一人じゃない夜ご飯






「ふぅ~、ようやく終わった」


 出された宿題をこなしていると、そこそこ時間が経っていた。こつこつやっておかないと、学校の授業に本格的についていけなくなっちゃうのは前の定期テストのときに思い知った。仕方ないので、嫌々ながらも宿題を片付けた私を誰か褒めてほしい。


 もうそろそろ夜ご飯の時間だ。流石にお腹が空いたな。勉強道具を片付け、階段を下りる。今日の夜ご飯は何かな? 唐揚げとかだといいな。そんなことを思いながらリビングのドアを開く。



「ママー、今日の夜ご……」



 暗いままのリビングを見て思い出す。そうだった、ママはいないんだ。今日からは私が作らないといけないんだっけ。……そっか、そうだよね。まあ、今日は疲れたし外食しよう。最近行ってなかったし、近くのファミレスにでも行こう。



 軽く支度をして、すぐに家を出る。お腹空いたし早く行こうと、玄関のドアを開けると、誰かがいがみ合っている声が聞こえた。



「帰れば?」「麻白こそ帰ったらいいんじゃない?」




 前を見れば、キャリーケースを引いてハルちゃんとシロちゃんは玄関の前で喧嘩しているのが見えた。人んちの前で何をやってるんだ? 家の前まで来てたらインターホンでも押したらいいのに。少し呆れながら、私は声を掛けた。


「何やってるの? 二人とも」

「あっ、あかねっち。こんばんは」

「あかね、さっきぶり」


 一瞬で言い争っていた態度から示し合わせたように、何事もなかったように話しかけてくる姿は、不気味を通り越えて、もはや面白かった。やっぱり二人は仲良いんだなということを再確認する。


 っていうか、二人はキャリーケースを持ってきてるってことはそういうことだよね? 私、何も聞いてないんだけど。……まあ、それは一旦置いておこう。早く夜ご飯食べたいし。


「……ファミレス行こうと思っていたんだけど、まだ夜ご飯食べてないんだったら一緒に行く?」


 二人は勢いよく頷いてくれたので、とりあえずファミレスに行くことになった。流石に重たい荷物を持って行かせるのは忍びなかったので、家の中に置いてこさせ、鍵を忘れずにかけて、私たちは近くのファミレスに足を運んだ。





「私はこのハンバーグのやつにしようかな」

「僕はカルボナーラにしよう。麻白は?」

「これ」

「分かった。じゃあ、店員さん、呼んじゃうね?」


 スムーズにメニューを決めて、料理が届くのを待つ。待っている間にさっきのことを問い詰めても良かったが、途中で料理が来てしまいそうなので、それは後にして、代わりに疑問に思ったことを聞く。


「あのさ、二人はなんでいつも私の前に座るの?」


 カフェとかファミレスとかに三人で、一対二に別れて座るとき、大抵私が一の方だった。二人が付き合っているんじゃないかと思ったのは、そういうこともあった。それが勘違いだと知った今は、逆にどうして私が一人側なのか、単純に気になったので聞いてみた。


「えっ、喧嘩になるからだけど?」

「あかねの隣にどっちかが座るなんて不公平。だから平等にあかねの前に座ってる」


 二人の目は真剣そのものだった。そんなバカみたいな理由でと思ったけど、変につついて蛇を出すのも怖く、私は『そ、そうなんだ』と答える他なかった。



 このファミレスにある間違い探しを私とハルちゃんで解いていると、次第に料理が届き始めた。シロちゃんはすぐに答えが分かってしまうので、ヒントを出す係だ。結局全部の料理がそろった後も分からなかったので、シロちゃんに答えを聞き、すっきりしたところで、皆で食べ始める。






「はあ~、おいしかった」

「うん、久しぶりに食べると美味しいよね」


 毎日ファミレスだと流石に飽きるけど、たまに食べると信じられないくらい美味しく感じるよね。調子に乗って、デザートも頼もうか悩んだけど、やっぱりやめておく。最近運動していないから、お腹のお肉が気になってきたところだ。そろそろ水着の季節だし、ここは我慢しよう。


「で、二人はどうして、家の前にいたの? いや、大体の予想はついているんだけどね」


 ようやく心置きなく追求できるようになったので、二人にそう問いかけてみると、ハルちゃんたちはそれぞれ自信満々に答えてきた。


「それはもちろん、あかねっちを助けるために来たのさ。ほら、今日から一人暮らしなんでしょ?」

「わたしも、あかねを一人にさせるのは不安だった」


 まあ、そうだよね。キャリーケースを持ってきたってことは泊まる意思があるってことだもんね。二人の気持ちは正直とても嬉しかった。やっぱり一人だとどうしても寂しいところがある。ただ、それを素直に受け取れるかと言われれば微妙なところだった。


 ただの幼馴染のときだったら一も二もなく飛びついていたと思う。でも、今は違う。恋人という関係が私の判断に待ったをかけた。今の状態で二人と一緒にいたら、なんていうかドキドキしちゃって毎日大変そうだ。


 かと言って、それをそのまま言うわけにもいかない。なんかいい感じの断り方ないかな? あっ、こんなのはどうかな。



「二人の気持ちは嬉しいんだけどね。でも、ほらそういうのって、親の許可が必要じゃん? だからちょっと難しいかも」


これなら、二人を傷つけずに、かつ完璧に断れる。例えば、今許可を取ってって言われても、連絡するふりをして、許可が出なかったって嘘を言えばいいからね。二人に嘘をつくのは気が引けるけど、私の平穏な毎日のためには致し方ない。


しかし、事態は私の予測通りには進まない。


「あかねのお母さんからはすでに了承を得ている。ほら、これがその証拠」

「僕も先にあかねっちのママに連絡しておいたからね。もちろんオッケーだって」


 根回しが早すぎるよ、二人とも。私の考えた最強の言い訳が一瞬で破られちゃったよ。っていうか、ママ! 私に言う前になんで先に二人に許可出しちゃうの? ど、どうしよう。と、とりあえず時間を稼がないと。


「さ、先に、私に連絡してくれれば良かったのに」

「連絡はした。でも、既読はつかなかった」

「えっ? ああ、そっか。宿題してたから電源つけてなかったや」


 そうか、それで先にママの方に。にしても、二人とも私のママと個人的に連絡を取り合えるの? 知らなかったんだけど。私は二人のお母さんのやつ持ってないよ、流石に。あっ、そうだ、二人のお母さんたちの方から攻めたらいいんだ。



「でもさ、ハルちゃんたちのお母さんたちに悪いよ。私は一人で大丈夫だからさ、家に居てあげた方がいいんじゃないかな?」

「当然、了承は得ている」

「僕も。良い機会だから、あかねっちのご両親が許してくれるならぜひそうさせてもらいなさい、だって。だからさ、あかねっち。いいでしょ?」



 そんなに期待された目で見られたら、もう断ることなんてできなかった。どうせ一旦は荷物のために家に帰るんだから、続きは家で話そう、ということになったが、多分押し切られてしまうだろう。はあ、どうしてこうなっちゃったんだろう。


 心の中ではそう思うも、やっぱり嬉しいことには変わらず、緩みかけた口元を戻すのに、私は必死だった。













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