第2話、ファラク

 少し離れた空を、”飛行艇空母”が飛んでいる。

 ”ハナゾノ帝国”の方から来たようだ。



 ”新型飛行艇空母、如月級きさらぎきゅうネームシップ、キサラギ”


 ”ムツキ級飛竜空母“を元に新造された飛行艦である。

 艦体横に、ティルトローターのプロペラが左右に四機。

 後ろに魔術式ジェットを×字状に四機搭載。

 王立工廠おうりつこうしょうの特色である、大事なものを真ん中に集めて装甲で守る、シタデル構造。

 しかし、飛行艇の格納スペースを確保するために装甲を減らされている。

 

 5機の飛行艇を搭載可能になった。



「カティサーク工廠こうしょう、着艦許可を求む~」

 艦長帽を被り、レンマ王国空軍教導部隊仕様の、侍女服を着た少女が言った。


 少女のような姿だが、彼女はハーフエルフだ。

 見た目通りの年齢ではない。

 空母”キサラギ”の飛行甲板の、島型艦橋の艦長席に座っていた。


「2番ドッグに着艦どうぞ」

「おかえりなさい、メルル―テ大佐」

「魔術学園はどうでしたか」


 ”ハナゾノ帝国”にある魔術学園から、ある荷物を載せて帰ってきたのだ。


「おもしろかったよ~」

 

「艦長」

 整備服を着た20代半ばの男が、声をかける。


「なに~、イナバ整備長」


「もうファラクさんは、こちらについてるんでしょう」

 ちなみに、メルル―テとイナバは、夫婦である。

 

「別便で来てるはずだよ~」 


「……やはり彼女は、イオリを選びますかね」

 イナバがあごをさすった。


「ん~、多分」

船巫女ふなみこか~」


「まあ、彼は飛行艇に魅入られてますからね」

「機体には、魔紋はしっかり定着したから」

 

 特殊な機体を、ハナゾノ帝国の”魔術学園”から運んできた。

 

 ”キサラギ”が二番ドッグに着艦した。


「ついていくと思う、砂漠に〜」

 ファラクは、砂漠出身。

 彼女に、選ばれると、一緒に砂漠に行くことになる。


「イオリ少尉は、確実に、飛行艇”イザナミ”について行くと思う」

 イナバは、艦長席から立とうとするメルル―テの手を取り、優しく支えた。



 新型砂上用飛行艇、”イザナミ”


 魔術学園から運んできた特殊な機体だ。


 パイロットの候補者は二名いた。 


 一人は、”イオリ・ミナト”


 レンマ王国空軍教導部少尉。

 実家は、辺境伯である。


 もう一人は、”クルック・エンバー”。


 カティサーク工廠のテストパイロット。

 ”エンバー伯爵家”の令息だ。



 二人は、飛行艇空母”キサラギ”の格納庫に呼び出された。


「ファラクの準備が出来たようだよ」

 イナバ整備長だ。


「新型飛行艇は僕のものでしょ」

「ついでに、砂漠の女も貰っといてあげるよ」

 クルックが、こ太りなお腹をさすった。

 残りの三人を見下すように見る。

「そこの小娘え、案内しろお」

 ちなみに、ハーフエルフであるメルル―テ大佐は、御年(おんとし)85歳になる。

 

 メルル―テとイナバは、ぽかんとした表情でクルックを見た。


「えーと~」

 

「新型飛行艇?」 

 イオリは、上の言葉以外聞いていないようだ。



 格納庫には、踊り子の衣装をまとったファラクが、ひざまずいていた。


 褐色の肌に、銀色の模様、”魔紋“が描かれている。 


 背後には、飛行艇が、機首をこちらに向けて置かれていた。


 ”ホウセンカ”よりも大きめの機体。

 複座式のコックピット。

 機体とフロート部は、なだらかな曲線を描いてつながっている。

 フロート部は、前と後ろがなだらかなカーブを描いて、横に少し広がっている。

 機体前部には、垂直離発着用の小型ジェット一機。

 機体後部には、縦に魔術式ジェットが二機。(双発)

 機首近くには、カナード翼。

 

 垂直尾翼は装備されていない。


「か、可変翼後退機……っ」


 イオリが、熱にうなされたような声を出した。


熱砂漠用ねっさばくよう、可変翼飛行艇、”イザナミ”」


「これがこのの名前です」

 ファラクは、うつむいたまま言った。

「”コトハジメノマイ”、ご照覧しょうらんあれ」


 シャララン


 手首や腰につけた、小さな鈴がぶつかりすずやかな音を立てた。

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