミー、ちゃんと頑張ってるか?」
「頑張ってるよ、 J」
爽やかな、涼しげな風がいっせいに吹いてきて。
エイミーの茶色のくせっ毛が、さーっと風になびく。
ほーんと、気持ちいい!
花売りの女の子達も、みんな喜んで J に手を振っている。みんな J のファンみたい。
「 J 、カッコイイよ」
「 J 、来てくれてありがとう」
J が照れくさそうに笑う。
それが、すんごく感じが良くて。
ますます、 J のこと好きになっちゃう。
「みんな、元気?」
「元気だよ、 J 」
「久しぶりだね、 J 」
花売りの女の子達はみんな。
それはそれは、嬉しそう。
「 J 、何かお花買っていく?」
「そうだな……」
J がお店全体を、ぱっと見渡して。
ちょっと困ったように頭を掻く。
「この白いバラ。ホワイトマジックっていうやつ。1本もらおうかな」
「ふふっ。 J にぴったり」
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お花屋さんのお店中、ふんわりとした J の優しい空気で満たされて。
みんな幸せな気分になるの。
「それと……エイミーに、そのゴールド・バニーっていう黄色のバラを」
「えっ……」
「気にしない、気にしない」
J が、ちょっと照れくさそうに笑う。
そして。
優しい風が、エイミーの上空を掠めて──。
気付けば風のような J が、微笑みながら、
黄金に輝くバラの花束を差し出してくれたの。
「もらっていいの?」
いいよと逆光の中、風が静かに動いた──。
震える手で、そっと匂いを嗅いだ。
心を融かすような、甘くて少し切ない香り ~ Flower bloom ~
「いいな、エイミー」
トムがポンポンって。
エイミーの肩を優しく叩く。
エイミー、思わず、じっと J の顔を見つめてしまう。
孤児院出の何にもできない私に──。
こんなに優しくしてくれて、涙が出そうだよ……。
「それじゃ、エイミー。この仕事が終わるまで、オレ、そこのベンチでまってっから」
J が白い煉瓦造りの通りの向こう側の、緑のベンチを指差した。
「うん……」
必死で涙をこらえてるのを、 J は自然と察してくれたみたい。
J は、ゆっくりと通りを渡って。
緑のベンチに腰を降ろした。
しばらく肘をホワイトジーンズの上に軽く載せて。
膝の上の花束を見つめながら。
何か考え事をしているみたい。
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それから、首に掛けたアムール貝をそっと唇に当てて。
そよ風のように、静かにそっと吹き鳴らす。
周りの空気が微かにふるえて。
その甘いメロディーが静かに伝播していくのを感じるの。
その音色に誘われるように、白いハトが。
1羽2羽とやって来て。
J の周りを、そっと取り囲む──。
J って、みんなの心を和ませる天才みたい☆
J のベンチの周りに、ヒバリ、ルリビタキ、エトピリカといった鳥達が続々と集まってきたよ。
その周りに、買い物客が集まってきて。
みんな J の貝笛に聞き惚れていた。
本当に、平和な一日で☆
なんだか、感動しちゃった★
陽が少し陰ってきた頃──。
「それじゃあ。エイミー、今日はこれでおしまい」
「後かたづけを手伝ってね」
「は──い」
店頭に出ている花を束ねて、さっさと店の奧に片付ける。
「何も言うことなし。はいっ。合格サイン」
花屋の店長さんが、合格のサインをくれた。
やったね♪もうみんな、だーい好き☆
今日で、第一の課題は見事にクリア♪
あと残るは2つ。
気を引き締めていかないと!
「今日は、本当にありがとうございました」
「それじゃあね、エイミー。後の残りの試験、頑張ってね!」
「エイミー、 J が待ってるよ」
花売りの女の子達が J のいる方を指差して。
背中をポンッて押してくれる。
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「それじゃ、失礼します」
急いで、 J のもとへと駆けていくの。
「 J 、お待たせ」
「はい。よく頑張りました」
J が、ずっと持っていてくれた花束を手渡してくれる。
「うわー。いい匂い」
「だろ? 最初会ったときから。エイミー、このゴールド・バニーっていう黄色のバラのイメージにぴったりだな……なんて。思ったんだ、実はオレ」
「えっ、本当?」
「マジ」
J が、エイミーの瞳をじっと見つめ返して。
「なんかこう、明るくて元気良さそうで。まわりをパッと明るく照らすような感じがそっくりだな」
「そんなこと言ってくれるの。 J だけだよ」
もう嬉しくて、 J に抱きついて。
うわぁって泣いちゃった☆
ここ数日、ホントに不安だったよ。
慣れない土地、環境で。
ちゃんと適応できるかな……なんて悩んで眠れなかった夜もあった。
「エイミー、もう泣くなよ」
J が白いハンカチを取り出して、そっと涙を拭ってくれる。
「うん…… J 。あともう少しだね」
「そうだよ、エイミー」
トムも勇気づけてくれるね。
J と一緒の帰り道。
澄んだ秋空がずっとずっと広がっていて。
涙ごしに虹が見えた。
街路樹の立ち並んだ通路の真ん中で。
風船売りが、子供達にひとつひとつ。
色とりどりの、風船を分けている。
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「今日は平和通りにようこそ。またお越し下さい」
風船売りのおじさんが、エイミーに青い風船をひとつくれた。
「お嬢ちゃん、はやく泣きやんでね」
空はホント綺麗だし。
世の中、いい時も悪い時もあるよ。
はやく泣くのをおやめ。
風船売りのおじさんの。
世の中すべて知り尽くしたような。
深みのある、黒蝶貝のように綺麗な瞳が。
そう言っているように聞こえた──。
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