第4話、セントウ

 イオリとファラクは、”飛行艇空母、キサラギ”の艦内にある”大浴場”に向かった。

 ”男”と”女”と書かれた暖簾のれんをくぐり”セントウ”に入る。



 ”レンマ王国”は約200年前に異世界から渡ってきた”タチバナ・レンマ”が開いた国である。

 温暖で湿潤な気候もあるが、彼は好んで彼の故郷の文化である、”オンセン”や”セントウ”を国中に広めた。

 他、”サクラ”も国の花として有名である。

 大型の飛行艦には、”セントウ”のような入浴施設は必ず設置されている。



 大浴場の壁には、異世界の霊峰の絵が描かれている。

 三角形の山に白い雪が積もっていた。

 20人くらいが一度に入れる浴場の壁は、大きなガラス張りになっている。

 飛行中の空の景色を一望できた。

 春だ。

 所々にある里山に、サクラの白い花が咲いているのが見えた。


「しっかり背中をこするのよ~」

 ファラクが壁越しに大きな声を出した。

 天井部分で繋がっている。


「うおっ」

 男湯からイオリの驚いたような声が聞こえた。

 

 ファラクは、スレンダーな体に大きめの胸をしている。

 褐色の肌には、植物のツタのような”魔紋”が薄っすらと銀色で書かれていた。


「あら、こんにちわ~」

 メルルーテ大佐が入ってきた。

 小柄な体に小ぶりだが形がいい胸。

 彼女は、ハーフエルフだ。

 少女のような外見だが、御年おんとし85歳。

 イナバとの間に、子供が三人いた。


「こんにちわ~」

 体を洗っているファラクの隣に、メルル―テが座る。

 ”魔紋”をちらりと見た。


「”イザナミ”の魔紋はどう~」

 

 ”魔紋”は砂漠の民が、いにしえから伝える古い”魔術”だ。

 ”魔術”はこの世界を”侵す”危険な力である。

 その代わり、この世界のルールを無視した強力な力でもあるのだ。

 

「だいぶ慣れてきました」 

 たまにクラりとするけど。


「絶対に無理は駄目よ~」


「はいっ」


 ”魔紋”は乙女の柔肌をけがすことで”魔術”を制御する。

 最近は、ハナゾノ帝国の”魔術学園”の”魔封じの術式”の研究で”魔術”も身近なものになりつつあるのだが。



「よっ、イオリ」

 イナバだ。

 メルル―テと一緒に風呂に入りに来た。


「イナバ整備長」

 イオリが体を擦っている。


「イザナミはどうだ? バラしてるんだろ」

 となりで、体を擦り始めた。


「……垂直尾翼無しで可変翼機……」

「じゃじゃ馬ですね」

 ファラクの顔が頭をよぎる。

 ふふ

 思わず笑みをこぼした。


「ふ~ん」

 笑っているイオリを見ながら、

 こんな顔で笑えるんだ



「イナバ整備長、質問があります」

 顔から笑いをひっこめた。


「なんだ?」


「ファラクの”船巫女ふなみこ”とは何ですか?」

 イオリがイナバに顔を向ける。


「うーん”船巫女”か~」

「彼女が砂漠から来たのは分かるな」

 イナバがあごに手を当てる。


「はい」


「砂漠には、古くから砂の上を走る船があるんだ」


砂上船さじょうせん、ですね」


「で、”船巫女”は、自分の体と砂上船の”魔紋”を使って特殊な魔術を使う者のことだ」


「…魔術…ですか」


「そうだ。 例えば、”操砂”の魔紋」

「これは船の周りの砂を操るものだ」

「他にも、”躁風”の魔紋」

「基本、砂上船は、帆に風を受けて動くぞ」

「”製水”の魔紋はすごいぞ」

「砂漠で水を作り出すからな」


「忘れるなよ、”船巫女”《ファラク》は”船”《イザナミ》のたましいだからな」


「イザナミは、”船”なんですね」

「そうかっ。 だから”イザナミ”には収納式のマストがついてるんだっ」

 イオリは、うんうんとうなずいている。

 

「ん? いやそれは少しちがうのでは」

 イナバは何とも言えない表情を浮かべた。

「……とりあえず、ファラクを大事にしろよ」


「イナバ~、石鹸かして~」

 メルル―テが女湯から声をかけた。


「はいよ~」

 上の隙間から石鹸を投げる。


「セントウデートッ!!」

 ファラクは、最近読んだ”最新版、レンマ王国、デート百選”という本に、”セントウデート”は高レベル新婚カップル向けだとのっていた。


 ファラクは、一緒にセントウに来たイオリを思い浮かべて、

 ま、まだ早いわっっ

 うつむいて赤くなった顔をかくした。



 いま、飛行艇空母”キサラギ”には、三機の”イザナミ”に関係する機体が乗っている。


 一機は、ある事情から封印されている、同型機の”ヨモツヒラサカ”


 もう二機は、機種変換訓練用に、”イザナミ”と同じ機体に、”魔紋”を描かずジェットを単発にした『ネコジャラシ』である。


 なぜ『ネコジャラシ』かというと、ハナゾノ学園の開発に深く関わったリント教授が、

「可変翼後退機は、やっぱり”トムキャット”でしょう」

 といい、”ネコジャラシ”に決まった。

 

 イオリとクルックは、この世界初と言ってもいい無垂直尾翼機かつ可変翼後退機を、”ネコジャラシ”で訓練することになる。


 イオリは、”イザナミ”を知っていたため、”ネコジャラシ”は一日でバラして組み立てることが出来た。

 コレもバラさせろーー

 ほぼ、格納庫で寝泊まりしているイオリである。


 ファラクもこまめにイオリの世話をしていた。


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