第5話 三上星華(みかみ せいか)
「ただいま~」
「お兄ちゃんおかえり!」
「にゃあ」
ダンジョンアタックを終え、本日の日当をもらって原付バイクで帰宅する。
セントラルとの陸路が存在していなくて陸送の物流が止まっているため、ここのような地方コロニーでは自動車などの大きなものは品薄なのだが、原付や電動自転車だったらドローン空輸で部品を運んで現地で組み立てできるため比較的手に入れやすい。
ちなみに、この原付は6年前に亡くなったじいちゃんが使っていたやつで結構な年季が入っているが、まだまだ現役で頑張ってくれている。
「今日は肉だぞー!」
帰り道途中のスーパーで買った牛バラ肉のパックを二つ取り出す。
「えー。お兄ちゃん、この前もお肉買って来てたよね? 大丈夫? 危ないことしてないよね?」
「はっはっは、この臆病お兄ちゃんがそんな危ない橋を渡るような真似をするわけがないじゃないか」
「もう、またそんなふうにふざけてごまかしてー。本当に心配しているんだからね?」
「ああ、大丈夫だ。ザワさんたちはベテランだし、危険なところにはオレが頼んでも連れて行ってくれないよ。ほんと、とっても良くしてくれる。」
「うん。三澤さんたちのことは信頼しているしとってもありがたいんだけど、それでもやっぱり心配なんだから」
「はは、せーかは心配性だな。まるで母ちゃんみたいだ」
「そうだよ! お兄ちゃんにまで何かあったら、私一人になっちゃうじゃない‥‥‥」
3歳下の妹、三上星華。
この会話からわかる通り、とっても心配症だ。
「それに、食費なら今月は余裕があるんだから、本当に無理しなくていいんだからね? 私は牛肉じゃなくてもトリさんのお肉でも大丈夫なんだから!」
そして、とっても倹約家だ。
両親がダンジョン最奥に吶喊して戻ってこなくなったとき、オレは15歳、星華は12歳。
それから、当然のようにオレたちの生活は裕福とは言い難いものになっていった。
両親は、探索者をしていて、個人事業主の扱いになっていた。
危険な職業なので装備を充実させる必要があり、しかもよく破損しては修繕や買い替える必要もあったため、貯蓄というものはそれほどなかったようだ。
さらにオレの我儘で両親を死亡扱いにしていないこともあり、オレたち兄妹が未成年のまま生活保護や遺族年金をもらえることもなく、また探索者として加入していた死亡保険金も下りてくることもない。
そんな収入のない我が家ではあるが、幸いなのは自宅が賃貸ではなく、家賃がかからない昔からの持ち家であったという事。
この国にダンジョンが発生した時、生前の祖父はまだ子供だった。
祖父の父、つまりオレのひいじいちゃんは、国の施策に従ってここ広先市からセントラルに移住していたが、そこでダンジョン発生とコロニー構築の話を聞いて先祖代々住んできたここ広先の実家に戻り、磐城ダンジョンを攻略する『探索者』となったのだ。
おかげで、金銭的には裕福とは言い難い生活ではあったが、広々とした実家と庭でオレたち兄妹はのびのび育つことが出来た。
それでも、「お金がない」という感覚は妹の人格形成にも影響を与えてしまったらしく、星華はとてもつつましく、何かにつけて遠慮ばかりして自分の欲しいものや希望すらも押し殺してしまう性格になってしまったのだ。
そして、とてもまじめであり努力家でもある。
学校の成績は常に一番であり、教師や周りの大人たちからの印象も良い。
ただ、その分、兄としては同世代の子たちとうまくやれているのかが気になるのだ。
家計に負担をかけるのを嫌い、部活動にも所属していない星華は授業が終わるとまっすぐ家に帰ってきて勉強に取り組む。
友人と遊びに行ったりしている様子も見たことがない。
年頃の娘が欲しがるようなおしゃれな服やアクセサリーなんかも決して欲しいなどとは言わず、ここ一年は外出用の私服すら買っていない。
個人が持つことを義務付けられている個人用情報端末の中にも、動画や配信や疑似マッチング等の娯楽的なものは一切なく、参考書や学習以外のアプリは入れていない様子だ。
ちなみにこのご時世、全国放送のテレビなどはなく、あるのは端末の画面を拡大してみるためのモニターのみ。
つまり、娯楽用のアプリを入れていなければ世の中の話題やトレンドが全くわからないということになるのだ。
オレ自身、同級生たちと関係性は良かったとは言えない。
動画や配信なんかのトレンドにそもそも興味のなかったオレは周囲の話についていけなかったし、遊びに行く話なんかにも参加するのを控えていたからだ。
まあ、一人で過ごすことは別に苦痛ではなかった。
家に帰れば妹とにゃあ助がいたから寂しいとは思わなかったからだ。
ただ、対馬みたいな厄介なやつに絡まれるのには辟易したが。
なので、妹の星華にはオレと同じようにはなってほしくない。
もっとおしゃれをして、もっと流行に敏感になって、同年代の友人と遊んだりしてほしいのだ。
この前、ザワさんの奥さんであり、同じパーティーメンバーの佳子さんに星華の服を見繕ってもらった。
ダリア野というデパートで売られていた5万円のワンピースを星華に買ってあげるのが今のオレの目標だ。
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