第29話 番組作りにとって、最初の企画構成が最も大事なんですね!えっ?コンテってなんですか???
「このホワイトボードが企画構成会議の結果を表しているんだ。」
桑畑先生はボードを指差しながら言った。
「会議の結果・・・ですか?」
「そう、番組作りは、最初に行う会議でほぼほぼ出来が決まると思ってもらっていい。」
えっ?・・・番組って、撮影して、編集して、それでどんな出来の作品になるかが決まるんじゃないの???・・・そう言えば、県総文の講評でも、最初の企画が大事って言ってたような気がするなぁ・・・。
「納得していないって顔をしているね。撮影は適当にやっても駄目なんだよ。“とりあえず”撮りました、“ただ単に”撮ってみましたって言う動画は使い物にはならないんだ。撮影は、編集を想定して行わないといけない。編集を想定して撮影できるかどうかで作品の出来は決まるんだ。」
「編集・・・ですか?」
「うん、出来の良い作品は、いずれも沢山のカットを組み合わせて出来ているよ。人間はね、ストーリーの無い同一カットを、興味を持って見ていられるのはせいぜい十五秒ほどだ。それ以上の長さになると関心を失ってしまうんだ。素人ビデオ・・・you tubeなんかによくある、見るに耐えない作品は、どれもベタ撮りの同一アングルの絵が延々と再生されているだろう?若者を中心にTikTokが人気なのも、十五秒程度の短い動画をUPするから、飽きずに見ることができるからだろうね。しかし、Nコンではビデオ作品は七分三十秒以上八分以内と規定されているし、全総文だと四分三十秒以内と規定されている。これだけ長い時間だと、異なるカメラ位置、サイズ、アングルのカットをできるだけ多く集めて編集し、見る側が退屈しないものを作る必要があるんだ。ちなみに、それぞれのカットの長さは、さっき言ったように、人が耐えられる長さである十五秒以内を想定するといい。」
「なるほど・・・撮影する際には、できるだけたくさんのカットを撮らなければならないんですね?」
「そう言うこと。だからと言って、使えないカットばかり沢山撮っても意味は無いんだ。編集を想定してどんなカットが必要なのか、どんなカットを用意すればよいかを取材前にしっかり決めておかねばならない。なので、編集担当者と撮影担当者が、企画と構成についてしっかりと共通認識ができているかどうかが重要だ。認識がずれていると、必要なカットが手に入らず、撮り直ししなければならなくなるからね。」
「だから会議が重要なんですね?」
「そう、企画と構成を決める段階で、十分にディスカッションができているかが重要だ。さて、企画会議だが、うちの学校では、番組制作に関わる部員、一人一人が企画を出すことになっている。企画会議では、それぞれの企画についてプレゼンを行って、最も受けが良かったものを採用することにしているんだ。これはあくまでもうちの場合で、必ずしも“そうでなければならない”訳ではないけどね。」
「なるほど・・・より面白い企画を立てるために沢山の中から最も良いものを選ぶ・・・と言う訳ですね。」
「そういうこと。さて、企画が決定したら、お次は構成だ。ここでも参加者全員が、どんなカットを入れたら良いか、意見を出し合うんだ。口で言っただけだと忘れたり、重複したりするから、一つ一つポストイットに書いて貼っていくんだ。もう出ない、と言うところまで意見を出した後、一つ一つの意見を検証していくんだよ。」
「検証・・・ですか?」
「全部が全部ベターな意見とは限らないだろ?作品を作る上で、そのカットは必要なのか。また、視る人に対して伝わり易いかどうか、などを話し合うんだよ。そうやって検討していくと、採用するものとボツになるものが分かれていくんだ。」
「へぇえ、随分と時間が掛かりそうですね?」
「掛かるよ。長い時は、1週間まるまる会議で潰れる場合もある。でも、必要なことだから避けては通れないんだ。ここで手を抜くと、碌な作品にならないからね。」
うーん・・・こりゃぁ、一人ではとても作れないや・・・いや、作れないってことはないだろうけど、こんな風に皆でアイディアを出し合って、叩き上げたものに勝てる訳がない・・・番組作りは、アナウンスや朗読とは全くの異世界なんだなぁ・・・。
「さて、企画構成会議が終わったら、次はコンテ作りだ。」
「???・・・“コンテ”とは何ですか?」
「“コンテ”とは、“コンティニュイティ(continuity)”の略語だね。コンティニュイティを直訳すると“連続”って意味になるけど、放送で使うコンテは、シーンの構成やカメラワーク、編集ポイントなんかを記した図面や資料のことだよ。言うなれば、映像作品の設計図だね。これをもとに、シーンの構成や撮影、編集なんかを行って、作品を完成させるんだ。
ちなみに“コンテ”には“絵コンテ”と“台本コンテ”の二つがある。“絵コンテ”は、シーンごとにキャラクターや背景、カメラワークなどを描いた絵を並べたもので、物語の構成や進行がわかるようにまとめられている。もう一つの“台本コンテ”は、登場人物のセリフが書かれている台本に、シーン毎のカメラワークや編集ポイントなんかを付け加えたものだよ。」
ここで、私はすかさず手を挙げた。
「先生!私は絵が下手糞なんで、とても絵コンテは作れそうにないんですが・・・そんな場合、台本コンテでもいいんですか?」
そう・・・私は壊滅的に絵が下手なんだよぉ・・・。県総文のゲーム大会でもそれが原因で負けたんだよぉ・・・。
「コンテを作る目的は、制作チームのメンバーが、作品を作る上で方向性を共有して、作品のクオリティを高めることにあるから、皆の共通理解が得られれば、どちらでもいいんじゃないかな。うちでは、リーダーが絵を描ける子の場合は絵コンテ、絵が描けない子の場合は台本コンテを作っているよ。」
そう言いながら、先生は過去の作品作りに使った様々なコンテを棚から出して、机の上に並べてくれた。
「わぁー、この絵コンテ、凄く判り易いですね。・・・おや?方々切り貼りされてますね。これはどうしたんですか?」
「コンテが出来たら制作会議を開くんだけど、その時シーンの追加や、順番を入れ替えなんかの意見が必ず出てくるんだよ。皆で話し合って、こちらの方が良いってなったら、コンテに変更を加えていく。その後、もうこれ以上変更は無いってところで漸くコンテが完成、となる訳だ。高校生はプロではないからね。よくあることだよ。」
「うーん、番組制作って大変なんですね。それじゃぁ、なかなか撮影まで辿り着かないんじゃないですか?」
「そうだね。コンテの完成までに一か月くらいかかるのは普通じゃないかな・・・。」
「そんなに!・・・ああ、だから、2月からNコンに向けて制作を始めてるんですね。」
「そういうこと。4月になってから始めたんじゃぁ、間に合わないからね。では、次に撮影について説明していこうか。まずは、“撮影の心得”からだ。」
「はいっ!お願いします!」
「まず、1つ目。“撮影は表現の意図や目的を明確にしておこなうこと”。」
「それは、先ほどおっしゃったことと同じですか?」
「そうそう。そうなんだが、大事なことだから繰り返すな。“とりあえず”とか“ただ単に”撮った動画は使い物にはならないから、必ず編集を想定して行わなければならないと言うことだ。」
「はい、判りました。」
「じゃぁ、二つ目。“撮影現場では、気配りも重要”。文字通り撮影する時には、いろいろな気配りをしなければならないと言うことだ。例えば、“被写体に対しては礼儀正しく接しなければならない”ということが挙げられる。何故だか判るかね?」
「良く知らない人に対して礼儀正しく接すると言うことは、ある意味常識ではないでしょうか?」
「そうそう。君のように常識だと考えてくれる人は良いのだけどねぇ。しかし、案外礼儀知らずな人もいるんだよ。高校生だからと言って、相手に礼儀知らずな態度をとっていると、その人には二度と撮影に応じてもらえなくなるし、噂が流れて他の人からも断られてしまうようになるからね。・・・次は、“必ず事前に許可を取る”ということ。インタビューの為に道行く人、たまたまそこを通りがかった人なんかを撮影することがよくあるよね。でもね、人には“肖像権”と言うものがあるんだ。許可無く黙って撮影すると“肖像権の侵害”、いわゆる盗撮になってしまう。」
「でも、インタビューする相手は、たまたまそこで出会った人ですよね?事前に許可を取ることはできないと思いますが?」
「“事前”と言ったのは、この場合は“直前”と言う意味だよ。まずは自分の所属を名乗る。これは高校名と放送部であることを伝えると良いだろうね。それから撮影の目的、これは何々について調べていると言えば良いだろう。そして、撮影して良いかどうかの確認、こう言ったことを必ず相手に伝えなければならない。・・・うーん、百聞は一見に如かずか・・・おい、渋川。インタビューする際に許可を取る様子を東和の人達に、こんな風にって見せてあげなさい。」
「判りました。栗栖さんが道行く人だと仮定して、インタビューの様子を再現してみますね。・・・すみません、今お時間よろしいでしょうか?私たちは、高倉高校放送部の者です。今、高倉川沿いに植えられている万本桜について、地元の人にインタビューさせてもらってます。インタビューにお答えいただけませんか?・・・こんな感じでいつもインタビューしてます。」
うわぁ、凄い!渋川さん、澱みなくすらすらと聞いてくるぞ。
「えーと、知らない人にしゃべりかけるのって、抵抗ありませんか?」
すると、渋川さんはにこりと笑って答えてくれた。
「慣れですよ。私も最初の頃は抵抗ありましたけど、この頃は、今のように誰にでも聞くことができるようになりましたから。」
「す、凄いですね。でも、そうか・・・アナウンスの発表も同じですもんね。要は慣れですか・・・。」
ここで、桑畑先生が、少し怖い顔をして釘を刺してきた。
「一つ注意をしておくと、相手が駄目だってインタビューを断る場合もあるから、その時は、その人にインタビューをしてはいけないよ。相手の意志を尊重しないと撮影は上手くいかなくなるからね。礼儀と一緒だよ。」
「はい、判りました。」
「さて、続きを話そうか。次は、“特定の相手を取材する場合は必ずアポを取る”ことだ。相手にも都合があるから、勝手に押し掛けて無理やり取材をするのは駄目だ。アポを取っていない場合は、追い返されても文句を言えないからね。また、“周囲に迷惑をかけていないか”。撮影によって、お店への出入りや通行の邪魔になったりしていると、最悪警察を呼ばれたりするからね。周りのことを常に考えて撮影しなければならないんだ。」
「それら全てが気配りなんですね?」
「そう言うこと。では、撮影時の心得の三つ目を説明しようか。」
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