第39話 操作ミス
マナ枯渇で休養を言い渡されたその日。
自室で横になるもすぐには眠れず、暇つぶしに携帯端末を眺めていた。
そんな中、我が国の女性エース探索者のゴシップ記事を目にしたオレは、これまで全く興味も関心もなかったとあるアプリのことを思い出す。
それは、『疑似的マッチングアプリ』。
AIの発展したこの国では、各個人の端末データを元に、成人した者には強制的にマッチングデータが送られてくる。
これは、前時代に婚姻率、出生率が極端に低下して国力が著しく低下した事への対策でもある。
ほんの数十年前、この国はいわゆる「社畜」と呼ばれる人間であふれていた。
悪徳資本家の搾取や、裏金政治家たちの私服肥やしによって、大多数の庶民は日々の生活費を稼ぐだけで手いっぱいになっていた。
時間もないのに恋愛なんてしてられない。
お金もないのに子供なんて余裕はない。
そんな社会情勢では、人間としての本能的な『種の保存』すら阻害されていく。
また、そんな社畜で当たり前という社会になじめなかった者、ドロップアウトして金銭に困窮したものたちの過激な強盗と言った犯罪や、悪質で陰湿な詐欺犯罪もエスカレートし、家族や親しい者たち以外との交流を警戒するようになった。
女性に声を掛ければ犯罪者だと思われる。
甘い言葉で近寄ってくるやつは犯罪者。
そのような空気の中、若い男女が恋愛関係となる要素は激減する。
そんな空気が社会全般を覆い、この国の若い人口は減少の一途を辿っていたのだ。
このままでは100年もしないうちに国としての基盤が損なわれる。
それを危惧した時の革新的な政権は、AIを国政に用いることを決断。
客観性に優れたAIの活用により、不自然な資金の流れなどは詳らかに暴かれて報道され、自然と悪徳な資本家や政治家と言った者たちは経済的にも社会的にも淘汰されていった。
そうして、日々の生活に余裕が戻った一般庶民であったが、だからと言って即婚姻率や出生率が上がるわけでもない。
とくに、男性からすれば、女性に声を掛けるという行動自体が社会的に許容されない行為とされていた風潮もあり、『男女の出会いの場』を設けることが急務とされ、それに対するAIの回答が、この『国民皆マッチングアプリ』の導入であった。
さらには『社会的子育て』への支援も行われ、親のいない孤児であっても十分な養育環境と勉学の機会を得られる社会となり、今では奔放な性交渉による『私生児』も人口増加、社会的生産力の向上に資するとして推奨されている時代である。
しかしながら、やはり未成熟な未成年の健全な育成は不可欠である。
そのため、『マッチングアプリ』も成人者のみの利用とされ、未成年者にはその使用が禁じられていた。
そんななかでも、やはり性への興味というのは若者にとって欠かせないものであり、そこに商機を見出す者も多い。
なので、『将来の練習の為』という大義名分を掲げた、未成年の為の『疑似的マッチングアプリ』なるものがアプリストアで販売されることとなったのである。
異性への興味あふれる10代の後半ともなれば、ほとんどの人がそのアプリを手にしていると思われる。
だが、一部の朴念仁や生真面目な子女からすれば、それは忌避すべきものでもあり、使用していない層も一定数は存在した。
「ほんと、こんなもん何が面白いんだか」
当然、藍星もそんなものに興味もない朴念仁の一人である。
だが、ヒマなことも相まって、見ることもないそのアプリをアプリストアの画面で眺めていた。
「アプリ使用料、一か月で三千円とかって。子供の小遣いで払えちゃうところがまた商売上手というか、なんというか‥‥‥おっと、一万円のもあるのか。この値段の差は何なんだろうな?」
そのストアには、売れ筋という事もあり各種多様な『疑似的マッチングアプリ』が数多く並んでいた。
「同じアプリを使っている者同士じゃなきゃマッチングしないんだよな? そんな狭い世界になんの意味があるのやら」
ちなみに、藍星のこの認識は間違っていたりする。
この時代、各社のアプリ同士のデータ共有など当たり前のように行われている。
単純に、料金が高いアプリはデータ共有するアプリの数が多いというのが料金の目安でもある。
で、そんなページをベッドに仰向けになったまま端末を持って開いていたものだから。
「あっ」
端末を持つ手が滑り、指先が『購入』ボタンに触れてしまう。
「やべえやべえ」
慌ててそのアプリストアのブラウザを閉じようとして、ホームボタンに指をかける。
『チャリーン』
「あ」
なんと、その指は指紋認証の決裁をしたものとみなされ、決裁音が無常に鳴り響く。
「やっちまった!」
慌てるが時すでに遅し。
すでに決済は終わっている。
「あーあ、無駄な金使っちまったな」
購入画面を見ると、さらに無情なことに、ストアの中で一番高額な一月1万円の利用料のアプリであった‥‥‥。
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