第49話 フォーメーション
「よーし、そうだ藍星。今の感覚忘れんなよー」
「はいっ」
「ほれ、おかわり来たど。行ってこい」
「はいっ!」
オレは今日、『暴熊』のみんなに戦闘指南を受けている。
最初のゴブをどうにか倒し、次のゴブに向かっていく。
そういえば、ゴブを一から最後まで自分一人で倒したのは初めてだな。
その余韻に浸る間もなく、2体目に斬りかかる。
なんだろう。
これが、コツをつかんだってやつなのか。
裏の畑のダンジョンでは、ゴブの動きが見えなかった。
いや、見えてはいたのだろうが、視覚から入ってくる情報を処理できなかった。
ゴブの振り回す得物の動きに気を取られ、視野が恐ろしく狭くなっていたのだろう。
だけど、アドバイス通りにゴブ全体を視野に収めるように意識したところ、ゴブの動きが把握できた。
把握できたばかりか、ゴブがこん棒を振り上げ、振り下ろすまでの動きがとてもスローに感じられ、その隙にがら空きの脇腹にすれ違いざまに一撃を加えることが出来たのだ。
マサルさん曰く、
「藍星は戦う身体は出来てはいるんだ。あとは、戦闘の勘というか、動揺しない心というか、兎に角、それさえつかめば化けると思っていた。」
とのこと。
その言葉通り、2匹目のゴブも隙だらけに見えあっさり勝利を収めた。
すると、今度は5体のゴブリンがひと固まりで現れる。
「おっと、団体様だ。藍星、そのまま前衛Cの位置にはいれ! 連携の訓練だ!」
「了解です!」
前衛のC位置とは、ダンジョン内でのパーティーフォーメーションの立ち位置の一つ。
多くのダンジョンでは、その横の幅から多くの場合前衛3人で敵の攻撃が後衛に向かないように抑えて戦う。
Cとは、その前衛3人の右側の位置だ。
中央のB位置は、敵全体の動きへの対応がしやすいように、だいたいタンク職がこれに当たる。
『暴熊』の場合だと、いつもはザワさんがタンク役でB位置に入るのだが、今日は連携訓練の為マサルさんがその位置に入る。
AとCよりも一歩前に出て三角の隊列を組む感じだ。
で、オレのいるC位置の役割は遊撃だ。
Bの動きに呼応して敵との距離を測り、前衛3人での防御態勢を堅持する。
また、自パーティーの右側面に回り込まれないようにすることも重要だ。
具体的には、右サイドに敵がいない時にはBが弾いた敵へのアタックだ。
マサルさんがゴブの初撃を受止めた隙を見て、横合いからゴブの急所を突く。
攻撃を加えた後は、敵が絶命しているしていないにかかわらず、速やかに定位置に戻り防御の壁を構築し直す。
すると、戦闘のゴブが力尽きて一瞬開いた敵一団との隙間に、A位置にいた斥候の甚太さんが滑り込んでさらにもう一匹の急所を突いて隊列に戻ってくる。
一瞬で2匹を仕留めたオレ達だが、まだ攻撃のターンは終わっていない。
「いくよー! 強撃!」
「ダブルスラッシュ!」
AとBの間から、Dの位置にいたさゆりさんが。
BとCの間からE位置の佳子さんが敵に突っ込んでいく。
これでこちらの陣形は変わり、さっきまでの3トップから2トップ攻撃態勢へとチェンジする。
メイス使いのさゆりさんは、目の前のゴブをぼっこぼこにする。
二刀流の佳子さんは流れるように斬撃を加え、どちらも一撃でゴブの命を刈り取っていく。
「D、E、戻れ! ラストはC! 行けるな藍星!」
「了解!」
最後尾で指示を出すザワさんに従い、さゆりさんと佳子さんは後衛の位置に戻り、残った一匹にはオレが右側から突出して攻撃を加える。
ザクッ!
オレの攻撃はゴブの急所の首をえぐって致命傷を終わせる。
攻撃の後は、当然元の位置に戻って警戒態勢に入る。
ザワさん曰く、この敵を全滅させた直後の油断が一番恐ろしいのだとか。
勝利した油断で気を抜いた瞬間に、あらたな魔物の群れから先制攻撃を食らってしまうというのが全滅に繋がりやすい。
なので、敵を殲滅したとも隊列は崩さずに全方向に警戒を向ける『残心』を行うところまでが戦闘なのだと教わった。
「よーし、藍星! 最初にしては上出来だ! 次も4体以上出たらCの位置でやってみれ!」
「3体の時はどうすれば?」
「そんときゃ1体多数の訓練だ! ゴブの3体ぐらい一人でこなせねば、危ねくて裏のダンジョンさ一人で行がせらえねえがらな。」
今回のオレの戦闘訓練。
ザワさんたちは、オレが一人で裏のダンジョンに潜っていくことを懸念している。
前回のように、重症で済めばまだいいが、オレが命を落としてしまう事を一番心配してくれている。
じゃあ、オレが行かなければいい話ではあるが、みんなはオレがお金が必要なことも知っている。
オレたち兄妹が施設に行かなくてもいいようにするために、オレが裏のダンジョンでお金稼ぎをしようとすることを知っている。
そして、その行動は止めたくても止められない心情も当然ある。
ならばと、オレが命の危険がないように、ゴブくらいには楽に勝てるようにと今日の時間を設けてくれたに違いない。
ああ、本当に。
オレの周りにはあったかい人があふれている。
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