第3話 『探索者見習い』

「ザワさーん、この魔石欠けてますけど拾いますかー?」


「バックに余裕あるなら突っ込んどけ。そんで満タンなったらそれから捨てろ」



「りょーかいでーす」



 『探索者』のオレは今、磐城いわきダンジョン7階を攻略中の5人組パーティー、『暴熊ぼうくま』に荷物持ちポーターとして同行している。


 『見習い』の文字が取れるには、最低でも18歳になって本登録国家試験を受験して合格する必要がある。


 ちなみに、『探索者見習い』は16歳以上で講習を受けての登録が可能であり、これは本来、セントラルや各コロニーに設置されている『探索者専門高等学校』の学生たちが実習でダンジョンに潜るために設けられた制度である。 


 なので、『探索者見習い』が単独でダンジョンに潜るのはそもそも想定されていないのである。


 オレのような中卒で即、探索者見習いになるような奴はこの成熟したAI情報化社会の国では、全体でもそうそういないだろう。




 ということで、『探索者見習い』でしかないオレは、まだ単独でダンジョン中層まで潜ることはできないため、このように他のパーティーに同行するしか稼ぐすべがないのだ。


 ここ磐城ダンジョンでは、見習いの身分では単独では3階層までの侵入しか許可されていない。


 1~2階層で出る魔物はスライムのみで、3階層からゴブリンがぼちぼちという感じ。


 スライムは倒すのは簡単だが、それは『コア』を砕く倒し方であり、そうするとドロップ品である『魔石』も砕けてしまい、収入がなくなってしまう。


 魔石を残して倒すためには斬撃耐性のあるスラボディーに直接攻撃でゼリー部分を細かくそぎ落としながら体積を削りきるという手間のかかる方法か、魔法で焼くしかない。


 魔法を覚えるには、ダンジョン深部で稀にドロップされる『スキルオーブ』を使うしかなく、しかもそのオーブで魔法を得られることは宝くじに当たる以上にレアな確率なのである。


 なので見習いの身分で単独で金を稼ぐには長時間かけてスライムを削るか、見習い一人ではハイリスクなゴブリン狩りを敢行するしかないのだ。


 余談が長くなってしまったが、そういうわけなので今のオレにはこのようにダンジョンを攻略するパーティーの『荷物持ちポーター』をするのがお金稼ぎの最適解なのである。






「まさるー、体力とマナ、まだあるがー?」


「おう、そろそろ休憩してえどごろだな」


「よっしゃ、階段安全地帯で休憩すっぺや」


「あいせーちゃーん、水筒出してけろー」



 広先コロニーに属する5人組ベテランパーティー『暴熊ぼうくま』。


 このパーティーのみんなは、中卒探索者見習いというイレギュラーなオレを可愛がってくれるいい人たちだ。



「今回は結構じぇんこ銭っ子稼げだんじゃねえが?」


「んだんだ。まずまずイイ感じだべ。」


「あいせー、星華せーかちゃんにんめー美味しいもんかへで食わせてけるあげるんだよー」


「あざっす」



 オレのこのパーティーでの取り分は、アタック利益の5


 10万の利益が出れば、5千円の日給となる。


 これは単なる荷物持ちの報酬としては高い方で、だいたいは2~3くらいが相場である。


 今日は回収した魔石の量からして、すでに利益30万円を超すことは確定しており、オレの収入1万5千円は堅いところだ。



「あいせーは今日どこのスーパーに行くのー? ハッカ堂? ダリア野?」


「いや、近所のコニブースです」


「えー、せっかく儲がったんだもの、もっと高級なスーパー行げばいいっしゃ」


「ガブセンターでいがったら帰り乗せでってやるど?」


「あ、今日原チャで来たので大丈夫っす」


「んだ、わへねんで忘れないでオークのドロップ肉も持ってげよ?」



 みんな、本当にいい人ばっかりだ。



 このパーティーの皆さんと出会ったのは2か月ほど前。


 オレが磐城中学校を卒業した次の日だ。



◇ ◇ ◇ ◇





 その日、オレは4月からの探索者活動に備えてハローワークで『荷物持ち』の求人に登録した後、装備品の買い物に出ていた。


 行ったお店は、広先コロニーで最大の売り場面積を誇る『ダリア野』別館。


 そこは、探索者向けの装備品を専門に扱う売り場で、一つの建物の中すべてが探索者向けの商品が並べられている。



 防犯ベル付きのショーウインドウに飾られている日本刀。


 なんと一振り1200万円。


 その刃紋の美しさに思わず目を引かれ、買えるはずもない刀の前に立ち尽くしていた時の事。



「おうい、中卒探索者様が専用装備をお探しになられていらっしゃるぜ?」


 不意に揶揄するような声を掛けられる。



「いやー、さすがデビューした探索者様ですなー。我々専門高学生とは違ってご立派な武器をお探しのようで」


 悪意のある言葉とそれに追随する笑い声のする方角に目を向けると、そこにはつい昨日までの同級生たちが立っていた。


「おい藍星! 何いい気になってんだ? 刀どころかナイフも買えないくらいの貧乏人が、もう探索者気取りなのか? 笑わせんな!」


 それは、事あるごとにオレに食ってかかってきていた元同級生。


 この春から『探索者専門高等学校』に通うことが決まっていた、対馬 駿(つしま すぐる)がオレを睨みつけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る