天才肌
西悠歌
第1話
テストの日、いつも「昨日もゲームばっかりしちゃったー。」と言っているクラスメイトがいる。どうせ勉強していないアピールだろうと切り捨てるわけにはいかない。彼女は本当に勉強していないのだから。「私は努力が苦手なんだ。」と言い切る彼女はしかし学年一桁に入るほどの頭脳の持ち主だ。どっちが本当なんだと以前聞いたら「私は全てをドブに捨てることにしたんだ。本気を出さなくても生きていけるくらいが丁度いい。」
と言っていた。ふざけんな、と思った。煙に巻かれたことも、その内容も。
「努力できないのもつらいんだよ?」なんて彼女はぬかす。努力よりもつらいのかと問い詰めると
「そりゃそうだよ。」
真顔で頷く。
「はぁ?」
「だって周りの皆は努力してるのに私はできないっていう劣等感に耐えなきゃいけない。皆は進むのに私は後退するっていう事実を噛み締めなきゃいけない。隣の席の子は睡眠時間を削って勉強してるのに私はゲームしてぐっすり眠ってるっていう罪悪感、重すぎるよ。申し訳なくてたまんなくなる。」
身勝手なことを、と思った。
「だから!努力すれば終わる話だろそんなのは。実力あるからって驕りやがって。いつか地獄をみることになる。」
「そう。そうなんだよ。早くその時が来ればいい。私を断罪してくれればいいのに。」
なんとなくうっとりしたような表情で彼女は言う。
…なるほど。彼女が努力できない理由が分かった。彼女は別に上に行くことを望んでいない。というか上にいることの価値も下に落ちた時の焦りも感じられないのだと思う。ただ少し勉強の才能があったから上の方にいるだけで、できないならそれで構わないと思っている。人が焦っているから自分も焦ったふりをしないといけないと思っている。本心ではどうでもいいのに。そのことに自身でさえも気付いていないのが彼女の不幸なのかもしれなかった。
「悲惨だなあ。」
「何か言った?」
「ううん、何も。」
僕は静かに教室をあとにした。
天才肌 西悠歌 @nishiyuuka
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