第34話 撮影の基本は教えてもらった!取り敢えず、1本作ってみようか!

「もうこんな時間か・・・今日のところは、これぐらいにしておこうか。」


 桑畑先生が腕時計を見ながら、お開き宣言をした。なるほど、窓の外を見ると空がすでに暗くなっている。


「桑畑先生ぇ!本日はお忙しい中、私たちのために時間を割いて頂き、本当に有り難うございました。お陰で、番組作りのやり方が少しは判ったように思います。」


「「有り難うございました!」」


 響子ちゃんと紙織ちゃんも、感動したって面持ちでお礼を言っている。ほんと、知らないことばかりだったなぁ。ものすごく勉強になった・・・。


「いやいや。今日した話は、番組作りのさわりをようやっと触れることができたってところだよ。まだまだ説明することがあるんだが、今日はもう日も暮れたし、時間切れだ。これから君たちが番組作りを始めて、行き詰まることが出てきたら、また訪ねて来なさい。アポさえとってくれれば、また講義をしてあげるから。」


「有り難うございます!本当に・・・本当に有り難うございました!すぐには高倉高校みたいな凄い番組は作れないと思いますが、私たちなりに、精一杯頑張ってみたいと思います。」


 他校の生徒に過ぎない私たちに、こんなに親身になってくれたことに感動して、自然とお礼の言葉が出た。・・・うん!頑張るぞ!


「君は特に筋がいい。練習を積んでいけば良い作品を作れるようになるだろうな。期待しているぞ!・・・では、うちの部員も今日はお開きにしなさい。東和さん達と一緒に帰るといい。」


「「判りました!お疲れ様でした!失礼します!」」


 おおっ!高倉の人達って、まるで体育系クラブの部員みたいだ。・・・うーん、でも私たちも神倉先輩の前だとこんなぐあいだから、一緒か・・・へへへ・・・。


「「「私たちも失礼します!」」」


 ☆


 冬の日中は短い。辺りはすっかり暗くなっていた。そのため、行きしなとは周りの様子が違って見え、下手すると道に迷うところだった。しかし、渋川さんら高倉高校放送部のメンバーが“一緒に駅まで行こう”と言ってくれたのでスムーズに辿り着くことができた。


「有り難う、渋川さん。今日は皆さんの活動を邪魔してしまったのに、帰りまで送ってもらうことになってしまって・・・ほんと、ごめんなさい。」


 すると、渋川さんはこちらの眼をじっと見つめながら、やや寂しそうな響きを持った声で答えた。


「・・・私たち、お友達だよね?友達の帰りを見送るのってお礼を言われるようなこと?それとも、栗須さんは私のことを友達だとは思っていないのかなぁ?」


「えっ!?・・・いや・・・その・・・お友達・・・でいいの?・・・当然友達っしょ、て態度で接するのは、厚かまし過ぎるような気がして・・・えーと、ごめんなさい!私、渋川さんとお友達・・・でいいの?」


「なんで疑問形なんですか!お友達です!・・・でも、栗須さんが嫌なんだったら・・・諦めるけど・・・。」


「い、嫌なんかじゃない!こちらこそ、改めまして、お友達になってください!」


「真帆!“渋川さん”じゃなくて、真帆って呼んで!友達は皆、真帆って名前で呼んでくれるよ!」


 私の返事を聞くと、渋川さんは眼をくりくりさせながら、提案してきた。


「なら、私のことも“栗須さん”じゃなくて、ドルフィンって呼んでね!友達は皆そう呼ぶんだ。」


「ど、ドルフィン?!え?なんで?」


「高校に入学した時に、クラスのお友達が私の下の名前を動物のイルカと勘違いして、“ドルフィンちゃん”って呼ぶようになったのが始まりなの。今ではすっかり定着して、親しい人は皆私のことを“ドルフィンちゃん”って呼ぶのよ。」


 真帆ちゃんは眼を白黒させてたかと思うと、突然ケタケタと笑いだした。


「あはははは・・・何それ?あははは・・・じゃぁ、これから私もそう呼ばしてもらうね!よろしく!ドルフィンちゃん!」


 こうして、私は真帆ちゃんと本当のお友達になったのだ!


 ☆


「それで、ドルフィンちゃん達はどんな番組を作ろうと思っているの?」


「まだ何も決まっていないよ。これから響子ちゃんと紙織ちゃんと話し合って、どんなものを作るか考えていくよ。」


 帰る方向が同じだったので、真帆ちゃんとは同じ電車に乗って番組作りについての話を続けていた。


「Nコン向け?」


「うううん。違うよ。できれば2月のコンテストに参加したいと思ってる。」


「えっ?!今から?間に合うかなぁ?」


「うーん・・・正直、不安だらけだけど、今度のコンテストは制限時間1分のショートムービーでしょ?番組作りの練習には丁度いいかなって・・・。いきなりNコン用の番組は無理だろうから・・・。」


「・・・うん。そうだね。番組作りもどれだけ場数を踏んだかだもんね。いろいろ作っているうちにコツが掴めてくるもの。・・・頑張ってね。楽しみにしてるから。」


「有り難う!失望させないよう努力するよ。」


 先に最寄り駅に着いた真帆ちゃんを見送った私たちは、電車の中で軽く打ち合わせをした。


「各自で最低1つは企画を考えて、明日学校で持ち寄ろう!」


「うん、判った。」


「1分間で作れそうな内容でないと駄目だよね?」


「取り敢えず、1分間云々は考えなくてもいいんじゃないかなぁ。そこにこだわると面白いアイディアが浮かばなくなりそう・・・。企画が決まってから1分間に収まるよう内容を詰める方がいいんじゃない?」


「そうだね。私たちは初心者なんだから、最初から思い詰めて作るんじゃなくて、楽しんで作ることが大事じゃないかな・・・作るのが辛いと嫌になって止めちゃいそうだ。」


「賛成。私たちの本業はアナウンスと朗読だもんね。アナウンスや朗読の練習をやりつつ副業・・・と言うよりも楽しみで番組を作るってスタンスで当面はいいんじゃないかな?」


「楽しみで番組を作る・・・か。そうだね!それを合言葉に頑張ろう!」


「「おおーーーー!」」


 ☆


「番組作りをやりたい?」


「はいっ!アナウンスと朗読と並行してですが、やってみたいんです!」


 翌日、私は早速西町先生に番組作りの許可を貰いに職員室に出向いた。


「まぁ、駄目と言う理由も無いし、最後まできちんとできるのであれば構わないが。」


「有り難うございます!えーと、そこでご相談なのですが・・・撮影機材なんかは学校にありますか?・・・と、言うか、お借りすることは出来ますか?」


 アナウンスや朗読とは違って、番組作りは機材が無ければそれで詰んでしまう。内心ドキドキしながら私は先生の返事を待った。


「撮影機材か・・・放送部には無いが、学校の備品としてはあるよ。借りる許可を取っておこう。」


「有り難うございます!」


「まぁ、きちんと続けられるようなら、放送部の予算を使って揃えてもいい。取り敢えず、一度やってみなさい。」


「判りました!」


 やったぁーーー。第一関門は突破だ!よし、次は・・・。


 ☆


「はいっ!外郎売!いくよ!せーのーはいっ!」


「「「こごめのなま噛、小米のなまがみ、こん小米のこなまかみ」」」


「「「古栗の木のふる切口、雨がっぱがばん合羽か」」」


「「「京のなま鱈、奈良なま学鰹、ちよと四五〆目」」」


「「「武具馬ぐぶぐばく三ぶくばぐ、合せて武具馬具六ぶぐばぐ」」」


「「「菊栗きくくり三きく栗、合てむきごみむむきごみ」」」


「はいっ!次、鼻濁音!いくよ!せーのーはいっ!」


「「「か[ん]ぐ、ま[ん]ぐろ、おに[ん]ぎり、りん[ん]ご、か[ん]がみ、がっこう、け[ん]がわ、がっき。」」」


「「「私[ん]が大[ん]が生です。」」」


「「「ごき[ん]げんいか[ん]がですか。」」」


「「「か[ん]ごの中から、うさ[ん]ぎと、ね[ん]ぎと、や[ん]ぎ[ん]がでてきた。」」」


「「「午[ん]ご4時から、午[ん]ご5時55分。」」」


「はいっ!以上で、日課の発声練習は終わり!続いて、企画会議だぁーーー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る