第5話 羊さんとのランチ

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 五月五日 快晴!

 う~んっと伸びをして、朝日の中──。

 ふかふかの布団の上で軽い体操をした。


 今日が、試験の第一日目。

 頑張らないと☆自分で自分に言い聞かせるの。

 J のためにも、自分のためにもね。


 晴れてここの住民になるためには、このぐらい我慢しなくちゃね。


 サイドテーブルの上には、 J が書いてくれたこの国の簡単な地図が置いてあった。

「エイミー、一人で行けるか?」

 J が階段の下から、ちょっと心配そうに聞くの。

「大丈夫だとは思うけど……」

 急いで服を着替えて、トムを連れて下に降りていく。

 J は、いつになくご機嫌で、大きなフライパンで3人分のベーコンエッグを作っていた。


「とにかく東の方向に向かって飛んでいったら。だだっ広い見渡す限りの草原があるから。 すぐに見つかると思う……オレ、午前中ちょっと用があるからさ」

 J は軽くウィンクをして、ベーコンエッグを手際よくお皿に移しながらそう言う。

「そうなんだ……」

 エイミー、正直いって、ちょっとガッカリ。

「ま、心配すんなって」

 J が、ポンッと力強く肩を叩いてくれた。


「大丈夫。大丈夫」

 爽やかな笑顔が、今日もエイミーとトムを送り出してくれる。

 エイミーの元気のビタミン剤は、 J のその笑顔だね☆


「え~っと。羊飼いさんは……と」

 J が書いてくれた地図と、黒地に銀の方位磁石を片手に、羊飼いさんを探すの。

「エイミー、あそこあそこ!!」

 右肩の上のトムが、大声を上げる!


 彼方、向こうの方に、5、6人の羊飼いとたくさんの羊の群が小さく見えた──。

 するるるると勢いよく羊飼いさん達に向かって降りていった☆


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「おはようございます!!」

 ほうきから降りて、きちんと挨拶をした。

 孤児院出だからってバカになんかされないもんね☆


「おはよう。エイミー」

 羊飼いさん達も、元気に挨拶を返してくれた★やったぁ☆

 みんな明るくていい人達みたい。


「今日は何をお手伝いしたらいいですか?」

「そうだなあ……羊を30頭ほど連れて北東の方角に行ってくれるかな。ベンジャミンと一緒に」

「はい!」

 大きな声で元気よく答える。


 第一印象が肝心だ!印象点を稼がなきゃ。

 好印象を持ってくれたかな??ドキドキ☆

 なんといっても初日だもんね♪

 ぱっと見渡した限り、どの羊も元気そうだ。


「それじゃあ、陽の当たるところで、羊に十分草を食べさせてから、夕暮れ時までに、この同じ場所に戻って来てくれるかな?」

 羊飼いのお兄さんが、エイミーの目をじっと見て、今日の指令を与えてくれた。

「分かりました!!」

 そう答えてエイミー、さっとほうきに跨ったの。


「1、2、3……29、30匹」

 よしよし、ちゃんといる。

「それじゃ、エイミー。出発しようか」

 ベンジャミンという名前の羊飼いのお兄さんが、エイミーに声を掛ける。

 まだ若くて爽やかな好青年だ。ドキドキ☆


「今日一日よろしくお願いします」

「OK」

 ベンジャミンさんは羊飼いさんらしく。

 大らかに、にこっと笑った。



「こらこら、そっちに行くな!」

 ふ~っ、もう大変。

 羊の世話なんて、らくちんらくちんなんて思ってたけど大違い。


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 あっちに行くわ、こっちに行くわで目が回るような忙しさ★

 ほうきに乗って、あっちに飛んでこっちに飛んで。

 群からはみ出ようとする羊を連れ戻してくる☆☆

 もう汗びっしょりだぁ。


「エイミー、ごくろうさん。助かるよ」

 ベンジャミンさんが笑った。


「もうちょっとしたら休憩だから、一緒にお弁当を食べような」

 そう言って、麦わらで出来た大きな手提げカバンの中から大きなお弁当箱を取りだしてみせた。


「やっほ──!」

 もうお腹ぺこぺこ。

 天気は最高に良いし、空気はキレイだし、見晴らしはいいし。

 最高のランチタイムになりそう♪


 小高い丘の上に登って、羊さん達を見渡しながらランチを食べることにした。

 辺り一面、お花畑で。色とりどりの花が咲き乱れていた。

 羊さん達も幸せそう♪

 ベンジャミンさんが、大小のお弁当箱を4、5個と大きな水筒を取りだして緑の草の上に並べてみせた。

「エイミー、開けてごらん」

「わ──い☆」

 お弁当の中には、手作りのおいしそうなおかずがたくさん入っていた☆


 サンドイッチにハンバーグに卵焼き。

 色んな色のおにぎりがいっぱい。

 そして、お皿一杯のフルーツミックス。


 みーんな、エイミーの大好物ばっかり☆

 なんで?みんなエイミーの好きなものを知ってるんだろうね?

 おいしくて、おいしくて──。

 次々に手が伸びて、あっという間にお弁当箱はほとんど空になった。


 その時。


「こら、エイミー、ちゃんとやってっか」

 聞き慣れた声が上空からして。


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 振り向くと、 J がいた★

 相変わらず、黒のシルクハットを被って。

 タキシードをお洒落に着こなして。


 上着のポケットからシルクのハンカチを、ちらっと覗かせていた。

 J は、銀のほうきに乗って、するるるるとエイミーの所に降りてきた。


「隣村の結婚式に行って来た帰りで」

 そう言って、ベンジャミンさんに礼儀正しく挨拶をした。

 そして、エイミーの頭をこつんと肘でつついた。


「こら、エイミー。脳天気にご飯食べてる場合じゃねえぞ!」

「 J 、ちゃんとやってるよぉ」

「それだったら別にいいけど」

 J は、周りをぐるっと見渡して羊の数を数え始めた。

「全部で何匹いたんだ?エイミー」

「30匹だよ、J 」

「29匹しかいねえぞ」

 えっ?! 大急ぎで自分の目で数え直す。


 ほんっと。

 29匹しかいない。

 ベンジャミンさんも、深刻そうな顔をしている。

 エイミー、大急ぎでほうきに飛び乗った。


「急いで探してきます」

「それじゃ、オレは東の方探すから。エイミーは西の方を探してくれ。ベンジャミンさんはここに残って、他の羊の番をしてください」


 エイミーと J は二手に分かれて、迷子の羊を探し始めた。


「あ~ぁ。一体どこに行っちゃったんだろう」


 初日からこんな事になってしまって。

 エイミー、自分でも情けない。

 羊さーん、迷子の羊さーん。

 お願いだから出てきてー!!

 思わず泣き出しそうな胸の中……。


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 そのうち、空が急に曇ってきて──。

 あっという間に真っ黒な雲があちらこちらに立ちこめて。

 小雨がぱらぱらと降り始めた。

 泣きっ面に蜂っていうところ☆


 目の前には、草原が終わって、

 黒い茂みの鬱蒼とした森がそびえ立っていた。

 羊さん、こんな遠いところまで行っちゃったのかなぁ……。

 どうしようか?と思ったけど、思い切って黒い森の中へと超低空飛行しながら地面すれすれに飛んで行くの──。


 その時。


 数メートル先の切り株の横に、白い影が見えた☆

 そおっと近づいていくと!!

 羊さんが足をケガしたらしく、じっと切り株の横に横たわっていた★


「羊さん、羊さん、エイミーだよ。勝手に群から離れちゃダメじゃない」

 大急ぎで、ケガした羊さんを抱き上げて──。

 急スピードで暗い森から脱出した★


 森から出たのはいいけれど、外はどしゃ降りの大雨で、世界が遮られてどっちに帰ったらいいのか分からない。

 羊さんは見つけたけど……これじゃあ帰れない!!

 大雨の中、びしょ濡れになりながら重い羊さんを乗せてふらふら飛んでいると、向こうの方から──すごい勢いでこっちに向かって飛んで来る人影が見えた!!


 「エイミー、大丈夫か?」

 J が全身びしょ濡れになりながら大声で叫んでいる。

「 J !!」

 嬉しくて嬉しくって。

 ほうきから降りて大雨の中、J めがけて力の限り走って行った──。


「怖かったよ。 J 」

 エイミー、 J に抱きついて。 J の広くて温かい胸の中でちょっぴり泣いた。

「よしよし」

 J が優しくエイミーの頬を。

 その大きな手で撫でてくれるの。

 心の襞を暖かな滴が、To-Tu-To と静かに流れていく……。


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「心配したぞ、どこまで行ったんだろうって……おまけに雨は降ってくるし」

 J は忌々しげにどしゃ降りの空を見上げた。

 J のサラサラの髪は、雨に濡れて滴が何筋も額を伝って落ちていた。

 新品のタキシードも大雨のせいで台無しだ。

「ごめんね、 J 。でも羊は見つかったよ☆」

 二人とも、一安心してしばらく雨の中抱き合っていた。


 雨が少し小降りになってから、迷子の羊さんを連れて。エイミーと J は、ベンジャミンさんとトムの待っている小高い丘へと戻っていくの☆

 J のほうきの後ろにちょこんと乗っている羊さんはとっても可愛いかったの♭

迷子の羊さんを連れて帰ると、ベンジャミンさんはとても喜んでくれた♪


「それじゃ、今日はこれでOK」

 ベンジャミンさんが合格のサインを、機嫌よく押してくれた。

「それじゃあ、この後も頑張れよ。エイミー」

「はいっ☆」

 ベンジャミンさんはとてもにこやかに微笑んでくれたの。

 エイミー、感激しちゃった☆


 ペパーミントの家に着いて、エイミーと J はびしょ濡れの服を大急ぎで着替えた。

「ほんっと寒かったあ!」


 J がふかふかのバスタオルを、エイミーの頭の上からパサッと被せてくれた。

「しっかり体拭かないと、風邪ひくぞ!」

 そう言って J が笑った。

「今日は本当によく頑張ったな、エイミー」

 J が白い大きなバスタオルで、頭を拭きながらほめてくれる。


 暖炉の前に──雨で濡れた服を乾かしながら。

 J とエイミーとトムの三人で、湯気の立った温かいスープと焼きたてのパンとサラダの晩ごはんを食べた。

 その後。

 二階のエイミーの部屋に上がって、ごろっと大きなベットに横になったの。


 そして……今日一日のことを、反省を込めて思い起こしながら眠りに就くことにしたの。


 体中のあちこちが、ズキズキと痛かった★


 でも、何とも言えない充実感があって……。


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 疲れも手伝って。

 いつの間にか。

 エイミー。

 大きなベットの上で。

 ぐっすり眠り込んでいたの──。

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