食洗器とわたし

@pospom

第1話 食洗器とわたし

 ちっさいときから片付けが苦手だった。

 足の踏み場もない床。敷布団の下にはなぜかアーモンドが落ちている。

 読んだ本を本棚に戻さないので、机の上には本が積み上がっている。

 あまりに汚いから、家族は実家のわたしの部屋のことを「豚小屋」と呼んでいた。


 社会人になって一人暮らしをはじめてもそれは変わらなかった。

 それどころか、実家ではお母さんがしてくれていた皿洗いも、洗濯も、全部自分でしないといけないのだから、余計に散らかり放題だ。


 シンクは一週間分のお皿が積み上がっている。コップやお箸は水洗いして再利用だ。

 そして休日に一気に洗う。洗い物が多い上にわたしは段取りが悪いから、皿洗いするだけでも数時間かかる。皿洗いしたあとは服がびちょびちょになるし。ああ、最悪。


 ある日、友だちと電話しているときに、買いたい家電の話になった。

 わたしはドラム洗濯機が欲しいと言った。ある動画で「人生で一番買って良かったもの」と紹介されていたからだ。

 一方友だちは食洗器と言った。洗濯機よりも使用頻度が高いからとも。


 友だちの話を聞いてから、食洗器が欲しくて欲しくてしかたなくなった。

 次の日には食洗器を衝動買いしていた。工事不要の安いものだが。


 食洗器が届き、予想以上の大きさに戸惑った。置く場所をなんとか見つけて狭苦しいキッチンに押し込んだものの、思わずため息が漏れる。

 どうせ飽きっぽいわたしのことだ。すぐに飽きてこの子もゴミになるのだろうと思った。


 まあ、飽きるまではよろしくね。

 そんな気持ちで、はじめて食洗器を起動した。


 ガラスを通して食洗器の中を見る。水がびしゃびしゃ出て、わたしの代わりにお皿を洗ってくれている。


 この子は、わたしの代わりに家事をしてくれているのだ。

 そう感じた瞬間、愛着がドバドバと湧いた。


 一生懸命、一時間かけて丁寧に、お皿を洗い、乾かしてくれる。

 それはまるで、疲れた足を引きずって仕事から帰ってきたわたしを労わってくれる優しい夫のような。そんな存在に感じた。

 そうか。この子がわたしの夫だったのか。とうとうわたしにも夫が。


 食洗器という夫がうちにやってきてからは、シンクはいつもピカピカだ。

 ときたま遊びにくるお母さんは、お皿一枚もないシンクにいつも驚いている。


「食洗器買って正解やったね」

「うん。最高の夫」


 わたしが誰かに「人生で一番買ってよかったものは?」と訊かれたら、迷わず食洗器と答えるだろう。

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