祝福
オライアスは、会議の終わったその足で馬車に乗り込んだ。急ぎ神託の内容を国王に報告するためである。
「至急ウラヴォルペ公爵領に使いを送り、小公爵らに神殿を訪問するよう要請する。第二王子はここで彼らと合流し、神殿との会談を継続するように」
アルカンレーブ王国には、王族とならぶ四つの勢力がある。
虹の女神を祀る神殿が管轄する公国、初代錬金術師の子孫であるヘムズヒュール公爵家、豊穣の師として農業の礎を築いたディビエラ公爵家、そして聖剣リ・レマルゴスを継承する剣聖の子孫ウラヴォルペ公爵家である。
ウラヴォルペ公爵家は、昨年話題の中心となった。現公爵の嫡男であるレオニアス・フォン・ウラヴォルペという青年が、特別な
そして彼の姉、ウラヴォルペ小公爵であるアルナール・フォン・ウラヴォルペは、それ以前から聖剣の祝福を受けた武芸者として広く名を知られている。
つまり、第二王子と同じ世代の四大家門に三人も、格段の祝福を受けた若者たちが存在しているのだ。
アルフェリムは黙ってうつむいていた。先の会談以降、オライアスの顔を見ようとしない。
馬を走らせようとする
「シュエルテは、人類の生存と幸福のために存在する。それが王国のためになるならば、私は王太子という地位にこだわらない」
「兄上……!」
弾かれたようにアルフェリムが顔を上げた。兄、と呼ばれるのは久しぶりのことだった。
「お前が何を危惧してシュエルテを隠していたのか、理解しているつもりだ。世間は騒がしくなるだろうが、私たちは騒音に惑わされず為すべきことを為そう」
アルフェリムの鮮やかな金髪が冬の風に乱されている。馬車が見えなくなるまで、そこに立っているつもりだろうか。
(王族としての私に迷いはない。しかし、兄として、私の言葉は正しかったのだろうか)
王族はアルカンレーブ王国に生きる30億人を超える人々に対する責任を負う。もちろんそれが最優先事項ではあるが、オライアスは家族を蔑ろにするつもりはなかった。家族という最小単位すら守れない者に、国を守護するという大役が務まるとは到底思えないからだ。
しかし、人生を振り返った時、兄として彼に何かをしてやれたという記憶もない。
(おそらく、シュエルテのことは国王陛下もご存じあるまい。家族にも相談できないでいたのだろう)
馬車の振動に身を委ね、しばし現実を忘れようと目を閉じたオライアスだが、神殿の白いターミナルに立ち尽くすアルフェリムの姿を忘れることは出来そうになかった。
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