第48話 ブートキャンプ

「えーっと、つまりこの娘は藍星の家に同居するごどになって、家さも学校さも居場所が無くて、それでこごまで連れできたど。」


「横道このはといいまーす。よろしくおねがいしまーす」


 このはを連れて、磐城ダンジョン入り口ロッジに到着した。


 

 すでにチームの車で到着していたザワさんらパーティーメンバーに、このはの事情を説明する。


 ザワさんやその奥さんの佳子さんは真剣に聞いてくれていたが、さゆりさんなんかは「藍星が浮気! アプリ! 連れ込み!」などと鼻息を荒くしていてマサルさんにチョップされていた。


「えーと、このはちゃんだっけ? 話は分かったわ。で、わかったうえで言わなきゃいけないんだけれど、それでもあなたの親御さんに無断でこのまま藍星の家に泊まるのは良くないわね。下手すりゃ誘拐したとか騒がれかねない。そのへんの対応は何か考えてる?」


「あ、その辺は環那の母ちゃんが今日福祉の事務所とか、議員のところに話しに行くって。」



 常識派の佳子さんの質問にはオレが答える。


 うん、やっぱりそこが懸念になるよな。


 

 いくら不倫してネグレクトかます毒親でも、親は親なのだ。


 まして、倫理観とか持ち合わせていないようであれば、こっちを誘拐犯に仕立て上げて慰謝料とか要求してきかねない。


 当然、昨夜の大人会談でもその辺のことは指摘されていたので、環那の母ちゃんが今日行政と議員さんのところに相談してくるらしい。


 議員さんというのは、敦司の父の相馬議員の事だろう。


 まあ、敦司はバカでクズだし、その父も変にまじめで杓子定規な考え方しかできないような印象はあるが、まあ熱意はあるから何とかなるだろう。


「そう、じゃあそっちは環那ちゃんのお母さんに任せるとして、このはちゃんをどうするかよね? あなた? どうする?」


「んだなー。このはちゃんだっけが? おめ、ダンジョン潜りたいってのは本気のごどだが?」



「えっと、は、はいっ! あーし、行くとこも居るとこもないから! ダンジョン潜れるようになれたらいいなって! 本気で思ってますっ!」


「よし。んだば、今日はこごでモニター見で見学な。そして、見学しながらスクワット、腕立て、腹筋各1000回ずつ、俺だぢがダンジョンがら戻ってくるまでやっておぐように。あ、協会の事務の人にちゃんと数えでもらうようお願いしておぐがらな。」


「ぴょっ?!」



「本当に本気だばそれぐれえやるもんだべ。荷物持ちに付いでくんのはその先も先だ。」


「はっ、はいっ! 頑張りましゅ! 1,2,3‥‥‥!」



 と、このははさっそくスクワットをやり始めた。


 うん、この子は一見チャラくて遊び人のように見せているが、それは自分を守る殻を被っているのだろう。


 心根の部分は、素直で、素朴で、いい子なんだと思う。




「よーし、へばいぐどおめんど。装備確認へよ」


「「「「了解」」」」



 そうして、オレ達『暴熊』は、一生懸命スクワットに励むこのはを置いてダンジョンに潜っていくのである。





◇ ◇ ◇ ◇


「ねえねえ、あいせー、ヤッた?」


「なにを言っているのかワカリマセン」



「またまたー、家に泊めてなんにもないことはないでしょ」


「なんにもないですし、なんならその対策として環那も泊ってますし」



「え! じゃあ浮気と環那ちゃんとまとめてだね! 興味深いぞ!」


「何でそうなる」


 さゆりさんがうるさい。



「でも、環那ちゃんとこのはちゃんが泊まったってことだろ? 風呂覗くくれえは?」


「甚太さんまで何ですか。してませんよ。っていうか、この探索の様子をこのはがモニターで見てるんですから、めったなこと言わないでくださいよ」



「どうせ定点カメラだから音声は入んないだろ?」


「口の動きとかでわかるかもしれないじゃないですか。巡回ドローンが来るかもだし。」


 ダンジョン内には定点に固定されたカメラの他に、カメラの死角をカバーすべく不定期的に撮影ドローンも飛んでいる。


 定点カメラは画像のみだが、ドローンのほうにはマイクもあるのだ。


 ダンジョン内での犯罪や不正行為の多くは定点カメラの死角で行われる為、こうして有事の証拠収集のためにドローンも光学迷彩付きで飛ばせているとのこと。



「無駄口は終わったが? 藍星。ほれゴブリンだ。一人でやってみれ」


「はいっ!」



 今日の探索は、いつもの採掘やドロップ品目的とは違い、オレの育成にあててくれるとのことだ。


 以前、裏の畑のダンジョンでオレがゴブに殺されかけたから、今後はそうならないようにと鍛えてくれることになったのだ。



「藍星! 相手の武器ばかりに気を取られるな! 視点は戦場全体を俯瞰視しろ!」


「はっ、はい」



「具体的には、まやらっと見で、動いでるどごを見ねえようにして観るんだ」


「わかりませんよ!」



 マサルさんやザワさんのありがたくも理解困難なアドバイスを受けながら、ゴブの脇腹が空いた隙を見つけてサバイバルナイフを叩きつけた。



 

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