第2話 三上藍星(みかみ あいせい)

「あいせー! そこのドロップ頼んだぞー!」


「はーい! 拾っときまーす!」



 ここは、とある国の本州最北部に在る、磐城いわき山の中腹に出来た『磐城ダンジョン』の7階層。


 現在、この磐城ダンジョンを攻略中なのは、男女5人のパーティー、『暴熊ぼうくま』の面々。


 そして、そこにはもう一人。


 このパーティーの荷物持ちポーターとして別枠で参加しているのがこのオレ、16歳の三上藍星(みかみ あいせい)である。


 通称は「あいせー」だ。


 オレの身分は、『探索者見習い』であり、この磐城いわきダンジョンを攻略するために設置された居住区コロニー、『広先ひろさきコロニー』に居住している。


 なお、学校には通っていない。



 ここ、旧赤林県広先市に設置された広先コロニーには7つの高等部があり、オレも本来であればいずれかの高等部に通うのが既定路線だったわけだが、オレはその道を歩まなかった。


 なぜならば。


 お金を稼ぐ必要があったからだ。





 オレがお金を稼がなければならない理由。


 それは、生活の為だ。


 もっと正確に言うならば、妹と愛猫との生活を維持する為である。




 オレは、3歳年下の妹、三上星華(みかみ せいか)と、御年16歳(人間換算約80歳オーバー)の老ネコ、にゃあ助(メス)と3人? で実家に暮らしている。


 両親は、昨年に発生した「迷宮大氾濫」のときに人となった。



 そして、3人での生活が始まった。



 生活費は、セントラルシティに住む叔母(実母の妹)が援助してくれている。


 オレは援助してもらうのが忍びないので生活保護を受給したいと思っていたのだが、叔母は独断でオレ達を扶養すると決めてしまった。


 このへんの事情は複雑なところになるのだが、オレたち兄妹は、役所の書類上ではいまだ両親の扶養に入っていることになっている。


 つまり、オレの両親は『死亡』ではなく、『行方不明扱い』なのだ。



 1年前の「迷宮大氾濫」。


 両親は、氾濫の元を絶とうと磐城ダンジョンの最深層部に突入してそのまま消息を絶った。


 両親突入後、魔物の氾濫が収まったことから両親は無事に氾濫の大本を叩いたと思われるのだが、その後両親がダンジョンから戻ってくることはなかったのだ。


 遺体の発見もなく、死亡確認が取れないまま月日は過ぎていき、1年を経過したときには「特別失踪」として死亡認定が出来ると役所から言われてはいたが、オレと妹はどうしても両親が死んだとは思えず、『行方不明扱い』のままとしてきた。

 7年が経過したときの「普通失踪」となったときも、おそらくそのままにするだろう。


 そのため、書類上では両親は生存しているためオレたち兄妹の扶養義務はいまだ両親に在り、生活保護の受給はスムーズにいかないと思われ、そんな状況ならばと叔母は率先してオレたち兄妹の扶養を申し出たのだ。


 それのみならず、叔母はオレたち兄妹のセントラルシティへの移住も申請してくれた。


 だが、このご時世、この国ではコロニーとセントラルシティ間のの移動は非常に困難である。


 セントラルシティと各所のコロニーは、物理的にもインフラ的にも切り離されている。


 送電線はおろか、鉄道や自動車道すらも断絶しているため、両所の間を行き来するには空路か海路しか存在しない。

 

 食料品や生活物資等の輸送は、定期的に無人ドローンで行われてはいるが、物資ではなく人間を移送するとなれば軍の輸送機の手配が必要になる。


 また、海路は自動車や重機を運ぶ軍所属のフェリーが年に1~2回ほど運行される程度である。


 民間の旅客機や旅客船など存在してはいないのだ。


 

 そういった事情のため、オレたち兄妹の移住の実現はなかなか難しい状況ではあったのだが、それとは別にオレ達にもセントラルに移住したくない理由があった。


 そう、オレも妹も、まだ両親は生きていると信じている。


 なので、ここ広先コロニーの地で、両親の帰りを待っていたいのだ。




 というわけで、ここ広先にある先祖代々の実家で家族3人で暮らしているのは多分にオレの我儘要素も強い。


 そんな状況下で、のほほんと叔母の援助で高等部に通うというのはオレの矜持が許さないのだ。



 そして、オレがお金を求めて働くのにはもう一つの事情もある。


 それは、妹の為だ。



 妹は、3歳下の磐来中学1年生、三上星華(みかみ せいか)13歳だ。


 妹は真面目で成績優秀、生活態度も模範生である。


 その性格は非常にまじめ。


 とてもまじめ。


 「石頭」とか、頭に「クソ」が付くほど超真面目。


 そんな妹なもんだから、とっても質素な私生活を送っている。


 叔母の仕送りで生活しているという状況で、妹にとって贅沢は敵なのだ。


 なので、妹が持つ国民一人一台所持を義務づけられている情報端末には、一切の娯楽要素が入ってない。


 服も学校の制服と体操服、部屋着くらいで出掛けるためのおしゃれな私服など持っていない。


 そんな妹に、少しでも贅沢をさせてやりたいのだ。



 叔母の仕送りには遠慮しても、兄のオレからのプレゼントなら受け取ってくれるだろう。


 多分。



 今度まとまった収入がはいってきたら、広先コロニー最大のデパートで服を買ってあげよう。






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