第2話 嘘つきとわたし

 嘘つきなお客さんがいる。

 毎月の支払は滞り、常に3カ月分延滞している。

 払込票の支払期限を過ぎても払わない。契約が失効になる前日にやっと一か月分を支払いに来るような、首の皮一枚がなんとか繋がっているお客さん。


 料金を延滞しているお客さんなんてザラにいる。

 このお客さんの他とは違うところは、異常なほどに嘘を吐くところだ。


「〇日にお金を支払いに店に行く」と言われて来てもらったことは一度もない。

「払込票が届いていなかったから払えなかった」

「郵便屋さんが間違えてお隣さんのポストに入れていたから払えなかった」

「子どもが熱を出しているから支払いに行けない」

「子どもが救急車で運ばれたから支払いに行けない」


 そんな嘘を、息を吐くように平気で言っちゃう人だ。


 一番最悪なのは、料金を払っていないのに「払った」と言うところだ。


 子どもが熱出したとか、払っていないのに払ったとか言われたら、こちらから何も言えなくなる。嘘がバレたときには、首の皮がもう数ミリしか繋がっていないところまでいってしまっているのに。


 どうしてこんないらない嘘を吐くんだろう。

 嘘を吐くならせめて、あなたとわたし、どちらかにメリットのある嘘を吐いてほしい。


 今日も嘘を吐かれて、すごく腹が立った。

 わたしにとって、怒りをおさえるのはとても難しい。

 それにわたしはもともと攻撃的なタイプだから、論破したいとか嘘を暴きたいとか、そんな衝動がわき上がってくる。

 それを我慢するのがほんとうにほんとうに大変だ。


 お客さんにも事情があるのだろうとは思う。

 でも、だったら嘘なんて吐かずに正直に話してほしい。

 そっちのほうがお互いにとって良いと思うんだけどな。


 わたし、嘘を吐かれるのはすごく苦手だけど、全ての嘘がいけないことだとは思っていない。

 でも、嘘を吐くなら、それがたとえ優しい嘘だったとしても、最後まで騙したままでいてほしい。

 バレない嘘は嘘じゃない。バレたら優しい嘘もただの嘘だ。


 ほとんどみんな、わたしより賢いから、わたしにたくさん嘘を吐く。

 たぶんみんなも、いろんな人に嘘を吐かれている。


 騙されてあげるときもあるけど、本気で騙されるときも、あとで嘘に気付くときもある。

 あとで嘘に気付いたときが一番いやだ。騙されていたときの自分を思い出して、情けなくなったり、恥ずかしくなったりするから。


 嘘を吐き続けられなくなって、あとで嘘だったって言われるのもいやだ。

 それが一番ショックが大きいかもしれない。


 嘘って簡単に吐けるけど、相手を騙し続けることはけっこう難しい。

 その覚悟ができないくらいの嘘と根性なら吐かないほうがずっとまし。

 わたしはそう思う。


 嘘はきらいだよ。すごくきらい。

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