編集さんに企画を読んでもらうために俺がとっている姑息な手段

@kaisyain36

編集さんに企画を読んでもらうために俺がとっている姑息な手段

 こう見ても企画を読んでもらえている方である。


 担当編集さんが実力もあり人間もできていてレスポンスが早いという幸運もあるが、それでも一月待つこともざら。


 ラノベ作家は砂浜に「SOS」と書いて救助が来るのを待つ無人島に遭難した人間の心境を嫌というほど味わえる職業なのだ。


 そんなわけで何事も大事なのは根気と再認識させられる日々を送っている。


 そんな私が担当編集さんからレスをもらうための「対策」と称した姑息な手段をいくつかここに記したい。


 参考になるかどうかわからないが、自分と同じように悩んでいる方の一助になればと思った次第だ。



 まず担当さんの人とナリを情報収集することが大事である。


 この人の生活習慣まで網羅しろとまでは言わないが、どういう話題に興味あって何が好きなのか、その辺はある程度理解していた方がいいかもしれない。


 横の繋がりも大事で担当さんが同じ作家さんと仲良くなっておくことで、担当さんの動向を擦り合わせて「手が空いているかどうか」「今企画通しやすいかどうか」が分析できるだろう。編集部の内部事情ある程度知ってる人と仲良くなれればなお良しだ。



 だがまあ、それはそれとして出した企画を読んでもらうことが何より寛容だろう。


 そんなわけで私の姑息な企画の出し方を紹介しよう。


 それはズバリ「おしながき」作戦である。


 某芸人が大物女優と付き合うための手法の一つとして、「中華食べに行かない?」よりは「中華とフランス料理どっち食べたい?」と相手に選択肢を与えるほうが成功率が高くなるらしい。


 私はこの芸人の手練手管を聞いて「なるほど」と腑に落ちた記憶がある。


 確かに選択の余地があるのは悪い気はしない。結婚式の引き出物も新郎新婦がプリントされたマグカップなんかよりカタログギフトの方がよっぽど良い。


 女たらしと呼ばれたその芸人の手腕には、正直感動すら覚えたものだ。


 余談だが最近「多目的トイレ」が「多機能トイレ」と名称が変わったが、未だ浸透してないなぁ。


 閑話休題。


 とまぁ、この企画書の出し方はその女性の口説き方を参考した作戦である。


 お品書きのように短い数行の企画を羅列し、選択肢を増やした上で選んでもらうというヤツだ。


 コツは書きすぎないこと。


 その日の体調だったり似たような作品を何度も目にして食傷気味の時だってあるだろう。


 それに数行なら忙しくガッツリ企画書を読むのが大変な編集さんでも読んでくれる。


 興味の無い企画の世界観など目がスベるのは仕方が無いことだ。たしかに興味のない企画の主人公の名前から生い立ちまで読まされる身としては中々大変だろう。


 絶対に採用する人間の履歴書なんて目がすべるのも無理からぬ事。そういえば私をバイトの面接に落としたあの薬局の店長もそんな感じだったんだろうか? 証明写真で落とされた自信はある。


 閑話休題。


 とまぁ、数行程度の方がしっかり読んでもらえることが多々ある。


 自信があってたまらないのはしっかりとした企画書として提出するのが精神衛生面上いいのかも知れない。


 そんなわけで私はこれ絶対いけるという企画書以外はお品書きのように「タイトル」と「特徴」「売り」なんかを箇条書きにしていい値段の居酒屋が如くテキストにまとめて提出している。



 例えば


 殻付き海老のスパイシー揚げとホタテのサンマルツァーノドレッシング仕立て


・ソフトシュリンプとホタテを米粉と炭酸で溶いた中に入れ油で揚げたあと、イタリアントマトを使ったサンマルツァーノドレッシングを添えてます。ズッキニーとゴーヤチップスも合わせてご堪能下さい。



 こんな感じで



 売れない作家の俺ですがダンジョンで助けた美女が新しい編集長だった件


・元凄腕ダンジョン配信者で今は売れない作家の主人公がたまたまダンジョンで助けた美女が実は自分の企画をボツにする女編集長だった。その日以来編集長から直々に「ダンジョンラブコメ」を書いてくれと頼まれる。過激な内容を要求されるが現実の美女も妙にその内容にシンクロしてきて……



 こんな感じである。


 ちなみにボツになったのでウェブ投稿の弾として再利用させてもらった。ボツになる企画の全貌、興味ある方はご確認ください。


 数行のあらすじは興が乗ってどんどん書いてしまいがちだが、我慢した方が良い。


 相手に想像の余地を与えることが大事である。


 そうすると担当センサーに引っかかったら返信で



「これいけそうです○○は××する面白いシーンが容易に想像できます」



 何て言ってくるだろう。


 その時、



「私もそういうの書こうと思っていました!(思っていない)」



 と、嘘でも合わせるのが大切なのだ。


 あたかも「最初から考えていた」かのように振る舞うことは必須。ここは各人の大人の対応が試される所だ。担当編集さんが期待できるシーンを聞けるだけ聞いておけばその後の改稿もかなり楽になること請け合いだ。


 「ナシの礫」よりかははるかにマシ。


 全体的に企画が弱くても「この中ではこれが一番マシですかね」何て言葉がもらえたりするのでオススメの作戦である。




 だが、この作戦には二つ大きな欠点がある。


 一つは作戦の構造上、たくさんのアイデアを出す必要がある。


 その中では「これ、おもしろくねーだろうな」という捨て企画がが一つや二つ紛れ込んではいるだろう。


 そして、そう感じていた企画に限って、編集さんの食いつきがすこぶる良かったりするのもまた歴史を示すところである……私も捨て企画で二本ほど通した記憶がある。


 専門店で購入した高い疑似餌より適当な羽毛を針先に付けた時の方が案外魚の食いつきが良かった悲しきフライフィッシング。もしくは猫用クッションを買ったけれども、梱包のダンボールの方を気に入られた飼い主の心境か。


 ただ、書いた本人が全くノリ気じゃなくても「これ良い」なんて言われたら意外とノリ気になってしまうものである。


 例えるなら気にも留めなかった女子に少し優しくされたりすると好きになっちゃう男子の心境をおっさんになっても楽しめるようなもの。これだから作家はたまらない。


 そんなわけで単純な私は数合わせの捨てタイトルをすっかり「大本命」と脳が錯覚し、世界観まで肉付けした企画書を仕上げるのは稀によくあるのである。



 そしてもう一つ、この欠点が大きいのだが……担当さんがやる気になっても全体企画会議に通るかどうかはまた別の話なのである。


 優しくされたからといって彼氏彼女の関係になれれば苦労はしないしマッチングアプリがここまで流行るワケがない。


 企画会議に通ると思い、ノリノリで書き始めて2、3万字書いて「ボツ」なんて事はことざら。


 そんなワケで日の目を見なかった2,3万字程度のウェブ投稿短編ネタは結構ある。


 まぁウェブサイトに投稿する弾が増えたと思えば流れた涙も少しは意味あるものになるのかも知れない。


 結局は根気。


 昨今「昭和」と呼ばれて久しい根性論が「令和」の今、何よりも必要なのかも知れない。






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 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。



 この作品の他にも多数エッセイや



・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~


・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果



・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です


 という作品も投稿しております。


 また本日17:00

・元聖女の言霊使い? いいえ、ただの雑貨屋です〜鑑定と称してガラクタをレアアイテムに変えて困っている人を救っていますが聖女じゃありません〜

 という作品も投稿します


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