第4話、セントウ
イオリとファラクは、”飛行艇空母、キサラギ”の艦内にある”大浴場”に向かった。
”男”と”女”と書かれた
◆
”レンマ王国”は約200年前に異世界から渡ってきた”タチバナ・レンマ”が開いた国である。
温暖で湿潤な気候もあるが、彼は好んで彼の故郷の文化である、”オンセン”や”セントウ”を国中に広めた。
他、”サクラ”も国の花として有名である。
大型の飛行艦には、”セントウ”のような入浴施設は必ず設置されている。
◆
大浴場の壁には、異世界の霊峰の絵が描かれている。
三角形の山に白い雪が積もっていた。
20人くらいが一度に入れる浴場の壁は、大きなガラス張りになっている。
飛行中の空の景色を一望できた。
春だ。
所々にある里山に、サクラの白い花が咲いているのが見えた。
「しっかり背中をこするのよ~」
ファラクが壁越しに大きな声を出した。
天井部分で繋がっている。
「うおっ」
男湯からイオリの驚いたような声が聞こえた。
ファラクは、スレンダーな体に大きめの胸をしている。
褐色の肌には、植物のツタのような”魔紋”が薄っすらと銀色で書かれていた。
「あら、こんにちわ~」
メルルーテ大佐が入ってきた。
小柄な体に小ぶりだが形がいい胸。
彼女は、ハーフエルフだ。
少女のような外見だが、
イナバとの間に、子供が三人いた。
「こんにちわ~」
体を洗っているファラクの隣に、メルル―テが座る。
”魔紋”をちらりと見た。
「”イザナミ”の魔紋はどう~」
”魔紋”は砂漠の民が、いにしえから伝える古い”魔術”だ。
”魔術”はこの世界を”侵す”危険な力である。
その代わり、この世界のルールを無視した強力な力でもあるのだ。
「だいぶ慣れてきました」
たまにクラりとするけど。
「絶対に無理は駄目よ~」
「はいっ」
”魔紋”は乙女の柔肌を
最近は、ハナゾノ帝国の”魔術学園”の”魔封じの術式”の研究で”魔術”も身近なものになりつつあるのだが。
◆
「よっ、イオリ」
イナバだ。
メルル―テと一緒に風呂に入りに来た。
「イナバ整備長」
イオリが体を擦っている。
「イザナミはどうだ? バラしてるんだろ」
となりで、体を擦り始めた。
「……垂直尾翼無しで可変翼機……」
「じゃじゃ馬ですね」
ファラクの顔が頭をよぎる。
ふふ
思わず笑みをこぼした。
「ふ~ん」
笑っているイオリを見ながら、
こんな顔で笑えるんだ
「イナバ整備長、質問があります」
顔から笑いをひっこめた。
「なんだ?」
「ファラクの”
イオリがイナバに顔を向ける。
「うーん”船巫女”か~」
「彼女が砂漠から来たのは分かるな」
イナバが
「はい」
「砂漠には、古くから砂の上を走る船があるんだ」
「
「で、”船巫女”は、自分の体と砂上船の”魔紋”を使って特殊な魔術を使う者のことだ」
「…魔術…ですか」
「そうだ。 例えば、”操砂”の魔紋」
「これは船の周りの砂を操るものだ」
「他にも、”躁風”の魔紋」
「基本、砂上船は、帆に風を受けて動くぞ」
「”製水”の魔紋はすごいぞ」
「砂漠で水を作り出すからな」
「忘れるなよ、”船巫女”《ファラク》は”船”《イザナミ》の
「イザナミは、”船”なんですね」
「そうかっ。 だから”イザナミ”には収納式のマストがついてるんだっ」
イオリは、うんうんとうなずいている。
「ん? いやそれは少しちがうのでは」
イナバは何とも言えない表情を浮かべた。
「……とりあえず、ファラクを大事にしろよ」
「イナバ~、石鹸かして~」
メルル―テが女湯から声をかけた。
「はいよ~」
上の隙間から石鹸を投げる。
「セントウデートッ!!」
ファラクは、最近読んだ”最新版、レンマ王国、デート百選”という本に、”セントウデート”は高レベル新婚カップル向けだとのっていた。
ファラクは、一緒にセントウに来たイオリを思い浮かべて、
ま、まだ早いわっっ
うつむいて赤くなった顔をかくした。
◆
いま、飛行艇空母”キサラギ”には、三機の”イザナミ”に関係する機体が乗っている。
一機は、ある事情から封印されている、同型機の”ヨモツヒラサカ”
もう二機は、機種変換訓練用に、”イザナミ”と同じ機体に、”魔紋”を描かずジェットを単発にした『ネコジャラシ』である。
なぜ『ネコジャラシ』かというと、ハナゾノ学園の開発に深く関わったリント教授が、
「可変翼後退機は、やっぱり”トムキャット”でしょう」
といい、”ネコジャラシ”に決まった。
イオリとクルックは、この世界初と言ってもいい無垂直尾翼機かつ可変翼後退機を、”ネコジャラシ”で訓練することになる。
イオリは、”イザナミ”を知っていたため、”ネコジャラシ”は一日でバラして組み立てることが出来た。
コレもバラさせろーー
ほぼ、格納庫で寝泊まりしているイオリである。
ファラクもこまめにイオリの世話をしていた。
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