お昼は一緒
学校の授業も始まってしまえばなんてことはなく、たっぷり寝たおかげで冴えた頭で授業を受けていれば、あっという間にお昼休みに入った。中学の頃はまだ、給食があったから席の移動とかはできなかったけど、高校からはお弁当で、どこに食べたって良い。だから、いつもはハルちゃんたちのところに行って一緒にお弁当を食べていた。
でもそれはもうやめにしようと思うのだ。朝は私がシロちゃんを奪っちゃったから、きっとお昼ぐらいは恋人と一緒に居たいだろう。代わりに、トモちゃんたちと一緒に食べることにしよう。こういうところから一歩ずつ、幼馴染離れを始めていかないと。
久しぶりにクラス内に留まって辺りを見回せば、ちょうどトモちゃんたちが机を並べて食べようとしていたので、そこに突撃する。
「ねえ、私も一緒に食べてもいい?」
「おう、もちろんいいぜ。だけど、幼馴染たちは? いつも一緒に食ってたろ」
「ああ、まあ、今日からは別々に食べようってことになったんだよね」
「そうか。でもよ、向こうはそう思ってないみたいだぜ」
「えっ?」
トモちゃんが持ってる菓子パンで示した方を振り向けば、ハルちゃんとシロちゃんがいた。二人とも前に来たときのことを反省したのか、極限まで気配を消してるみたいなので、まだ気づかれていなかったけど、騒ぎになるのは時間の問題だった。
多分、用があるのは私だ。早く行ってあげないとまた騒ぎになっちゃう。トモちゃんたちに断りを入れて、すぐにハルちゃんたちの元へ向かった。ハルちゃんたちは私の手をつかんでいつもの場所まで連れていく。私たちが見つけた、穴場のスポットに。
「あかねっち、なんで来なかったの?」
「それに、他の子と食べようとしていた」
着くや否や、二人によって私への尋問が始まる。逃げる気なんて毛頭なかったけど、一気に詰め寄られて、逃げ場がなくなる。二人の方が良いかと思って、と言いかけて、二人の剣幕の前に言葉が詰まり、結局短い謝罪の言葉しか出なかった。
「ごめん」
「謝らなくていい。理由が訊きたい」
素直に謝るも、二人の怒りは消えないようだった。いや、怒りではないのかもしれない。ただ疑問に思っているだけなのかも。とにかく聞かれた以上は答えないといけなかった。
「い、いや、お昼は二人で食べるかなと思って」
「なんで?」
「あかねっちがいないと悲しいよ」
不思議そうな、悲しそうな、目を見て、私は気付く。そうだよね、急に距離を取られたら、二人だって嫌だよね。ずっと自分の気持ちばっかり気にしていたせいで、ホントの意味で二人の気持ちを考えられていなかった。
今思えば、お昼に行かないってことも言ってなかった。いつも私が二人のクラスの方に行ってたのに、理由も言わず急に来なくなったら、そりゃわけ分からないし悲しくもなるよね。
「ごめん。ちょっと先走っちゃったみたい」
私が反省し、素直にそう言えば、二人はようやく追及の手を緩めてくれた。
「分かった。これからも一緒に食べてくれればいい」
「そうだね。お昼は三人で食べよう」
「時間なくなっちゃうし、早く食べよう」
私の号令で手を合わせ、いただきますをしてから、お弁当を食べ始める。さっきまでの不穏な空気はどこへやら、いつものように楽しくおしゃべりをしながらお昼を楽しんだ。お弁当の具を交換しながら食べ終わり、三人でゆったりしていると、ふと思ったことがあった。
「ねえ、ハルちゃん?」
「ん、どうかした?」
「登下校のことなんだけど、ハルちゃんはそれでいいの?」
シロちゃんと一緒に登校できたのは凄い嬉しかった。これからずっと一人で登校するものだとばかり思っていたから、なおのこと嬉しかった。だけど、そうしたらハルちゃんが一人になっちゃう。朝は二人がそれでいいならと思っていたけど、ハルちゃんは優しいから自分の意見を押し込めているかもしれない。
それが原因で、二人が不仲になってしまったりしたら、そっちの方が嫌だった。ハルちゃんたちの仲を気にして、そう聞いてみると、ハルちゃんは予想に反して笑顔を見せる。
「うん、大丈夫だよ。だって明日は僕の番だからね」
「明日はハルちゃんの番?」
そう言えば、確かに今朝、シロちゃんも今日はわたしの日って言ってたな。あの後すぐにママに追い出されたから慌ただしくて、気にできなかったけど。そんなことを考えていると、ハルちゃんは私の問いを肯定する。
「そっ、明日は僕の日。行きも帰りもあかねっちと二人きり」
「その次はわたしの番。交互にしようって、ハルと決めた」
なるほど? 私は付き合っている二人が一緒に居たらどうかなと思って提案した二人きりの登下校だったけど、二人は私ともう一人っていう意味でとらえたのか。……なんで?
意味が分からなかったけど、ちゃんと考えたら一つの可能性に思い当たった。そうか、これは私を気遣ってくれているのか。付き合っている彼女たちと一緒に居たら、私の肩身が狭いだろうと、あえて登下校のときは私とハルちゃんかシロちゃんの二人の時間にしてくれているんだ。
それならもう私がぐちぐち言うのはお門違いだ。二人の気遣いは素直に受け取って、他の場所で返していけばいい。
「ありがとう。二人とも」
「ううん、こちらこそ」
その日の放課後、約束通りシロちゃんと一緒に帰る。やっぱり上機嫌なシロちゃんに、聞いてみたいことがあった。ハルちゃんとシロちゃんの仲について、いつから付き合い始めたのか、どんな感じなのか聞きたかった。
「ねえ、シロちゃん。ハルちゃんとはどうなの?」
「……仲良くしてる」
「それだけ?」
「それ以上ある?」
まあ、そっか。これでハルちゃんとの関係を赤裸々に語られても困るか。でも、ハルちゃんたちはどこまでいってるのか気になるなあ。いつも手を繋ぐことはしてるけど、あっ、もしかして恋人繋ぎにしてるとか? キスとかもしたことあるのかなあ? その先は? ……ん? 女の子同士でキスの先ってあるのか?
そんなことを悶々と考えていると、急にぶんぶんと腕を振られ、思考が中断される。
「な、なあに、シロちゃん?」
「あかね。ハルのことは考えなくていい。今はわたしのことだけ考えて」
「あっ、そうだね。一緒に帰ってるのはシロちゃんだもんね」
ごめんごめんと謝りながら、一緒に歩く。いつもよりぎゅーっと手を握ってくるのが、その外見も相まって子どもらしくて可愛かった。結局ハルちゃんとの仲は訊けずじまいで家に着いてしまった。まあ、いっか、いつだって聞けるだろうし。そう思う今日この頃なのであった。
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作者の梨の全てです。お目汚しかとは思いますが少しだけあとがきをさせてください。皆様のおかげで、週間ランキング、恋愛ジャンルで8位、総合でも300位代に入ることができました。本当にありがとうございます。
これからももっともっと上を目指していきたいと思っておりますので、もしよろしければ、ハートや星などで作品を応援してくださると大変嬉しく思います。
また、コメントをしてくださると、モチベーションが上がりますのでぜひ送ってください。遅れることはあるかもしれませんが、返信も必ずいたします。
長くなりましたが、これからも本作品にお付き合いいただけると幸いです。
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