わけありな人々:2

若い男の髪は金髪で耳にはピアスをしており、どことなく少年ぽさが残っていた。  そのせいかあまり男臭くない。いかにも今時の女の子たちにもてそうな子だ。  十六・七だろうか? 高校生ぐらいに見えた。  だが、いかにも傲慢そうでわがままな感じがした。

(どこかで見たような……?)

 彼を見たとき、僕はそう思った。

「レオン君。まあ、落ち着いて」

(レオン……?)

「これが落ち着いていられるか! 隣の部屋の奴だよ! なんだよ、あいつは!」

「広岡さんのことかな?」

「そうだ! そのオッサンのことだ!」

 レオンはかなり頭にきている様子で、フロントの台の上を思いっきり叩く。

(ああ、思い出した。タレントのレオンだ!)

 レオンは最近売り出してきたタレントだったが、一週間ほど前、喧嘩沙汰を起こして週刊誌やテレビで騒がれていた。  そのうえ、それがきっかけで中学時代に万引きやカツ上げなどの過去の非行歴が暴落されて、所属事務所から謹慎処分を受けていたはずだ。  たぶん週刊誌などの取材から逃げるために、ここに泊まっているに違いない。

「酒を飲んでは一日中、グダグダと喚きやがって煩いんだよ! 頭にきて壁を叩いたら、『煩い!』と怒鳴り返しやがった」

 どうやら笹木のいうとおり、このホテルの壁は薄いらしい。

「広岡さんには私から注意しておくから。今夜は我慢してやってくれないか」

 オーナーはなんとかレオンをなだめようとしたが、彼は聞こうとはしない。

「冗談だろ! あんなオッサンはさっさと追い出せ! 迷惑だ!」

 するとそんな彼に笹木が言う。

「レオン君、君の気持ちもわかるが、広岡さんには広岡さんの事情があるんだから」

「煩い、オッサンは横から口を挟むな!」

「オッサン……!」

 レオンにオッサン呼ばわりされて笹木はむっとした顔になる。  若い彼から見れば笹木も僕もオッサンと呼ばれても仕方がないだろうが、さすがにそう呼ばれるとあまりいい気はしないものだ。

 そのせいか笹木は憮然とした様子で、レオンの傍へツカツカと歩み寄った。

「あのな。大人には大人の苦労というのがあるんだよ。わかったか、ガキ」

「なんだと! 俺のどこがガキだ!」

「ガキだからガキだといってどこが悪い」

「なにを!」

「二人ともやめなさい」

「煩い! 爺は引っ込んでいろ!」

 オーナーが止めようとするが、二人はにらみ合って一発即発の状態になった。

 そのとき、二階から中年の痩せた男がふらついた足取りで階段を下りてきた。  男はかなり酔っぱらっており、目は据わり、足下も危なっかしい。

「俺が……なにをしたっていうんだ。畜生……女房子供のために一生懸命働いてきたのに」

 なにかぶつぶつ呟きながら階段を下りてくる。  だが、中程まで来たとき、彼は足を滑らせてそのまま落ちそうになった。

「危ない!」

 僕は慌ててそんな男を支えたのだった。

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