第36話 初めての番組作り!構成会議の後は、現地で撮影だ!ワクワク!
「パンパカパーーーン!ばんぐみぃだいほーーーん!」
私は響子ちゃんと紙織ちゃんを前にして、昨晩書いた台本を高々と掲げた。
「まずは、台本を読み上げまーす!心して聞くように!」
「前置きはいいから、早く読んでよ。」
「そうそう。」
「むむっ!二人ともノリが悪いなぁ。・・・まぁ、時間が勿体ないし、始めましょうか。」
こほんっ、と一つ咳ばらいをしてから、私は台本を読み始めた。
「“私たちの高校の裏山には、山上にある松永寺の山門まで続く千本桜並木道と言う遊歩道があります。不思議な事にこの遊歩道は、山道にも関わらず真っ直ぐです。何故でしょうか?実は昭和の終わりまで、ここには参拝客用のケーブルカーが走っていましたが廃線となり、跡地が遊歩道となったのです。毎年春には満開の桜の中を数kmに渡って歩くことができます。皆さんも是非一度訪れてください。”」
読み終わり、原稿用紙から顔を揚げると、二人とも腕を組んでじっと考え込んでいた。しばしの沈黙の後、先に口を開いたのは響子ちゃんだった。
「・・・いいんじゃない?特に問題は感じなかったし・・・。」
「そうね・・・1分だもんね。内容を盛り込み過ぎると入り切らないだろうし。」
紙織ちゃんも異議は無いようだ。私はうんうんと頷きながらホワイトボードに台本を書き写した。
「さぁ!皆でこう言うカットを入れたらいんじゃないか会議を始めよう!」
「まずは、松永寺のカットが欲しいわね。それから下から見上げた遊歩道のカット・・・。あっ!山門のカットも入れる?」
私の宣言を待ってたかのように、響子ちゃんが怒涛のように発言を始めた。
「ああっ!ちょっと、ちょっと!待たんかいっ!書くのが間に合わないでしょうが!一つ発言したら、少し間を開けなさい!」
私は慌てて響子ちゃんを制止して、今の発言を箇条書きにして行った。
「はいっ、書き写せました。続きをどうぞ?」
「えーと、後は駅前に保存されているケーブルカーのカット。・・・うーん、桜が満開の遊歩道のカットが欲しいけど、これは無理かなぁ・・・。」
「桑畑先生もおっしゃっていたように、できるかどうかはさて置き、とにかくアイディアを挙げてみましょうよ。ボツにはいつでもできるんだから。」
私は意見を書き写しながら、響子ちゃんに背を向けたままそう言った。そうだ、ボツは何時でもできるのだ。
「私も発言していい?」
紙織ちゃんが遠慮がちに手を挙げた。
「あったり前よ!どうぞ!」
「はいっ、有り難う。遊歩道のカットは、真っ直ぐだと分かるカットは勿論必要だけど、遊歩道がケーブルカーが走っていた跡だと分かるようなカットも入れたらいいんじゃないかな?」
「えっ?走っていた跡だと分かる・・・それは、どんなカットかな?」
「私、家族で遊歩道を歩いたことがあるんだ。レールは確かに無くなってるんだけど、レールの下に轢く長細い木はそのままだったんだ。それを写したカットはどうかなぁ?」
「レールの下に轢く木って・・・確か“枕木”って言われている奴だよね?へー、残ってるんだぁ。」
「実際に現地を歩いてみれば、いろんなカットを思いつくかもしれんね。」
「そうだね。予め撮るカットは決めておくとして、それ以外にも現地で思いついたらその都度撮ればいいか。」
「今挙がっているカットだけでも1分は軽く超えそうだね。」
「うん。現在の路線バスのカットも入れたらって思ってたけど、余裕は無さそうだね。」
「取り敢えずバスのカットも撮っておけばいいじゃん。ボツは何時でもできる!」
「ふふっ、そうだね。それじゃぁ、何時撮りにいく?」
「うーん、今は冬場で日が短いからなぁ・・・放課後撮りに行くと、帰りは日が暮れてそうだ。」
「お寺まで行って帰ってくるとなると、そうなるか・・・。じゃぁ、次の土曜日、朝から撮りに行くのはどう?あんまり先延ばしにすると間に合わなくなるかもしれないし。」
「私はいいよ。」
「私も。」
「じゃぁ、決まり!西町先生に言って、ビデオや三脚を借りておくね。」
「意見を出した人は、それまでに自分のイメージを絵コンテに描いておくこと。現地でそれを見ながら撮影するってことでOK?」
「OK!」
☆
次の土曜日、私たちはハイキングができる格好で駅前に集合した。
「おっはよう!」
「おはよう!ドルフィンちゃん!」
「おはよう!」
「いいお天気で良かったね。」
「ほんと、雪でも降ったらどうしようかと思っていたよ。」
「では、早速撮影を開始しようか。」
「「OK!」」
私は、先生から借りたビデオカメラを三脚にセットした。
「最初にケーブルカーを撮るけど、アングルはどうする?」
「うーん、まずは普通に斜め前から撮ってみようか。」
「使えるかどうかは別にして、駅舎からケーブルカーにパンして、ケーブルカーでカメラを止める、って画も撮っとかない?」
「いいね、それ!前後を切ることを考えて、ケーブルカーのみの画像は30秒位、パンする画像も前後に15秒ずつ余裕を持たせて撮ろうか?」
「それでいいんじゃない。私達は初心者なんだから、思いつく限り色んな画を撮っとこうよ。」
「それじゃぁ、撮るよ。」
まずは、駅名のロゴが写るように駅舎を撮ってから、ゆっくりと保存されているケーブルカーの方へカメラをパンしてから、ケーブルカーでカメラを止めて、のりしろ分の映像を15秒分撮った。続けて、ケーブルカーの前に移動して、斜め前からのアングル、真横からのアングル、正面からのアングルと、様々なアングルから映像に収めた。
「よし!ケーブルカーはこれでよし!遊歩道に移動しますか。」
「OK!行こう。」
私達は三脚に固定したカメラをそのままの状態で持ちながら遊歩道へと移動した。
「うわー、随分上の方まで見通せるね。」
「これは・・・思った以上に真っ直ぐだわ。」
「それじゃぁ、撮りますよ。」
下から見上げる固定したアングルを撮影。さらに、下から上の方へとパンする映像も撮った。
「さて、遊歩道を歩いてみますか。」
撮影後、私達は遊歩道を登り始めたのだけど、これが結構きつい!
「えっ?!なんか凄く辛い。」
「なんか、しんどい道だよね。これで遊歩道・・・なの?」
「しんどいはずだよ。この道、傾斜角が20度以上もあるんだよ!」
紙織ちゃんがスマホでなんか調べてる、って思ってたら突然そんなことを言い出した。
「えっ!?どういうこと?」
「この道は元々ケーブルカーの線路だった訳でしょ?ケーブルカーの線路は最大のもので32度近い角度があるんだよ。ここのケーブルカーはそこまではきつく無いけど、それでも25度近い角度がある。ほら、登山道って普通九十九折りになってるでしょ?それは、私達人間が長時間登り続けることができる傾斜が10度くらいだからだそうよ。」
「なるほど。人間に適した傾斜の倍以上あるからきついのか・・・。」
「登山よりきつい運動、ってことね。」
てな訳で、私達はひーひー言いながら遊歩道を登って行った。
「あっ!ドルフィンちゃん、ここ、ここよ!枕木が残っているよ!」
突然、紙織ちゃんが叫んだ。言われて見てみると、枕木が残っていた。
「おおっ!これは!撮らねば!」
早速カメラを固定して枕木が残る遊歩道を撮影した。他にも、谷に掛かる鉄橋など、目に付いたものは残らず撮影しておいた。
やがて、元駅舎だった建物が見えて来た。ここは、現在バスの停留所になっている。
「丁度バスが止まっているよ。出発するところを撮影しようよ。」
紙織ちゃんの提案で、しばし休憩を兼ねてバス停に留まり、出発していくバスを撮影することにした。
「あとは、お寺の山門とか、本堂を撮影したら完了だね。」
「思ってた以上に、順調に撮影できたね。」
「お天気も良かったし、楽しかったね。」
「さぁ!お寺に行こう!フィニッシュだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます