第6話 深緑海のムーンライトレストラン☆
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う──ん。よく寝たぁ!
今日も晴天♪♪
スリッパをはいて、トントントンと階段を下りて行く。
キッチンでは、 J が白いエプロンを身に付けて温かいミルクティーを、お揃いのティーカップに注いでくれた。
大きなジャムトーストを頬ばりながら、
J が入れてくれたミルクティーを一口飲んでみた。
ほんっと、おいしい☆
天国みたい。
幸せそうなエイミーを見て、
「こらこら、今日も試験があるんだろ。しっかりしろよ」
J が、そうたしなめる。
「そうだよ、エイミー」
トムも少し心配そうに、エイミーの顔をのぞき込むの。
「大丈夫、大丈夫」
みんなの顔を見たら、不思議と元気が湧いてくるんだ☆
エイミー、カバンから日程表を取り出して見直してみた。
「今日は、人魚のお姉さんのお手伝いだ!」
「人魚は、深緑海の底のムーンライトレストランでいつも働いているんだ。お皿割らないように気を付けろよ!それと、お客様の迷惑にならないようにな」
J は心配そうにそう言うと、月の満ち欠けが一目で分かる銀色の腕時計をちらっと見た。
「もうそろそろ行った方がいいぞ、エイミー」
「うん」
なんだか名残惜しいけど……もう少し、 J と一緒に朝ごはん食べていたかったけど。
えいっ!!
エイミー、気合いを入れて立ち上がる☆
「それじゃあ、行って来ます!」
体が冷えるといけないから。
J が緑のハーフコートを頭からすっぽり被せてくれた☆
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西の方向に向かって真っ直ぐ飛んで行くと、朝日に眩しく煌めくエメラルド色の広大な海が目の前一面に広がっていた──。
「この辺かな……」
J が描いてくれた地図の真ん中の大きな×印の位置を探して、何一つない海の上空を、ぐるぐると回りながら飛んでいると!
いきなり海面がぱかっと割れて大きな看板が飛び出してきた☆
「いらっしゃいませ 海の綺麗な
ムーンライトレストランへ
この下 150メートル」
エイミー、思わず肩の上のトムと顔を見合わせて笑っちゃったの。
ほうきの上で姿勢を整えると。
気合いを入れて──。
えいって……深い深い海の底に潜っていった☆
海の中は思ったほど、苦しくなかった。
この J がくれた不思議なハーフコートのせいかな?
周り一面、エメラルドの深緑の中を軽く息を吐きながら、
すーっと流されるように海の底へと降りていった。
海の底には、少し紫がかった煉瓦作りの天井がない広いアーケード状の上品なレストランがあって。人魚のお姉さん達が、そろって開店の準備をしていた。
「おはようございます。エイミーです。今日一日、よろしくおねがいします」
綺麗な薄紅の貝殻を耳に付けた人魚のお姉さんに、ぴょこんと挨拶をしてみせた。
「おはよう、エイミー。それじゃあ、まずテーブルの上を綺麗に拭いてね」
一番上のお姉さんらしい、上品な人魚姫がエイミーに黄色いタオルを手渡してくれた。
レストランの壁には、アンティークのランプがたくさん付けられていて、月の光のような柔らかい銀色の光りの照明が全体を明るく、情緒あふれる世界に仕上げていた。
テーブルは丸く、奥の方には家族で座れるような大きめの上質木製のもあった。
テーブルの上を軽く拭くと、艶が出てエイミーの顔が、はっきりと映った。
外では人魚のお姉さんが「開店」のプラカードをドアのノブに掛けていた。
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そろそろ準備が整ったみたい☆
「いらっしゃいませ」
一番可愛い人魚のお姉さんが、挨拶をした。
早速、お客さんが来たみたい♪
朝一番に来たお客様は、アザラシのおじさんだった。
アザラシおじさんは、ホットコーヒーを一杯注文した。
「アメリカンで」
アザラシおじさんは、入り口近くの窓際の席にどしんと腰を下ろすと新聞を広げて読み始めた。
「エイミー、早速だけれどこれ持っていって」
白いトレーが手渡され、その上に熱いコーヒが並々注がれたコーヒカップと小皿が載せられた。
こぼしたら大変!!
細心の注意を払いながら歩いて行って。
そおっとテーブルの上にコーヒーカップの載った白いお皿を置いて帰ろうとしたら★
アザラシおじさんが、新聞の上からジロッと意地悪そうな目でエイミーの顔を眺めて、それから上から下までじーっとなめるように見た後。
「見慣れない娘だな。新しく入ったのかい?」
長い口ひげを前足で伸ばしながら聞く。
「はいっ。今日一日、お手伝いさせて頂きますエイミーです☆」
出来るだけはきはきと答えたつもり。
「ふん。わしはあっちの人魚のお姉さんの方がいいのう」
そう言って3番目の人魚のお姉さんの方を図々しく眺める。
「悪かったですね!」
不機嫌になったエイミー、くるんと振り返って帰ろうとしたら。
「これこれ、そんなに急がんでも」
呼び止められて、しぶしぶ戻って行くと。
「よく見ると可愛い嬢ちゃんじゃないか。 ところでな、コーヒーのカップの置き方はな。左側に取ってが来て、お客さんが半回転させて右に持ち代えて飲めるように、ちょうど綺麗な柄が正面に来るように置くのが正しい置き方じゃよ。お前さんの置き方は、全く逆じゃよ」
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「そうなんですか」
「そうじゃよ。しっかり覚えておけよ、小娘」
そう言うと、アザラシおじさんはコーヒーをすすりながら再び新聞を読み始めた。
なんだかちょっと感じが悪いお客だけど、コーヒーの出し方も教えてくれたし。
あまり気にしないことにしたの。
窓の外では、青や黄色の目が覚めるような色の深海魚達が群をなしてレストランの横を通り過ぎていく。
エイミー、次のお客さんが来るまで、窓際の席で綺麗な景色を十分に鑑賞することにしたの☆
中には、長さが1メートルほどあるノコギリのようなものが頭に付いたお魚さんや全身ピンクや紫の蛍光色の面白い顔をしたお魚さんがいて。
「エイミー、キレイだね」
トムも大喜び。
あっ☆
今度は次のお客さんが来たみたい。
急いで入り口の方へ飛んでいくと。
真っ青なイルカさんと赤いヒトデさん。
ランプを頭からぶら下げた提灯アアンコウさんが、それぞれに、メロンソーダにレモンスカッシュ、ミートスパゲッティーを注文しています。
お客様がたくさん来て、お店は急に活気づいたように忙しくなりました。
今度は、カメさんの親子が来たようです。
人魚のお姉さんは、手慣れたように次々に料理とドリンクを作っていき、カウンターの上に注文した物がてきぱきと並べられます。
それでは、次は出来た物をエイミーが持っていく番です☆
トレーの上に料理をバランスよく並べて。
さあ出発!
お昼ごはん時になって、お客さんは次から次にやって来ます。
トレーを持って、行ったり来たり。
もう、目が回るような忙しさ。
エイミー、もぅ……クタクタになってきた★★
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「エイミー、お客さんがちょっと途切れたらお昼にしていいのよ」
人魚のお姉さんが、店内の六角形の柱時計を見て、優しく声を掛けてくれるの。
なんだか天使の声みたいに聞こえるな♪
それではお客さんが途切れたみたいなので、ランチにさせて頂きます☆
店の奧でトムと並んで、シーフードスパゲッティーを食べて。
一時の休憩。
出来立てホヤホヤで、ほんっとうに美味しい!
トムにフォークで少し取ってスパゲッティーを食べさせていると、一番末っ子らしい、人魚の女の子がやって来て☆
「うわーっ。可愛いネコさん。ちょっと抱いてもいい?」
「いいよね、トム」
トムはコクンと頷いて、人魚の女の子の腕の上にぴょんと飛び乗る。
人魚の女の子は大喜び。
「私ね、エマっていうの。5人姉妹の一番末っ子。お姉ちゃん達みんな忙しいから、いつもつまんない」
エマちゃんが、エイミーの手を引っ張って外に連れ出す☆
外界は優しく弱い黄色の光りがさらさらと、ほの白い砂地の海底に、どこまでも限りなく降り注ぎ、目が醒めるように綺麗──。
エマちゃんと2人で、砂地の海底に膝付いて綺麗な貝殻探し。
あっという間に時間は過ぎていくの。
「来て来て、エイミー」
エマちゃんの呼ぶ声で、駆けて行くと。
「ほら見て」
エマちゃんが、真っ白な長三角の雄牛の角みたいな渦巻きの貝と、平らな薄いピンク色の貝殻を差し出した。
「こっちの白い巻き貝が、アムール貝で、そっちのピンクの二枚貝が桜貝」
エマちゃんがちょっと得意気に説明してくれた。
「これ、エイミーにあげる」
エマちゃんがにっこり笑って、小さなコルクの栓が付いた小瓶に貝殻を詰めて、エイミーにくれる。
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「うわぁ。本当にいいの?」
エマちゃんは、可愛くコクンってうなずいてくれる。
「 J にもあげてね。エマ、 J のこと大好き」
エマちゃん、蒼く澄んだまん丸の瞳をくりくりさせて、ふっくらしたほっぺを紅潮させながら少し照れたように話すの。
わぁ……かわいいなぁ☆
きっと大人になったら、お姉さんの人魚みたいに美人になるんだろうなあ……なんて。
一瞬。想像しちゃった☆
「うん、分かった。ほんとにありがとう」
J へのおみやげは出来たし。
あとは、閉店までの数時間。
頑張るのみ──。
閉店頃、店の照明が夜用の薄明かりに切り替わると同時に、すべての窓と入り口が開き、一斉にコバルトブルーの小さな魚たちが開かれた窓から入ってきた。
続いて、エンジェルフィッシュの群に黄色、白、黒の縞模様のお魚、ブルーと白のストライプのスマートな魚が次々に店に入ってきて、お祭りみたいな賑やかさ。
お客さんも、突然の色とりどりの魚の群に大喜び。
人魚のお姉さんが、小さなシルクの袋からパール色の丸いお菓子みたいなキラキラした白い粒を取り出してお魚さんにあげます。
エサをもらったお魚さんは、入ってきた窓から次々に出ていきます☆
「エイミー、今日はよく頑張ったね」
閉店の音楽が流れる中、人魚のお姉さんが、お店の片付けをしながら声を掛けてくれて。
ずっと立ちっぱなんしだったから。
足とかむくんでジリジリ痛いけど……なんていうのか、一つの仕事をやり遂げたっていう充実感があって。
いい一日だったなあって。
そんな感慨に耽っていると人魚のお姉さんが合格のサインと、綺麗な水色の貝殻のペンダントをエイミーの目の前に、すっと差し出すの。
「お疲れさま。これはご褒美よ」
人魚のお姉さんが、優しく首にペンダントを掛けてくれる。
透き通るような水色の貝殻のペンダントはエイミーにぴったりの長さだった。
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「それじゃあ、この後の試験も頑張ってね」
「はいっ!」
エマちゃんが、カウンターの奧で手を振ってる。もう眠る時間がきたみたい。
エマちゃん、さようなら。
優しくて綺麗な人魚のお姉さん達もさようなら。
トムを肩に載せて、ほうきに乗って。
帰る途中、ちらっと振り返ったら。
みんなが手を振ってくれた。
エイミーも元気に手を振りかえす。
みんな、頑張ってねって
励ましてくれているように思えたの。
そうそう、こんなの序の口。
頑張らなきゃね☆
エメラルドグリーンの透明な水の中で、スピードを上げながらムーンライトが淡く差し込む海面めざして飛んでいく──。
J 、きっと待ってくれてるだろうな。
そう考えると疲れなんか一気に吹き飛んで。
胸の中が幸せで一杯になった。
帰りを待ってくれてる人がいるってことは。
本当に、本当にね。
素晴らしいことなんだよ。
初めてそれが分かった気がするんだ──。
もう一人ぽっちじゃないよね?
そう信じたいよ。
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