第6話 にゃあ助。葛西環那(かさい かんな)
「にゃあ」
「おお、にゃあ助、お前にもちゃんとお刺身買ってきたからな」
「にゃあ」
「ふふふ、にゃあ助さんたらご機嫌ね?」
そしてもう一人? 一匹のオレの家族、にゃあ助。
メスの三毛猫で、なんと御年16歳。
つまり、オレと同い年。
でも、にゃあ助はネコなので人間に換算すると80歳を超える年齢になるのだとか。
その年齢のせいか、昔に比べて目を閉じて動かず香箱を作ってじっとしていることが多くなってきた。
オレが小さい頃はよく裏の畑で一緒になって虫やタヌキを追い回していたもんだが、今やその元気はない感じだ。
ちなみに、星華は自分が贅沢な食事をするのには遠慮する癖に、にゃあ助に贅沢をさせることには一切の躊躇はない。
星華が管理する我が家の食費のうちで、チュールの額はそれなりのウエイトを占めているのだ。
オレはにゃあ助の食器にキャットフードのカリカリと共に刺身を盛り付ける。
「にゃあ~ん」
そして、カリカリには目もくれずマグロの赤身をお食べになられる。
でも、よくできたネコであるにゃあ助は、後でカリカリもきちんと食べるのだ。
どうも、好きなものは先に食べるタイプらしい。
どうやらマグロの赤身は気に入ってもらえたらしい。
サーモンとどっちがいいか売り場で5分ほど悩んだ結果は正解だったようだ。
「さあ、オレ達も夕食にするぞ! 妹よ! フライパンをもてい!」
「ははーっ! 兄上様!」
牛バラ肉と一緒に白菜や糸こんにゃくを深皿のフライパンに入れ、みりんと醤油、砂糖も少々入れて今日はすき焼き風味だ。すまん、豆腐は買い忘れた。
朝に炊いて冷蔵しておいた白ご飯をレンジでチンしていざ食卓へ。
兄妹二人の食事に小皿は不要。
ちゃぶ台の上に直置きしたフライパンに二人で箸を伸ばす。
「「うんま!」」
そうして一口目を咀嚼していると、
ピンポーン
おっと、お客様の様だ。
「はーい、今出まーす」
夕食が始まるこんな時間の来客。
来訪した人物に、オレはあたりが付いている。
「やっぱり
「やっぱりってひどくない? あれ、もうご飯食べちゃった?」
訪れてきたのは、隣の家に住む葛西環那(かさい かんな)、おれと同い年の16歳だ。
まあ、隣と言っても田舎だけあって隣接しているわけではなくて、30mほど距離は離れているのだが。
そして、環那の手にはタッパーが二つほど。
「お、今日も持ってきてくれたのか。おばさんにお礼言っといてね」
「わざわざ持ってきた私にお礼はないのかな?」
「すき焼き風牛肉鍋ならご自由に」
「やった! うしのおにく!」
「おいおい、お前は飯食って来たんじゃないのかよ?」
「こんなこともあろうかと、腹五分にしてきたのだよ」
「環那ねえちゃん、早くしないとお肉冷めちゃうよ!」
「おお、せーかちゃん、今日も可愛い我が妹よ!」
「いや、オレの妹だから。あげないから。」
「ふふふ、いただきまーす!」
環那は台所からマイ箸を取り出し、持ってきたタッパーの蓋を取ってちゃぶ台に置くとおもむろにすき焼きの肉をつまんで口に入れる。
これが、我が家のいつもの夕食風景。
オレたちの両親が昨年亡くなってから、環那はこうしてちょくちょく家のおかずを持ってきてくれるようになった。
子供二人だけで暮らしているオレたちのことを、環那の父と母は心配してくれてこうして持たせてくれるのだ。
そして、いつのまにかこうして環那とも一緒に食卓を囲むようになった。
なお、環那もオレたち兄妹の流儀にのっとり、取り皿なしの鍋や大皿に直接箸をインして食べるスタイルである。
たまに持参するおかずの品数が多い時は、このメンバーの他に、環那の弟である和也君も一緒に来たりするのだが、彼は恥ずかしがり屋なのかいくら誘っても一緒に夕食は食べずに帰ってしまう。まあ、多感な年ごろだからな。
ちなみに和也君は妹の星華と同じ年で同じ学校に通っている。
「ふう~、食った食った。」
「環那、おまえそれオヤジのセリフ」
「まあ気にしないで。それよりも、あいせー?」
「何?」
「この前も牛肉、今日も牛肉。おまけに、にゃあ助ちゃんにはマグロのお刺身。」
「ああ、贅沢だろ?」
「ああ、贅沢だね。さて、その件で本題だよあいせー。」
「?」
これまでのふざけた調子から一転、環那は真剣な表情になる。
「あいせー、これって君がダンジョンで稼いだお金で買ったんだよね?」
「ああ。」
「危険なこととかしてないよね?」
「ああ、オレは
「でも、魔物の近くには行ってるんだよね?」
「そりゃあ、そうしないとドロップ品拾えねえからな」
「‥‥‥ねえ、おかずならこれからもっと持ってくる。失礼だろうが、お金だっていくらかは用立てられる。ダンジョンに行くのをやめる訳にはいかないかな? これはうちの父と母も同じ意見なんだが。」
「‥‥‥!」
環奈の申し出に、思わず反応する星華。
おそらくは星華もオレにダンジョンに行って欲しくなくて同調しようとしたが、環那の家から援助をもらう事に躊躇したのだろう。
まったくもう。
オレの周囲には優しくて気の良い人が多すぎる。
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