第2話 悲しげな横顔

「ちょっと今月厳しくて、お金を……貸しほしくてさ……」

 彼からそう言われたとき、私はあからさまに嫌そうな顔をしたと思う。

 そもそも貸し借りは嫌いだ。

「えー! 何にそんなに使ったの! 別にいいけどさぁ……。いくら?」

 渋々そう聞くと、彼は数万円だと答えた。


 貸し借りは嫌いだ。だから、あげるつもりで渡した。

「ホントごめん! すぐ返すから!」

 頭を下げる彼に「別にいいよ」と応えながら内心ため息をついた。


 これは返ってこないな。


 そう思ったが、私はそれほど気にしていなかった。

 数ヶ月後、彼が車の中でこう切り出すまでは……。


「えっと……、会社の人にお金借りてたんだけどさ……、その人が急に『すぐに返せ』って言ってきてて……。今そんなお金なくて……」

 彼の言葉に、さすがに驚きを隠せなかった。

「え!? そんないろんな人に借りてたの!? え!? いくら!?」

 彼はまたしても数万円だと答えた。

「え……、一体何をそんなに……」

 もう言葉が出なかった。

 彼は大らかだが、あらゆる面でルーズではあった。


「わかったよ……。わかった、もう貸すからさ……。あとほかには誰からも借りてない? 貸すから、借りるのはとりあえず私からだけにしなよ。それで毎月1万円ずつでいいから返して。何年、何十年かかってもいいから!」

「ありがとう……。もうほかには誰からも借りてないから……」


 このとき、私は気づくべきだったのかもしれない。

 プライドの高い彼が、友人である私にお金のことを話した時点で、すでに相当追い詰められているということに。

 彼がすでに取り返しのつかないところまで来てしまっていたことに。


 このときの私は、何もわかっていなかった。


 もうこの時点で末期の状態だった彼が、このときの私の言葉をどんな心境で聞いていたのか、私にはわからない。

 思い返せば、その横顔はどこか複雑で、悲しげな笑みを浮かべていた気がする。

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