俺の受けた天命

シャチマくん

第一巻

序章「滅魔術団の加入」

第1話「呪われた青年」

 序章「呪われた少年」


 俺は追い込まれていた。それも怪しげな術を使って両親を殺した男から逃れるため、全力で街中を駆ける。


「はぁ……はぁ……はぁ……。何で俺が狙われているんだ⁉︎ しかも両親まで殺された。この状況って可笑しいだろ⁉︎」


「待ちなよ? 君は死ぬ末路にあるんだから」


 俺が交番まで駆け込むと、そこはすでに血塗れの状態で倒れた警察官の姿があった。それを見た瞬間に俺は絶望感で心がいっぱいになる。これ以上は逃げる宛もないところからして、俺の人生はこれまでと決め付けられている気がした。そして俺は足を止めると、そこで追って来た男が剣を振り上げて、それを勢い良く下す。


 ざくっ!


「ぐぁぁぁあああ⁉︎」


「ひゃーはっはっは! どうだ? 片腕が切り落とされたぞ? すでにお前の人生はどうしようもない末路しか待ち受けていないな?」


「うわぁぁぁあああ⁉︎」


 俺は出血している肩の切り口を押さえながらも、大きな悲鳴を上げた。それは周囲の人間に届くことなく、次の一振りで俺の死は決定したも同然だと言える瞬間が起きる寸前に奇跡が生じる。


「んぅ?」


 ぶしゃぁぁぁ!


「マジか。まさか現着が早いな?」


「その剣を捨てろ。お前は今から俺がこの場で処分する。この街の民間人を殺した罪は消えないと思ったほうが良いぞ?」


「それは困ったなぁ? しかし、俺はまだ余裕だぜ?」


 その時だった。俺を追い詰めた男が自分と同じように腕を切り落とされている姿を目にした瞬間に何が起きたのか分からない状況下に陥ってしまう。しかし、俺は両親を殺した男の現状を把握すると、奇跡的に助かったのだと理解できた。その状況下が俺に希望を与えてくれたように思えたが、実際に俺の右腕は損失していることに変わりはなかった。けれど、命だけ救われたことが、少しでも安心感に繋がったのは事実である。そして助けに来てくれた男は右手に握った剣でトドメを刺そうとして瞬間だった。


「それじゃあ引き返そうかな? そろそろ滅魔術師が到着する頃だろう。さすがに俺だけでは相手するのも一苦労だ」


「逃がさない! この場でお前に死んでもらうしかないんだよ!」


 そうやって剣を振り下ろした瞬間に刃が首を刎ねる寸前で男はその場から消えた。そして殺処分しようと剣を振るった男が空ぶったことを知ると、やはり一撃で仕留めるべきだったと後悔する姿が見られる。そこまでは記憶できていた。しかし、俺は切断された箇所から血が止まらない現状に陥っていたせいで、無意識のうちに気を失う。その先は自分もどうなったのかは知らなかったが、後で起きた時には病院のベッドで寝かされていた。さらに片腕がなくなっている事実を再び知った瞬間に涙が込み上げて来る。それがすべての始まりだとも知らない俺はこれから戦場に立つきっかけを与えられるのだった。


「君に一つ質問するよ? 失った片腕を取り戻したいと思うか?」


「そんなことが出来るのか?」


「まぁな。しかし、それは呪術による再生を施す必要がある。これを使用すると、君は以前までの生活が叶わなくなる」


「呪術……? それって何ですか?」


 俺はそこに疑問を抱いた。しかし、俺の前で現状を打破する方法を教えてくれていた人物は簡単に呪術がどう言った力なのかを説明する。それを聞いた時には、俺もあり得ない気持ちでいっぱいだったが、それでも片腕が戻るのなら良いかも知れないと判断して受け入れることにした。


「俺はこれから戦場に出ることを強いられるかも知れないけど、またあの時の状況が訪れる日が来るのなら、その呪術を施して能力を手に入れることの方が良いと思う。だから、どんな代償が来ても良い。俺の片腕を戻してくれ!」


「よし。それなら今から儀式を行う。これは呪印と言って、自身に呪いが掛けられることで、肉体に特殊な呪力が宿る。その代償は私にも見当は付かないが、それでも受け入れると言ったんだ。この先で何が起きても責任は取らないからな?」


「分かってます」


「それでは呪術で片腕を再生させる。今から君は呪印によって片腕が再生するだろう。これはこの先の人生を送る上で数々の試練が待ち受けることになる。では、始めるぞ?」


 そうやって俺は呪術を使って失った腕を取り戻す。すると、再生した腕は黒く変色していたが、それでも確かに取り戻したことには変わりがなかった。機能は変わらないと言うので、これから先の人生に支障が来たすとは思えないぐらいに大しと変化は起こらなかったのである。


「何で黒いんでしょう? これが呪印の効果ですか?」


「恐らくな。この後で鑑定してもらうと良いだろう。これから君は私たちとこの世を支配しようと企んでいる魔術師を相手するんだ。魔術師の阻止を政府から任された人材を【滅魔術師】と呼ぶ。私たちが扱う術式は魔術師に対抗した【天術】で相手している。それは天使の力を借りた術式で、悪魔と対等に渡り合うために外国で編み出されたのが伝わって来たんだ。それと先ほど君に施した【呪術】だが、これは呪力と呼称されるエネルギーを根源として発動する。呪力は人間の身体に流れるマイナスエネルギーから発生しているため、ネガティブな感情が強い時ほど、効果が凄まじくなる。しかし、実際に呪力を発生させることは、大して意識するほどでもないと思ってくれ。さらに呪力は強いほどマイナスの効果を発揮するから、味方にもたらす時は低い方が良いんだ。もしも、相手を殺す時などにはマイナスエネルギーを引き出すことが必要とされる。ま、後は君が【天術】の適性があるのかでこれからの仕事が変わって行くと思っていてくれ」


 そんな風に俺がわかりやすいように説明してくれた。それも三つの術式について知ることが出来たと思う。それらの中でも、俺は【天術】が扱えるようになれば良いみたいだった。


 そして鑑定の結果が出る。それを知った時になって、俺に呪術を施した夜峰月葉が驚いていた。


「マジか。まさか呪印が原因で【天術】が扱えないのか?」


「はい。しかし、彼の黒く変色した部位に触れた術式は、すべて無効化できることが分かりました。つまり、彼が持つ呪印は術式が扱えませんが、代わりに【魔術】や【天術】を無効化できます」


「無効化できるのか⁉︎ それは凄い呪いに掛かったな?」


 しかし、俺の身体に影響している呪印は右腕だけだと言う。【天術】の根源ともなる天力が宿っていないのは、この先で魔術師との対戦は厳しいと見た方が良かった。


「どうする? 天力は人の身体を補うことにも使われる。つまり、身体を強化させることも出来る。しかし、それがないと言うことは、君は不利になる訳だ。それでも君も戦場に立つ気はあるか?」


「何で術式が無効化できるとしても戦闘に向いていないんだ? 術式を打ち消せるなら、どんな防御でも破れてしまうのだろ? それってかなり強くないか?」


「天術師の世界では、対人戦闘が重視される。それも君の場合は近接先頭にだけ特化していると鑑定では出ていた。術式が効かないのは右腕だけだとすると、他の箇所が攻撃を受けた時には、死を覚悟しなくちゃいけない」


「そんな……」


 その話の筋は分かった。しかし、俺は術式を無効化させることが出来るなら、何かしら有効活用できる手立てはないのか考える。けれど、幾ら考えたところで結果は変わらないと分かってしまった時点で、俺の活躍は期待できないと判断された。


 しかし、俺は呪術を行使してまで腕を取り戻したのなら、戦場に立つのは規則になっているそうだ。だから、どんなに不利でも、呪術に頼ったことには変わりがないと上層部からも言われたので、俺も【滅魔術団】の加入は決まったのである。


「これからお前の担当を務めることになった。天門煌也だ。どうやらお前は術式が使えないようだが、一応戦闘技能を高めてもらう。そのための訓練を受けることで、この先で戦場に出た時は有効になるだろう。では、始める」


 そうやって煌也が俺の指導に当たるみたいだった。まず彼の術式は【ライトギア】と言って、光を吸収して筋肉を増強させることが出来るらしい。増強には上限があって、それに達すると光の吸収が出来なくなるみたいだ。たが、筋肉が強化させることで、彼の階級は一級に当たると言う。


 そして俺は四級術師からの始まるみたいだった。それも階級を上げるには、上層部が戦闘の様子を衛星のカメラから監視することで判定が下ると言う。階級によって仕事の難易度や達成時のお給料なども変わって来るみたいだ。なので、階級は高い方が得するのだった。


 それから俺は接近戦闘を教わる。それは俺が呪印でもある【黒腕】を活かすには近接が一番適していると判断したことが理由だった。俺の言っていた【魔術】による防御が施されても、それを破ることは出来るらしい。さらに右腕でガードすることで、触れた術式は無効化できるのなら、それで防御するのも良いと思った。しかし、それは攻撃範囲によっては無意味だと言う。だから、それに期待はあまり出来なかったのである。


「しかし、お前の持つ呪印はとても興味深いと俺は思う。そこでお前に生じた呪印を活かした戦闘術を教える。まずは俺の術式が無効化してみよう。俺が光を吸収した状態を作り出す。そこを【黒腕】で触れて無効化できたなら、強化された筋肉は元に戻るはずだ。つまり、お前の場合は触れることが出来れば、効果が出るだろう。だから、それまでの技術を磨くことで、お前の呪印は有効になる」


「なるほど。煌也先生の術式が無効化できれば、その先の戦闘では俺が有利になると言うことか?」


「その通りだ。しかし、再び術式を発動させることが出来てしまうと厄介だろう。そこで呪印が及んでいる方の腕で敵を押さえる。そして術式を封じながら攻撃を下すことで、相手にダメージを与える戦法で行こう」


 そんな感じで俺は煌也先生が提案した通りの戦法を磨く。その前に触れてみて分かったことによると、やはり煌也先生の術式はリセットされた。それが確かであるなら、呪印が及んだ腕で敵の拘束を図ってから、攻撃する術を鍛えるのである。


 煌也先生の発案を有効にするための訓練を施してから二時間が経った。まだ二時間では簡単に身に付けることは難しかったが、それを毎日継続できれば、きっと有効打に繋がるのも時間の問題だと煌也先生は言う。


 そうやって訓練を重ねる日々は学校が終わった後の放課後を使って行われた。それを一週間ほど続けた結果としては、かなりの上達を遂げるだけの成果が出る。煌也先生が加減した状態で近接戦闘を繰り広げる中で、少しずつ相手に触れることを意識して訓練に励んだ。それを始めてから成長したようにも思えるが、やはり煌也先生が言う話によると、まだ実践には遠く及ばないみたいだった。なので、俺はいち早くそれが実践できるように頑張るのである。

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