裏の畑の小屋にダンジョンが出来たので、愛猫と共に妹を貧乏生活から救います!
桐嶋紀
第1話 とある国家
ここは、とある国家。
時は近未来。
科学や通信技術が発展し、全世界で個人用情報端末が爆発的に普及して一人一台の端末を持つことが当たり前のような時代から、いくばくかの時が過ぎていた。
だが、これほどまで科学や技術が発展しても、人々の暮らしは豊かになることはなかった。
人々が生活の糧を得るための労働を強いられる社会の構造は継続し、さらには技術や資本、権力を持つごく一部の者たちによる支配、コントロール、搾取もさらに先鋭化の一途をたどっていた。
そんな社会構造の中、民衆の生活は『幸福』という言葉からはかけ離れたものとななっていた。
ここ、とある国では、ただただ糧を得るために死んだ目をして毎朝満員の電車に揺られて会社に通い、自由な時間も休日も体を休めるだけの役割しか持たないものと化して娯楽に使う時間もほとんどなく、まるで社会や会社の奴隷か家畜であるかのように生きる『社畜』という言葉も広まって久しかった。
そのような余裕のない生活を送る人々は自分自身の事だけで手いっぱいとなり、伴侶を見つけて家庭を作り、子を成すという行為を行うものはごく少数になっていったのも自然な流れである
合計特殊出生率の値は下行の一途をたどり、1.0を下回ってからもその下降はとどまらず、人口維持どころか労働力が不足し社会システムの維持すらも困難な状況にさらされることが目の当たりとなっていた。
その様な状況下において、このとある国の時の政権は思い切った政策を実行に移す。
それは、各個人のもつ端末の行動データを国が収集し、活用する「国民生活最適化改革」と銘打たれる。
各個人が端末で検索する内容、視聴するコンテンツ、位置情報による行動把握などすべてのデータを管理する政府は、AIを用いて社会システムの効率化、最適化を行う。
地方や過疎地域の住民には、国の中央地域に新たな住居を準備しての移住の勧奨、交通量のほとんどない道路や路線の閉鎖、街灯や信号機の消灯等や、利用頻度の少ない地域のライフラインの供給停止等。
「効率化」の文言にそぐわぬ社会システムの徹底的な再構築が行われ、余分なエネルギーや資源を使わないよう、少子化を経て人口の少なくなったこの国の民衆はとある地方にまとめられての生活を半ば強制され、いわゆる「コンパクトシティ」ならぬ「コンパクト国家」が形成された。
その国家におけるほぼすべての人々が住まう居住地域は、物理的に国家の中心地に形成されたこともあり「セントラルシティ」と呼ばれる。
さらにあわせて少子化への対策として、その収集データを活用した、「国によるマッチングサービス」も開始。
年代や趣味や嗜好等、データに基づいたAIの判断で、適齢期の男女の端末には「この国で一番適した結婚相手」の情報が送られ、それに基づいたお見合い場面のセッティング等も行われカップルや夫婦も次々と誕生、それに合わせて結婚子作り休暇なるものも設けられ出生率は上向きとなり、さらには子供を社会で育てる育児・育成事業も進められ、必ずしも結婚しなくても子供を生める社会、親が育てなくても社会が子供を育てる社会も実現し、減少の一途を辿っていた人口も回復、増加に転じようとしていた。
そんな、一見すれば成功したかに思える社会改革であったが、そこに大きな障害が立ちはだかる。
災害。
国土全体規模の地震が発生。
高度なインフラ整備が進められていた
これだけならばまだよかった。
もともと国中央部への移住で地方には人がいないのだから、それ以上の被害は発生しないものと楽観視されていたのだが、中央移住後に人が住まなくなっていたことで異状繁殖して野生化、狂暴化していた動物たちが、地震を境に人の住むエリアまで出没してくる事案が頻発。
その様な状況の中、人間に被害が及ぶ前に各自治体の自衛組織らが駆除を繰り返していたのだが、現れる動物たちは日ごとに凶暴性、頑強性を増し、とうとう軍の出動が無くては駆除撃退できないまでにその脅威を膨らませた。
そんなある日、野生動物の群れの中にこれまで発見されたことのない個体が発見される。
その個体は、いわゆるファンタジー創作物によく出てくるような「魔物」というものにほぼ同一の容姿をしており、その強さも他の野生動物とは群を抜いて凶悪であった。
「魔物」の度重なる人里への襲来を受け、軍による大規模な非住居地域への探索が行われ、その探索の結果は驚くべき内容であった。
「国土のいたるところに魔物の湧き出る洞窟が生成されている」
まさに、ファンタジー世界のダンジョンの発生である。
その知らせは、国民全体を震撼させた。
高度なデジタル、AIで管理され洗練した情報化社会におけるダンジョンの発生は皮肉としか言いようがないものであった。
だが、人類はそのような事態にも適応を見せていく。
過去に出版、活字化、映像化されたファンタジー要素のある創作物、ゲームの設定その膨大な量をAIに読み込ませ、さらには現在活性しているダンジョンや魔物の画像やデータなどを入力し、その甲斐あってAIはこの状況への最適解を導き出す。
それは、「対ダンジョン攻略コロニーの設置」。
ダンジョンの発生している地域に、攻略隊、およびそれをサポートする集団の形成。それに合わせ生活インフラを整えてダンジョン攻略のための一つの居住区自治体を構築するという施策である。
ドローンによる空撮で国土全体のダンジョン化した地域を特定。
空撮の為樹木や地形に隠れたダンジョンもあるため、そのすべてを明らかにすることはできないが、それでも把握できた箇所の中から優先順位を設け、早速「対ダンジョン攻略コロニー」の設置と、それに伴う住民の移住は進められていった。
そうして設置された各コロニー。
そこの新天地に移住してダンジョン攻略を進める人々。
彼ら彼女らは、新たな生活拠点に根を下ろし、日々を過ごし、家庭を設けて子を成した。
そして子が孫を生み、孫がひ孫を生むほどの年月が流れた―――。
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