第3話、イザナミ

 シャラン

 シャララン


 ファラクが涼やかな金属音と共に緩やかに踊る。

 褐色の肌に、銀色の”魔紋”が描かれている。

 両手足をしなやかに動かし、くるりくるりと回った。

 レンマ王国で”回る”ということは、結婚や恋人を思わせる行為だ。

 踊りに艶っぽさが増す。


「ヒュ~~」

 クルックが口笛を吹く。


「そろそろだ」

 イナバが、メルル―テにささやいた。


 シャラララン


「おお」

 ファラクの肌の銀色の”魔紋”が薄っすらと輝きだした。

 踊りに合わせて脈動する。


 シャランッ


 ひと際大きく動いたその時、格納庫が明るくなった。


「これはっ」

「きたっ」


 飛行艇、”イザナミ”の機体に銀色の”魔紋”が浮かび上がった。

 ファラクの”魔紋”の脈動とシンクロする。


 神秘的な光景に、イナバとメルル―テは見惚れた。


「うおっ」

 ま、魔術!?

 クルックは、びびったような声を出す。


「おお?」

 イオリは”イザナミ”の”魔紋”が光って、はじめてファラクの肌の”魔紋”に気付いた。

 最初から”イザナミ”しか見ていないようなイオリの態度だ。


 その態度に、

「ふふふ」

 ファラクは満足したような笑みを浮かべた。



 ファラクの、コトハジメノマイにより、砂上用飛行艇、”イザナミ”の本格的な運用試験が始まった。

 無事、”イザナミ”の運用が成功するように祈ったのだ。


 ”イザナミ”は、水上だけではなく、砂上にも着陸?できるように作られている。




 ファラクは、レンマ王国の北、ヘタリナ王国を越え、アイール山脈の向こうにある広大な”砂漠地帯”から来た。

 砂漠の東には”竜の台地”から流れ落ちてくる滝を受けた巨大な、”ヤマタイ湖”

 ”ヤマタイ湖”から八本、大蛇のように流れ出る大河、”ヤマタ河”

 その他は広大な砂漠が広がっている。

 西方には、無数のオアシス都市が有った。

 



 ファラクは西方のオアシス都市群の出身である。


 最終的には、ファラクと”イザナミ”は砂漠に帰ることになる。



 ファラクの舞から三日。

 飛行艇空母”キサラギ”は、レンマ王国の東にある、シラフル湖に向かっていた。


 イオリとクルック、二人のパイロット候補者の選定と、機種変換訓練を、広大なシラフル湖で行うのだ。



「砂漠に帰るのよ~~」

 ファラクだ。


 イオリがちらりとファラクを見る。


 カチャカチャ


 あれから三日、イオリは”イザナミ”の格納庫からほぼ一歩も出ていない。

 舞いが終わった後、すぐにイナバ整備長に”イザナミ”のを申し出たからだ。


 俺にこれ(飛行艇)をバラさせろー―


「えーと」

 イナバがちらりと、メルル―テを見る。


「良いわよ~」

「でもファラクが良いと言えばね~」



 ファラクは”イザナミ”と魔紋で結ばれた”船巫女”だ。

 ”船巫女”は船のココロ

 ファラクの体、イーコール”イザナミ”の機体といってもいい。



「…………」

 イオリは、熱い目をファラクに向ける。

 全て見せろ――


「わわわ、私が嫌といったらやめてくれるなら」

「い、良いわよ……」

 ファラクが真っ赤になって俯いた。

 船巫女として契約している以上『イザナミ』のすべてをっているのだ。


「……分かった」


 まるで告白の場面のような空気だった。


 カチャカチャ


 イオリは三日間、危なげなく”イザナミ”をバラし続けている。


「そそ、そんなところまで……」

 ファラクがどぎまぎしながら、後ろで見続けていた。




「はいはい、ご飯よ~」

 寝るときも食事の時も”イザナミ”から離れそうにないイオリに、ファラクは食事を運ぶ。

 サンドイッチだ。

 

「あ、ありがとう」

 そのまま手を伸ばそうとするイオリに、


「手を洗いましょうか」


 手が油で真っ黒だ。


「食べたらお風呂も浴びて来てね」

 じゃないと、”イザナミ”(私)を触らせないわよ~


「うっ、分かった」

 ファラクに尻にひかれつつあるイオリである。


「洗濯しておいたから」

 さっとイオリの着替えを渡す。

「私も入るわよ」

 艦の大浴場に向かって二人は並んで歩いた。

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