第35話 記念すべき第一回企画会議を開催します!さぁ、みんなのアイディアは如何に?

「さぁて、皆さん!アイディアをちゃんと持ってきましたかぁ?」


「・・・何で響子ちゃんが仕切ってるのよ?」


「ふふっ、別にいいんじゃない?こう言った会議は、明るく、前向きにやらないと。皆で顔を突き合わして、暗――――く話し合ったって、いいアイディアは出ないと思うよ。」


「ほら、紙織殿。ドルフィン殿もこう言っておられるではないか。」


「いや・・・響子ちゃんのノリは何時もふざけているようにしか見えないんだけど・・・。」


「まぁまぁ、紙織ちゃん、取り敢えず話を進めよぉ。」


「うーん。では、まずは仕切り屋の響子殿から企画を発表してもらおうではないか!」


「ふふん。我から先に発表すると、皆の企画が恥ずかしくて発表できなくなるかもよ!・・・まぁ、良いか。では、我から発表する!」


「はいはい、前置きが長い!早く発表しなさい!」


「うっ・・・では、発表!ほら、年末に理科の羽屋河先生がなんちゃら科学賞を受賞したって話があったじゃん!羽屋河先生の研究の内容とインタビューで番組を作るってのはどう?」


「ふむふむ、“羽屋河先生の研究を紹介する番組”っと。」


 私は響子ちゃんの企画をホワイトボードにさらさらっと書いた。


「では、次、紙織ちゃん、どうぞ!」


「えーと、私の企画は、お正月に蓑輪大社の書初め大会において、我が校の書道部が最優秀賞を取った、ってことを番組にするのはどうかと・・・。」


「ふむふむ、“書道部の書初め大会での受賞を紹介する番組”っと。」


 響子ちゃんの企画に続けて、紙織ちゃんの企画もホワイトボードに書き留めた。


「次は、私ね。私の企画はねぇ・・・。」


 そう言いながら、私は二人の企画の横に自分の企画を書いた。


「えーと、何々・・・“千本桜並木道の紹介”・・・???」


 響子ちゃんは、読み上げながら頭の上に大量のクエスチョンマークを付けているようだった。紙織ちゃんも小首を傾げている。


「ドルフィン殿、これは何でござるか?」


「この企画はねぇ、学校の近くにある千本桜並木道を紹介する番組を作ろう!と言うものだよ。」


「千本桜並木道って、学校の裏山にある坂道よね?」


「そうだよ。」


「坂道を紹介して面白いの?」


「あの坂道は、元々はケーブルカーの線路跡なんだよ。」


「えっ?そうなの?」


「そうだよ。だから、ケーブルカーの歴史と、現在の様子を対比させたら面白いんじゃないかなぁって思って。」


「へー、こんな所にケーブルカーがあったんだ・・・知らなかったなぁ。」


「私たちが生まれる前に廃線になってるからね。ほら、駅前にケーブルカーの車体が保存展示されてるでしょ。あれよ。」


「えっ!?そんなのあったっけか?」


「何言ってるのよ、響子ちゃん。駅前広場の隅に展示されてるじゃないの。」


「紙織ちゃんも知ってるの?」


「知ってるも何も、毎日見てるでしょ?」


「御免、目に入って無かった。言われるまで知らなかったよ。」


 紙織ちゃんがやれやれと言うように首を横に振っている。まぁ、でも、興味がなきゃ知らんわなぁ。


「お山の上に有名なお寺があるでしょ。あのお寺の参拝客の足として、大正時代に開通したものなの。でも、維持管理が大変で、平成時代になる前にバスにとって代わられたそうよ。」


「ふーん。ドルフィンちゃん、よく知ってるねぇ。」


「むむっ!さては、ドルフィン殿、オヌシ“鉄”であったか?!」


「いやいや、私は鉄ヲタじゃないって!毎日、目にするケーブルカーに興味が湧いたから調べてみただけだよ。・・・さて、三人の企画が出揃ったところで、どの企画を採用するか審議しましょうか。」


 はいっ!と紙織ちゃんが手を挙げた。


「今回の番組作りにおいて、最も考慮しなければならないポイントは何かな?それが審議の方向性を決めるような気がする。」


「おっ!紙織ちゃん、良い点に気が付いたね。じゃぁ、ホワイトボードに書いていこう。」


 私はホワイトボードに“考慮すべきポイント”と書いた。


「さぁ、気が付いた点をどんどん言っていこう!」


 はいっ!と響子ちゃんが手を挙げた。


「今回の番組は、私達にとって初めての作品になる訳でしょ?だから、撮影の練習になるものが良いと思う。」


「えーと、“撮影の練習になること”・・・で、いいかな?」


 私がホワイトボードに書き終わると同時に、はいっ!と、今度は紙織ちゃんが手を挙げた。


「初めての作品ってことで、編集なんかが難しくならないことが重要だと思う。だから、台本をあまり複雑なものにしないこと・・・かな?」


「えーと、“複雑な台本を書かない”・・・次、私が発言してもいいかな?」


「どうぞ、どうぞ。」


「ご遠慮なく。」


「では・・・私の意見は・・・」


 そう言いながら、私はホワイトボードに“1分で仕上がる内容であること”と書いた。


「今回のコンテストでは、番組部門は1分以内と言う時間制限があります。だから、ネタ的に1分を超えてしまうものはNG・・・かな?」


 その瞬間、響子ちゃんも紙織ちゃんも、あっ!?と言う顔になった。


「そうだった・・・1分しか時間がないんだ・・・。」


「これは・・・私のも、響子ちゃんのもボツかなぁ・・・。」


「まだそうと決めるのは早いよ!これから、それぞれの企画にはどんなシーンやカットが必要か、アイディアを出し合っていこう!まずは、響子ちゃんのからね。」


「まずは、科学賞がどんなものなのか・・・どこが主催して、どのような研究に与えられるのか・・・そんな説明が必要だし、台詞だけじゃなくて画も欲しいよね。」


 “どこが主催で、どのような研究に与えられる賞なのか”・・・と、私はホワイトボードに書き込んだ。


「受賞した研究の説明も必要よね。」


「そもそも羽屋河先生がどんな先生なのかって言う紹介もいるよね。」


 “受賞した研究の内容”“先生の紹介”・・・と。


「先生が指導している科学部の紹介もいるかなぁ・・・普段の部活動の様子とか!」


 “科学部の活動の様子”・・・と。


「受賞式の様子も欲しいよね。」


 “授賞式の様子”・・・と。


「うーん・・・どれも個別に1分以上は要るんじゃぁ・・・。」


「まぁ、取り敢えず響子ちゃんの企画は一旦置いておいて、次は紙織ちゃんの企画に移ろう!」


「まずは、蓑輪大社の説明よねぇ。」


「さっきの科学部と同じで、書道部の活動の様子も必要よねぇ。」


「どんな作品が受賞したのかって言う、作品の紹介もいるね。」


「受賞した部員のインタビューとか、顧問の先生へのインタビューも必要・・・かな?」


 二人の意見をホワイトボードにどんどん書き写していくんだけど、これは結構忙しい・・・。だから、高倉高校ではポストイットに銘々が書いて貼るんだな・・・。なるほど、実際にやってみると理由が良く判るわ。


「さて、次は私の企画に移ろうか。」


「当時のケーブルカーの写真とか、駅舎の写真とか借りれないかなぁ。」


「お寺の紹介も必要だね。」


「現在走っているバスの画も必要かなぁ。」


「現在の並木道の様子の画もいるね。」


「駅前広場に展示されている車両の画も入れよう!」


 ふえーん・・・二人とも慣れてきて、意見を挙げるスピードが速くなってきているぅ・・・。


「あのう・・・もうちょっとゆっくり発言してくれない?書き写すのが間に合わないよぉ。」


「あっ!御免ごめん。」


「つい夢中になっちゃって・・・。」


 次からは、高倉高校を真似てポストイットにしよう!うん!


「どう?それぞれの番組のイメージは出来てきた?」


「うーん・・・やっぱり私のと紙織ちゃんのは、一分でまとまる気がしないなぁ。」


「そうだね。対して、ドルフィンちゃんのは・・・テンポ良くまとめたらイケそうだ!」


「よし!今回の番組はドルフィンちゃん案、“千本桜並木道”で決まりだな!」


「じゃぁ明日までに台本を書いてくるね。」


「よろしく!」


「明日は、皆で台本からコンテを作る作業だね。」


 こうして、私たちの初番組は、私の案に決まったのだ。

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