第3話、イザナミ
シャラン
シャララン
ファラクが涼やかな金属音と共に緩やかに踊る。
褐色の肌に、銀色の”魔紋”が描かれている。
両手足をしなやかに動かし、くるりくるりと回った。
レンマ王国で”回る”ということは、結婚や恋人を思わせる行為だ。
踊りに艶っぽさが増す。
「ヒュ~~」
クルックが口笛を吹く。
「そろそろだ」
イナバが、メルル―テに
シャラララン
「おお」
ファラクの肌の銀色の”魔紋”が薄っすらと輝きだした。
踊りに合わせて脈動する。
シャランッ
ひと際大きく動いたその時、格納庫が明るくなった。
「これはっ」
「きたっ」
飛行艇、”イザナミ”の機体に銀色の”魔紋”が浮かび上がった。
ファラクの”魔紋”の脈動とシンクロする。
神秘的な光景に、イナバとメルル―テは見惚れた。
「うおっ」
ま、魔術!?
クルックは、びびったような声を出す。
「おお?」
イオリは”イザナミ”の”魔紋”が光って、はじめてファラクの肌の”魔紋”に気付いた。
最初から”イザナミ”しか見ていないようなイオリの態度だ。
その態度に、
「ふふふ」
ファラクは満足したような笑みを浮かべた。
◆
ファラクの、コトハジメノマイにより、砂上用飛行艇、”イザナミ”の本格的な運用試験が始まった。
無事、”イザナミ”の運用が成功するように祈ったのだ。
”イザナミ”は、水上だけではなく、砂上にも着陸?できるように作られている。
ファラクは、レンマ王国の北、ヘタリナ王国を越え、アイール山脈の向こうにある広大な”砂漠地帯”から来た。
砂漠の東には”竜の台地”から流れ落ちてくる滝を受けた巨大な、”ヤマタイ湖”
”ヤマタイ湖”から八本、大蛇のように流れ出る大河、”ヤマタ河”
その他は広大な砂漠が広がっている。
西方には、無数のオアシス都市が有った。
ファラクは西方のオアシス都市群の出身である。
最終的には、ファラクと”イザナミ”は砂漠に帰ることになる。
◆
ファラクの舞から三日。
飛行艇空母”キサラギ”は、レンマ王国の東にある、シラフル湖に向かっていた。
イオリとクルック、二人のパイロット候補者の選定と、機種変換訓練を、広大なシラフル湖で行うのだ。
「砂漠に帰るのよ~~」
ファラクだ。
イオリがちらりとファラクを見る。
カチャカチャ
あれから三日、イオリは”イザナミ”の格納庫からほぼ一歩も出ていない。
舞いが終わった後、すぐにイナバ整備長に”イザナミ”の
俺にこれ(飛行艇)をバラさせろー―
「えーと」
イナバがちらりと、メルル―テを見る。
「良いわよ~」
「でもファラクが良いと言えばね~」
ファラクは”イザナミ”と魔紋で結ばれた”船巫女”だ。
”船巫女”は船の
ファラクの体、イーコール”イザナミ”の機体といってもいい。
「…………」
イオリは、熱い目をファラクに向ける。
全て見せろ――
「わわわ、私が嫌といったらやめてくれるなら」
「い、良いわよ……」
ファラクが真っ赤になって俯いた。
船巫女として契約している以上『イザナミ』のすべてを
「……分かった」
まるで告白の場面のような空気だった。
カチャカチャ
イオリは三日間、危なげなく”イザナミ”をバラし続けている。
「そそ、そんなところまで……」
ファラクがどぎまぎしながら、後ろで見続けていた。
「はいはい、ご飯よ~」
寝るときも食事の時も”イザナミ”から離れそうにないイオリに、ファラクは食事を運ぶ。
サンドイッチだ。
「あ、ありがとう」
そのまま手を伸ばそうとするイオリに、
「手を洗いましょうか」
手が油で真っ黒だ。
「食べたらお風呂も浴びて来てね」
じゃないと、”イザナミ”(私)を触らせないわよ~
「うっ、分かった」
ファラクに尻にひかれつつあるイオリである。
「洗濯しておいたから」
さっとイオリの着替えを渡す。
「私も入るわよ」
艦の大浴場に向かって二人は並んで歩いた。
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