第8話 疑似的マッチングアプリ
―葛西環那視点―
数日後。
「かんなー、宿題やってきたー?」
「もちのろんよ」
「きゃー、かんなさまカッコいい愛しい神々しいー」
「いいから写すなら早く写せ」
「わーい」
ここは環那が通う、広先コロニー一番の進学校である『広先高等部』。
広先コロニーに7つある高等部の教育機関の一つであり、コロニー内ではもっとも偏差値も高く、セントラルシティにある各大学への進学率も最も高い学校である。
三上藍星の幼馴染である葛西環那はここに通っていた。
本来であれば、同じ中学で環那より成績の良かった藍星は、順調に行けばここの高等部に通っていたかもしれない。
だが、広先コロニー内にはほかにも工業系や、農業系、そして『探索者専門高等学校』もあることから、藍星が素直に進学校を選択するとは限らなかったかもしれない。
そんな進学校の朝のHR前。
環那は同級生女子と普通にじゃれ合っていた。
「ところで環那って、例のアプリ入れてないの~?」
「あー、アレね」
「だいたいの人は入れてるよ? 男子なんて絶対ひゃくぱー入れてるよ?」
うーん、私の知るあの人は絶対入れていないと思う。
そのアプリとは。
この、とある国では国民は各自一台、情報端末を持つことが義務付けられている。
その端末は、国民各自の位置情報から検索履歴、購入履歴といった各種データを収集し、そのビッグデータからAIによるデジタル管理社会を構築するための手段としても使われている。
これにより、過去には各地方の過疎地域の民をセントラルシティに移住させてのエネルギーの集約や、各種インフラの整備費用を節約するコンパクトシティ国家の建築に寄与したほか、現在でもセントラルシティをはじめとした各地のコロニーに住む住民たちの『最大幸福』を構築するために寄与しているのだ。
身近なところでは、客が集中する路線の便を増発したり、売れ行きが良い品物を売れる商店に集中させて出荷するなど様々なところで活用されている。
そして、この政策の目玉はもう一つ。
各自に最大限マッチする異性との『マッチングサービス』による婚姻の推奨と少子化への対策である。
このサービスの導入に伴い、婚姻率や出生率は大幅に上がり、過去にあったように『30代を超えて魔法使い』になるような男性も大きくその数を減らす。
このサービスのとんでもないところは、婚姻を結ぶ相手だけではなく、それ以外の男女の邂逅も合法的なものとして国が取り扱ったことにある。
これによって私生児や孤児の増加が想定されるところだが、このAI社会は『社会的な子育て』、つまりは親の手に寄らない子育て。孤児院や養育機関等による子供の養育を可能にしたのだ。
ビッグデータから保育や教育に秀でているものは優先的に養育機関の職員となることをあっせんされ、それなりの高給なのでその職の人気も高い。
なにより、こうした自由恋愛や性交渉、ジェンダーレスな交流までもを国が容認することにより私生活が充実することによって、各業種での生産能力も高まって国民総生産が右肩上がりになるという効果も表れたのである。
で、話を元に戻すと、環那の友人が言っている『あのアプリ』とは、この『マッチングサービス』の未成年版の事である。
国の主導する『マッチングサービス』は18歳以上は強制的に利用させられるのだが、少年少女の健全育成の観点から本来未成年は利用することはできない。
だが、そこはやはり人の三大要求の興味の強い領域。
民間アプリ業者による、未成年でも利用できる『疑似的マッチングアプリ』が爆発的に広がりを見せているのだ。
本来のマッチングサービスでは、個人の了承の元、マッチする相手に個人情報が送付されたりもするのだが、この『疑似アプリ』にはそこまでの精度はない。
それでも、年齢や居住地、通っている学校などある程度のぼかされた情報のやり取りはなされる為、とくに人口の少ない各コロニーにおいては相手の特定もそれなりに可能な状況となっていた。
なので多感な若者たちはこぞってこのアプリを導入する。
これによって、「自分に興味を持っている異性がどこそこに居る」「私の理想の王子様があそこに居る」などといった断片的な情報を得ることができ、異性に興味のある年頃の学生たちの話題の中心になっているのだ。
「環那だったら、いっぱい男の子から通知来ると思うよ~?」
友人はそうのたまう。
実際、容姿の整った環那は男子生徒からの人気は高く、今のこの会話にもクラスメイトが聞き耳を立てている状況である。
男子からすれば、意中の相手がこのアプリに登録しているとなれば、自分と交際できるきっかけの通知が来るかもしれないのだ。
したがって、男子たちが環那のアプリ導入に興味津々で聞き耳を立てるのも無理はないのである。
「わたしなんか~、C組の○×と相性いいとか通知来たんだよ? 全然タイプじゃないのに、ひどくない?」
「まあ、そんなこともあるから嫌なんだよ」
そんな会話をしていると、
「環那! そろそろアプリ入れてくれよ! 絶対、オレとの愛称ばっちりって出るからさ!」
環那や藍星と同じ中学から進学してきた同級生、相馬 淳司(そうま あつし)が環那に声を掛けてきたのだ。
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