式神ラプソディ

船越麻央

式神狂詩曲

「シキブ~待ってえ~」


 何で俺がこうなるんだ。カンベンして欲しい。尾野小町が追いかけて来る。あの出来損ないの新米女式神。

「早く来い! ダッシュだっ!」

 俺は階段の上からゲキを飛ばす。尾野小町が息を切らしながら駆け上がって来た。

「もう、シキブったら! やっと二人きりになれたわね!」

「俺はシキブじゃない! 式部だ! ちゃんと変換しろ! それにこんなんじゃ一人前の式神にはなれないぞ!」

「な、なによ! シキブのいじわる!」


「二人とも何やってるの! 村崎も尾野さんも階段を走っちゃダメでしょ!」


 今度はクラスメイトの峯雲葉月の登場か。俺は肩をすくめた。


◇ ◇ ◇


 俺の名は村崎式部。白金学院高校に在学中だ。なぜ式神の俺が高校生になったか。これにはワケがある。

 我が君、金髪碧眼の美女天霧吹雪の仕業だ。新たに式神を一人雇い入れたのはいいが、あろうことか元女性トップアイドル、尾野小町! まあ俺も元死神だから文句は言えんが。どういう経緯で彼女が天霧吹雪の式神になったのかは分からない。だが俺は新米教育係を押し付けられた。


 もちろん俺は抗議したものの受け入れられず、俺と尾野小町はこの白金学院高校に放り込まれた。卒業するまでに一人前の式神にせよとのミッションである。

 まったく不適切にもほどがある。


◇ ◇ ◇


「やあ峯雲、まだいたのか。早く帰ったほうがいいぞ」

「村崎こそ何やってんの? 放課後に尾野さんと二人で……まさか……」

「み、峯雲さん! 誤解よ誤解。だ、誰がシキブなんかと……」

「なにっ! それは俺のセリフだ! 尾野、もう帰るぞ。峯雲じゃあな」

「ちょっと、待ちなさいよ! 何よ二人とも、いつもコソコソと! 早波センセーに言いつけるわよ!」


 いつもこんな具合で尾野小町の新人教育はまったくはかどっていない。もっとも彼女は容姿端麗で学業優秀なのだ。悪いのは性格だけだな。何しろ自分を世界三大美女の一人だと思っているからタチが悪い。

 軽くウエーブのかかった柔らかそうな髪、色白肌に大きな瞳。目鼻立ちの整った輝くような美人なのは認めるが、楊貴妃やクレオパトラと同等にしちゃいかんよ。 


「ハハハ、お前もタイヘンだな。まあしっかりやれよ」

 式神仲間の瀬井少納言のヤツまるで他人事だ。俺はいつもからかわれる。

「うるさいっ! お前が代わってくれ。手に負えないよ!」

「ダ、ダメ! シキブはアタシの彼氏、じゃなくて、えーと教育係なんだから!」

「だから、俺はシキブじゃなくて式部だ、式部!」

「アハハハ、いつまで痴話ゲンカやってろ~アハハハ」

「もう瀬井少納言なんかほっといて、アタシたちの将来について話し合いましょ。あれ? シキブどこに行くの~待って、待ちなさい!」

 これではどっちが教育係かわからん。この村崎式部もなめられたもんだ。


◇ ◇ ◇


「それで、尾野小町さんとはどうなってるの?」


 俺はクラス担任の早波若葉に職員室片隅の小部屋で問い詰められていた。このセンセーは俺たちの事情をすべて承知している。まあ今は生徒と教師の関係だが。


「いや、どうと言われても……」

「彼女、学業は文句なしね。生活態度はどうかしら。特に異性関係の問題は?」

「な、なんで俺に聞くんですか! ないです、問題ないです!」

「そ、そう、それならよかった。しっかりしてよ。と、ところで式部クン、と言うか村崎さん……」

 早波若葉はうつむいてしまった。相変わらずポニーテールがよく似合っている。いや、ダメだ、ダメダメ。俺と彼女の関係はだな、あくまでも生徒と教師。そういう設定なのだからしょうがない。このミッションが完了すれば話は別だろうけど……。


「シキブ~こんな所で何やってんの~」

「わ、わわわ、小町! ここは職員室だぞ!」

「村崎! もう油断もスキもないんだから! さっさと行くわよ」

「み、峯雲まで! ちょっと待ってくれ! 俺は早波センセーと話が……」


 俺はあきれ返っている早波若葉センセーの前から、尾野小町と峯雲葉月に拉致され

た。

 

◇ ◇ ◇


 ちょくちょく顔を出す峯雲葉月。彼女には姉貴がいる。峯雲深雪という名でこの白金学院高校から名門若百合女子大に進み、医大生と学生ケッコンした。いずれはある大病院の院長夫人だそうだ。早波若葉センセーの同学年で友人でもある。

 そんな姉貴に妹も負けてはいない。ボーイッシュな彼女、なぜか俺と尾野小町に色々とチョッカイを出してくる。まったくいい迷惑だよ。


「ちょっと、何がいい迷惑よ! ワタシはオネーチャンと違って一途なんだから。ねえ村崎、ワタシと付き合おうよ~」

「ななな、み、峯雲さん! シキブはアタシの教育係なんだから! シキブ、次は何をやるの? 放課後いつもの場所で……」

「えっ! ず、ずるい! 尾野さん抜け駆けはダメよ!」

「峯雲さんに尾野さん、いったい何の話? 村崎式部クンのことかしら。センセーに説明しなさい!」


 俺は頭を抱えて逃げ出した。


◇ ◇ ◇


 (こんにちは、這い寄る混沌天霧吹雪です。わたしの式神二人がお騒がせしてます。村崎式部と尾野小町、どうなるのでしょうかねえ。峯雲葉月さんや早波若葉先生まで巻き込んで、何をやってるのかしら。式神同士の恋愛なんて聞いたことないし。でも案外似合いのカップルかも。それにしても村崎式部があんなヘタレとは知りませんでした。あれでも元死神なんですけどねえ。まああの二人うまくいくといいですね。式部しっかりしなさいよ!)。



 

 


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式神ラプソディ 船越麻央 @funakoshimao

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