転がり落ちゆく君の隣で、ただ私は……

はるこむぎ

第1話 弱い人

 私は弱い人間が苦手だ。


 こう書くと、某大人気アニメの人気キャラクターのセリフみたいだが、これはもちろん戦闘能力の話ではない。

 最近よく聞く、豆腐メンタルと呼ばれる人の話でもない。


 苦手というより少し怖いというのが正確かもしれない。

 弱っている人、追い詰められている人が持つ、独特の危うさが怖い。


 私が知っている弱い人は、明るく賢く、コミュニケーション能力の高い人だった。

 仕事においても優秀で、周囲の期待は大きく、どちらかといえば図太く強い人だと思われていた。

 しかし、彼はとても弱かった。


 期待に応えられないことを恐れ、周りの人たちに嫌われることを怖がり、自分を守るために数えきれないほどの嘘を重ねた。


 彼が犯した最初の過ち。

 それは、払い込みだった。


 営業職だった彼には毎月ノルマのような数字が課せられていた。

 期待値が高かった彼のノルマは当然のように高い。

 262の法則でいえば、彼は上位2割の存在。

 結果を出さなければならない立場だった。


 あるとき、彼はノルマを達成できなかった。

 しかし、達成できないことは許されない。

 そこで、どうしたか。

 彼は架空の売り上げを立てた。

 そして、自分でその金額を支払ったのだ。


 それだけならば、表に出てこないだけで、もしかしたらよくある話なのかもしれない。

 しかし、彼はそれをきっかけに一気に人生を転がり落ちていく。



 彼は私の友人だった。

 なんでもない話でよく一緒に笑い転げ、グチを言い合い、お互いを鼓舞し合った、どこにでもいる普通の、大切な友人。


 今でも私は、あのとき彼に何をすべきだったのか、わからずにいる。

 

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