精霊
プロローグ
約1300年の昔に、女神と精霊たちはこの世界に降り立った。
心優しい女神は、厳しい自然環境と魔獣の脅威にさらされ孤立する人類を哀れんだ。
そこで各地に散らばった人類を集めて共通の言葉を与え、人間を捕食する魔獣たちを追い払い、穢れた土地を清めて狩猟・農耕が出来る領域を築いた。特に優れていた四人の人間を選び、社会を形成するのに役立つ能力も授けた。
女神の意志だから従ったが、私は特に人間に興味はなかった。群れを成して知恵を出し合うのが精いっぱいの、短命で非力な種族としか思えない。
そんな種族のために女神は心を砕き、力を尽くして――やがて倒れた。約300年の月日が過ぎていた。
仲間の精霊たちは、最初の興味が尽きると人類の観察に飽き、この世界を去ったため、残る精霊はわずか。
残った私に、女神が語り掛ける。
「私の力はもう間もなく尽きます。これからは貴方が、私に代わって人類を助けてあげてください」
私は猛反発した。
「なぜ人類などのために、貴女が生命を使い果たさねばならないのですか! 人類は今も、貴女から授かった言語と祝福を濫用し、限られた領土の中で異なる思想を罵り合い、
女神は微笑んだ。
「だからこそ貴方の力が必要なのです。=====、私の愛する精霊よ。人心をまとめ、争いを鎮め、四人の英雄を助け、人類を安寧へと導いてあげなさい」
女神の言葉に、私は答えた。
「……それが愛する貴女の意志ならば。私は人間を導き照らす星となろう。やがて彼らが滅びるまで、全能を上げて寄り添うと誓う」
しかし、もうひとりの私はこう答えた。
「誰が人類など守るものか! 私の愛した貴女は死ぬ。ならば、貴女を愛した私も死のう。今から私は、ただ一人の『私』。誰の意志にも従わぬ自由な魂である」
もうひとりの『私』は黒い影となって空の彼方へ飛び去った。
半身を失った私のたてがみを、女神の白い手が優しく撫でる。
「苦労をかけますね。あとを頼みましたよ、愛しい=====」
女神が私の名を呼んだが、完全体ではない私はそれを理解することが出来ない。
彼女の呼吸が止まるとともに、その体は闇夜をまばゆく染める虹色の光を放ち、砕け散った。女神のかけらは虹色の流星となって各地に降り注いだ。
私は虹の女神の慈悲を人類に説き、女神を信奉する思想を作り上げた。その力を権力基盤とし、分裂していた小国をまとめて王国を築き、始まりの四人の人間の子孫を領主として封じた。特に最後のひとりは国を代表する王として最高権力を与えた。
こうして私は、今日に至るまで人類の滅亡の系譜を見守っている。
力も名前も失った私は、人類から「
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