第5話 壊れていく心
借金まみれの状態を長く隠しておけるわけもなく、ほどなくして彼の借金は会社にバレる。
返済が滞り、闇金業者が彼の会社に電話をかけ始めたのだ。
そして私も、ことの全容を知ることになる。
言葉が出なかった。
あまりの深刻さに、解決策は何も思い浮かばなかった。
彼の友人の携帯電話にも、闇金業者からの電話が入り始めているらしかった。
「おまえも気をつけろよ」
彼と同じ職場の友人はそう言った。
気をつけろって言われても……。
私はただ頭を抱えた。
幸い、私のところに闇金業者から電話がかかってくることはなかった。
「もうご両親に何があったか話して、助けてもらった方がいいよ」
あるとき私が彼にこう言うと、彼は静かに首を横に振った。
予想はしていたことだった。
友人たちにすらこんな状況になるまで隠してきたのだ。
一番酷い状況になってから、親に話して助けを求めるなど、彼が最もしたくなかったことだろう。
「親も年だから、そんなこと知ったらショックで死ぬかもしれない」
彼はそう言って目を伏せた。
私はもうそれ以上何も言えなかった。
このあたりから、彼の言動は少しずつおかしくなっていく。
「まぁ、安心しろ。おまえに借りてたお金はドンと一気に返すからさ!」
何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
もはや私が貸したお金のことなどどうでもよかったが、あまりにも非現実的な発言に少し怖くなった。
「……ドンと、とかいいからさ……。落ち着いたら毎月一万ずつでも返してよ……」
少しでも現実的な話がしたくて、なんとなく以前彼に言ったことを口にした。
「わかってるよ。毎月返せばいいんだろ」
そう言って顔を背けた彼の口調からは、わずかに苛立ちが感じ取れた。
私は確信する。
彼の心は、壊れ始めている。
別の日、彼は会うなり「自分は裏切られた」と嘆いた。
話を聞くと、支払い能力があると証明すればお金を貸してくれるという闇金業者があったらしい。
その証明としてお金を振り込んだのに、お金を貸してくれなかったというのだ。
もう闇金業者でも彼にお金は貸してくれなくなっていた。
「裏切られた」
「もう人を信じられなくなりそうだ」
「人間不信になった」
そう嘆く彼を見ながら、もう何も言う気になれなかった。
それは彼からお金を抜かれていたお客さんが言うべきセリフだろう。
壊れていく彼を見ながら、一体私は彼に何をすればいいのか、もうわからなくなっていた。
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