第4話 『ザワ』さん

 磐城中学校での同級生だった、対馬 駿(つしま すぐる)。


 彼は『探索者専門高等学校』に通うことが決まっている。


 成績はあまりよくはないが、運動神経はそれなりにあってプライドが高いタイプで、勉強でもスポーツでも事あるごとにオレに突っかかってきていた奴だ。


 スポーツは兎も角、勉強においては学年首位であったオレに対して何を張り合って来ていたのかはいまだに謎だ。


 で、スポーツ分野に関しては、短距離走や長距離走の度に張り合って来ては僅差でオレに負けるという事を小学からの9年間繰り返し、中学になってから始まったスポーツチャンバラでオレから勝利したときにはとてもドヤ顔で威張られたりしたものだ。


 彼は小さい時から探索者希望であり、剣術道場にも通っていたからチャンバラでオレに勝っても当然だと思うのだが。



 彼がオレに突っかかってきた理由として、オレは貧乏だというのも大きかっただろう。

 不潔にしているわけではないが、やはり母親がいない環境では洗濯や繕いも十分とは言えず、薄汚れ感は否めない。


 そんな「貧乏くさい」オレに何かと負けたりするのは、裕福な家庭で育った彼のプライドが許さなかったのだろう。

 


 で、そんな彼が探索者用品売り場で取り巻きを連れてオレに絡んできた。


 彼は自らの希望通りに探索者の高等学校に進んだことで周囲からももてはやされていたのだが、オレが高等部を経ずに探索者デビューするのがよほど気にくわなかったのか、クラス各員の進路が公表されてからはより一層オレを睨む目にチカラが入っていたのだ。


 そんなオレが、探索者用品売り場にいて高額商品を眺めているのだ。


 これは絡んでこないはずはない。



 他の客も多く行きかうその場で彼やその取り巻きは、さんざんオレのことを「貧乏人」やら「中卒」やらと口汚い罵倒でこき下ろした。


 オレもその場を早々に去れば良かったのだろうが、その日のうちにいろんな商品を見てしまいたいとの思いがあったためその嵐が行き過ぎるのをその場に立ち尽くしたように待っていたところ、それを見ていた大人の人が声を掛けてきたのだ。



さきたがらさっきから黙って聞いでれば、ずんぶずいぶん偉そうだねがおめがだお前ら! 人のごど貧乏だのなんだのしゃべってらども、おめんど自分でじぇんこお金かへいだ稼いだごどねえくしぇにないくせによぐほんただにそんなにいい気なれるもんだな! しょしぐねが恥ずかしくないか? ほんたらごどそんなことわがらねわからないわらし、とっとどえさ家に帰れ!」


 そう一喝してくれたのは、広先コロニー所属探索者パーティー『暴熊』リーダーの三澤 義明(みさわ よしあき)さん。


 それが、通称「ザワ」さんとの初めての出会いであった。






 その後、同じ建物に併設されているコーヒーショップでオレはザワさんに事情を話す。


 すると、なんとザワさんはオレの両親のことを知っていた。


 1年前のあの日、ベテラン冒険者だったザワさんたちもまた、迷宮大氾濫の迎撃に出ていたのだとか。


 次々あふれ出てくる魔物に圧され、体力も限界となり死を覚悟した時突如魔物の湧きが止まってどうにか生き延び、それがオレの両親が最深部に特攻をかけたおかげだと後で知って、心から感謝して尊敬していたそうだ。



 ここでオレに出会ったのも何かの運命だと。


 これからは何かあっても、何もなくても自分たち『暴熊』を頼ってくれと。


 ザワさんは、そんな暖かい言葉をオレにくれた。





 オレの抱える事情を知ったザワさんは、ダンジョンアタックの都度、オレにポーターとして参加するよう声を掛けてくれた。


 きっちりとハローワークを通しての手続きもして、いらぬ横やり等が入らないようにもしてくれた。


 しかも、最初は『支度金』として、装備を整えろと10万円ほどくれた。


 遠慮はしたが、「お前の装備が整っていないと余計に護衛に気を割かなければならないから逆に迷惑なんだ」と説得され、売り場にあった初心者用の強化プラスチックで要所が補強された探索スーツと安全靴にサバイバルナイフ、そして大容量リュックを準備することが出来た。


 まあ、初回の探索時に手に軍手、頭に中学の自転車通勤用のヘルメットで向かったら、その後に追加で5万円もらってしまった時は恥ずかしかった。


 ということで、合計15万円ほどの『初期投資』をしてもらったわけだが、オレはこのお金はきちんと返すつもりだ。


 じゃないと、オレの心の奥での後ろめたさとか申し訳なさとかが暴れて仕方がない。



 そんなこんなでザワさんたちに連れられてダンジョンに潜り始めて約3ヶ月。


 ある時、オレが参加した最初のころに比べてパーティーの『戦果』がだんだん増えてきていることに気が付いた。


 これは、メンバーさん達がオレのことをカバーすることにチカラを振り分けていたからで、オレが慣れてくるにつれそのカバーの比率が少なくなってきているのだと合わせて気が付き、重ね重ね非常に申し訳ない気分になってしまった。

 

 

 だが、今はようやく15万円も返し終わり、オレの動きもそれなりに洗練されてきたと思われ、オレの申し訳ない気持ちも小さくなってきていた。




 そう、すべてが順調に思えていた。


  

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