黄昏ホテル

 ドアを開けると、来客を知らせる鈴の音がカランカランと鳴った。  僕は一瞬、戸惑ったが、今更、引き返すわけにも行かず、鈴の音に押し切られるようにしてホテルの中へと入った。

 入ってすぐの場所がホールになっており、アンティークな丸いテーブルを囲んで長椅子が一つに一人用の椅子が二つ置いてある。  右手奥に二階へ上がる階段があり、その階段下にカウンターがあった。

 どうやらそこがフロントらしい。

 フロントとは反対側にはミニバーがあって、後ろの壁の棚にはウイスキーから日本酒まで酒の瓶が並んでいる。  ホテルの中はレトロな雰囲気を漂わせていたが、掃除が行き届いているせいか、それほど寂れた感じはしなかった。  まるで一昔前の時代に迷い込んだような、そんな気がした。

 フロントにはガタイのよい強面の男がいた。

 黒っぽいTシャツにジーパンを穿いており、その腕は丸太のように太く、胸板も分厚い。  髪には白いものが混じってはいたが、四十過ぎだろうか……。  どうやら彼がここのオーナーらしい。

(確か……四方とかいったっけ)

 ホールにはもう一人り、長椅子に腰掛けて暇そうに新聞を読んでいる若い男が居る。  薄い茶色のスーツを着てはいたが、ネクタイはだらしなく緩めており、テーブルの上には飲みかけのウイスキーのグラスが置いてあった。  身繕いをただせばわりといい男の部類に入るだろう。

 ただ、どことなく軽薄そうな感じがする。

 僕を見て、一瞬だけ意外そうな顔をしたが、すぐに興味津々という顔になる。

 僕はそんな彼のぶしつけな視線を無視して、フロントへと行った。

「すみません。空いていますか?」

「いらっしゃいませ。空いていますよ」

 オーナーは人なっこい笑顔で答える。  強面風に見えたが、愛想がいい。

「よかったぁ~!」

 僕は手にしていたバッグを床に降ろすと、大げさに叫んだのだった。

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