第40話 土曜の昼
「やっちまったな」
思わぬ操作ミスで、月1万円もする『疑似的マッチングアプリ』に登録してしまった。
まあ、やっちまったもんは仕方がない。
1万円は痛いが、今すぐ脱退すれば被害は最小限の一か月分で抑えられるだろう。
まあ、スライム魔石の収入もあるし。
ちょっと前までの金欠状態ならばとてつもない大損害だが。
そして、その微塵も興味のないアプリを開き、脱退手続きに進む。
いざ、脱退しようとボタンを押そうとしたところで、ふとあることを思い出す。
「そういえば、明日も休んでろって言われてたな」
今日はマナ枯渇だからと帰って休むように言われ。
裏の畑のダンジョンに行くことを禁じられ。
まだ半日しかたっていないのに、すでに暇を持て余している。
つまり、今日の残り半日と明日いっぱいはとてつもなく暇なことが確定しているのだ。
「どうせ1万円は取られるんだ。すこしいじってみるか」
そうして、オレはヒマつぶしの為だけに、そのアプリのホーム画面に戻って行った。
「ふむ、公開する情報の範囲を決めるのか。」
まずは、こちらの個人情報をどこまで開示するかを決める画面。
最大限公開すれば、その分マッチング率も高くなると書いてある。
だが、顔写真や本名まで公開する気にはなれない。
もし知り合いに見られたらなどと考えると、そんなことは恐ろしくてとても不可能である。
どうせ暇つぶしのお遊びである。
もとより、マッチングしようなんてことは思っていない。
まず出てきたのは確認画面。
『この端末の個人情報のデータを自動でアップしますか?』
誰がそんな恐ろしいことするか。
『手動で入力』を選択。
入力画面に移る。
「まあ、性別くらいは正直にいっとくか」
男性と。
「年齢か。ここも正直でいいかな。」
16歳で。
「住所か。ここも正直に」
赤林県広先コロニー。
「職業‥‥‥。さすがに学生ってウソはつけないよな。でも、会社員でもないし、無職ってわけでもないからな‥‥‥」
アルバイトっと。
「年収か‥‥‥。うん、ザワさんとこの大体の数字にしとくかな。」
180万で。
「性格‥‥‥、好みのタイプ‥‥‥、えーい、適当でいいや」
大ざっぱ。巨乳。
「こんなもんでいいだろう」
マッチング開始ボタンを押してッと。
「ふう、これのいったい何が面白いんだろうな」
冷静な感想を独り言ちると階下から星華の呼ぶ声が。
「お兄ちゃーん、お昼ごはんどうするー?」
「いまいくー」
オレは端末を無造作にポケットにしまい、階段を下りていく。
その時のオレはまだ、自分の犯した間違いの重要さに気付いていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
ぐつぐつ。
鍋の中で湯が煮えている。
「お兄ちゃん、卵は入れる?」
「いや、いらん。スープは濃い目で。」
「わかった、お湯少なめに入れるね」
お昼はインスタントの袋ラーメンだ。
「はい、スープ濃いめのチャラメラですよー」
「わあい」
だが、当然育ち盛りの男子のオレにはそれだけでは足りない。
なので、残り物のご飯をどんぶりにぶち込む。
箸で麺を食い、レンゲで米を食う。うん、たまらん。
そして、少し遅れて星華も自分のどんぶりを持って席に着く。
「よくお前それだけで足りるな」
「お兄ちゃんこそ、豪快過ぎない?」
「これがいいんだよ」
「そうですか」
小さい口で麺を一本一本すすっている星華が可愛い。
こんなかわいい妹は、周りの男がほっとかないだろう。
そう思うと、なぜか腹が立ってきた。
そして、漠然とした不安。
「なあ星華? お前、好きな人とかいるの?」
「お兄ちゃん」
「おっ、おう。じゃなくて、まじめな話だ。和也とかどうなんだ?」
「和也君? 幼馴染で好きではあるけど、異性としての好きではないなあ」
「そ、そうか」
好きって言葉でちょいとビビってしまったが違うのか。
「ま、マッチングなんとかみたいなのはやってるのか?」
「やるわけないじゃん。」
「そ、そうだよな」
「‥‥‥お兄ちゃん、もしかして、やってるの?」
「あっ、さっきな。ヒマで端末見てたら手が滑ってな」
「‥‥‥不潔」
「いや待ってくれ。ほんとうに事故なんだ」
「あやしい」
オレは足元にすり寄ってきたにゃあ助に麺を分け与えながら必死に弁解する。
「で、お兄ちゃん? 誰かとマッチした?」
「いや、さっき登録したばっかりで――うわあ!」
星華に言われてポケットから端末を出して画面を見ると、
『あなたに興味を持った人が 36人 います!』
「‥‥‥なんか、結構な数に気に入られているみたいなんだけど」
「お兄ちゃんのエッチ」
「いやまて誤解だ」
「よりどりみどりですねー」
結局その日、星華の機嫌が直ることはなかったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「なあ、にゃあ助さんよ。女性の心は難解だな」
「にゃあ」
「そっか、お前もメスだったな」
「にゃあん」
「チュールで機嫌直んねえかな」
「
「ですよねー」
とりあえず、アプリの退会ボタンは星華の目の前で押しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます