第5話、クルック

「クルック機、発艦どうぞ」

 管制官から許可が出た。

「待ちわびたぜっ」

 クルックが”ホウセンカ”のスロットルを大きく開けた。


 ドオオン


 飛行艇空母”キサラギ”の飛行甲板から、斜め上に飛び出した。

「うわっ、クルック機、離艦時の安全速度を守れっ」

 離発着訓練中である。


「どう思う~、ヒイラギ中尉~」

 メルル―テが艦橋から、クルックの離艦を見ていた。

「腕はいいんですけど、機体の扱いが荒いですよね」

「常にいうこと聞け~って感じです」

 ヒイラギと呼ばれた二〇歳前半の女性が答えた。

 彼女は、空母”キサラギ”に配備されている、”ホウセンカ”の飛行隊長である。


 約五年前、”レンマ王国”と”シルルート王国”、そして”ハナゾノ帝国”の三か国が共同で飛行艇『ホウセンカ』を開発した。

 その時の初代テストパイロットが、メルルーテとイナバである。

 二代目のテストパイロットとして派遣されたのがヒイラギだった。


「ん、整備士に対する態度も横暴」

 同じくヒイラギのコパイロットをした、ヒビキ大尉が言う。


「う~ん」

――かといって、飛行のたびに機体をほぼフルメンテするイオリ少尉も、それはそれで困るんだけど~

 

 イオリは格納庫からほぼ出て来ていない。


「イオリもクルックも濃いわね~」

 メルル―テの言葉に、ヒイラギとヒビキは大きくうなずいた。



  飛行艇空母”キサラギ”は、レンマ王国王都”レンマ”に少し立ち寄り、東方最大の空軍基地”カラツ”を目指す。 

 イナバとメルル―テのコノハナ子爵領が”カラツ基地”の北方にあった。

 

”シラフル湖”はもう少し東に行った辺境地だ。


 ”カラツ基地”が見えてきた。

 基地所属の飛竜に乗った”竜騎士”が出迎えてくれる。


「お帰りなさい。 メルルーテ大佐~」 

 赤や青や黒い飛竜と竜騎士、10体くらいが出迎えてくれた。


「一番ドッグへ着艦どうぞ」


 ”キサラギ”がランディングギアを出して着艦した。



 ”カラツ基地”は、メルル―テが隊長を務める”レンマ空軍教導部隊”の本部がある。

 特に、新しい機種である”飛行艇”の”教導”を行っていた。

 また、”飛行艇”の重整備フルオーバーホールを行えるのは、”カティサーク工廠”とここだけである。(←イオリは別)


「というわけで、教導部に10機ある”ホウセンカ”の半分を”ゲッカビジン”に換装するわよ~」

 メルルーテだ。

”ゲッカビジン”の評価試験も同時に行うのだ。


「うおお、まかせろーー」

 何故か、パイロットであるイオリが一番盛り上がっていた。

 換装させろーー


「あ~、あれは変態の一種だよな~」

 整備長のイナバがしみじみと言った。

 いじれて飛ばせてすごいんだけど


 ビクッ


 豹変ひょうへんしたイオリをクルックが振り返ってまじまじと見た。

 ――だ、大丈夫か?こいつ


 ファラクは、生暖かい笑顔を浮かべてイオリを見ている。


 イオリのおかげで通常の三倍の速さで換装が終わった。


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飛行艇を愛でていたら、砂漠の踊り子さんに愛でられることになったのです。熱砂の潜砂艦物語 touhu・kinugosi @touhukinugosi

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