第6話 繰り返す過ち

 のちに知った話。


 この時期、彼は自分名義の携帯電話を売った。

 この時期、彼は自分名義の銀行口座も売った。


 この二つが何に利用されるか、誰でも容易に想像できる。

 振り込め詐欺だ。

 警察が調べ始めた際、一番先に足がつく連絡先と振り込み口座。


 彼はもうそんなこともわからないほど……。

 いや、わかっていても手を出さなければいけないほど、追い込まれていた。

 それからしばらくして、彼のもとには警察の人がやってきたらしい。


 ここで「らしい」と書くのは、私がその時期の彼のことを知らないからだ。


 その前に、私は彼との連絡を絶っていた。

 彼が電話や口座を売っていた同時期、彼はそれ以上の過ちを犯す。

 私はそれをきっかけに彼との縁を切っている。


 これまで私は、心が壊れないよう彼を受け入れることが、彼のためになると思っていた。

 そう思っていたからこそ、おかしくなっていく彼の言動を否定せず、ただ静かに聞いていたのだ。

 しかし、それが完全に間違いだったと思い知る出来事が起こった。


 始まりは、なんでもない仕事のグチ。

 この時期の彼は、大半の業務をほかの人に引き継いでいたが、まだお客さんとの対応だけは続けている状態だった。

「今週入金予定だったお客さんから支払いがなかった」

 そういう内容の話を、彼は私にした。


 普通の話だが、何か引っかかるものがあった。


 ただ支払いを忘れたというだけの話なのに、彼はやたらと細かい部分まで詳細に流れを語っていた。

 いつもならこんな細かいところまで、彼が私に話すことはない。


 嫌な考えが頭をよぎる。

 いやいや、そんなまさか……。

 だって、さすがに……。

 心がその考えを否定する。

 しかし、嫌な直感ほど外れたことがないのだ。


 彼と別れた後、私は彼と同じ職場にいる友人に電話をかけた。


「突然ごめん。あのさ、彼のお客さんで今週入金予定の人、きっと何人かいると思うんだけど、その中で支払いがなかった人……。その人に、どうか、電話で確認してもらってもいい?」

「え……、それってどういう……。まさか、あいつまた!?」

 電話の向こうで、友人の困惑する声が響く。

「勘違いならいいんだけど……。ちょっと気になったことがあって」

「……わかった。今日はもう遅いし、会社も出ちゃったから、明日調べて電話してみるよ」

「ありがとう。ごめんね」

 私はそう言って電話を切った。


 勘違いであってほしい。

 祈るような気持ちで、私はしばらく、暗くなった携帯電話の画面を見つめていた。


 しかし、願いは虚しく、翌日私は友人から沈んだ声で報告を受けることになる。


「入金なかった顧客に連絡した……。『払った』ってさ……金はって……」

 友人の言葉に、体が鉛のように重くなっていくのを感じた。


 そう、嫌な予感ほどよく当たるのだ。

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