第28話 あのぉ、お願いがあるんですが・・・番組作りの現場を見学させて貰えないでしょうか?
「はいっ!外郎売!いくよ!せーのーはいっ!」
「「「こごめのなま噛、小米のなまがみ、こん小米のこなまかみ」」」
「「「古栗の木のふる切口、雨がっぱがばん合羽か」」」
「「「京のなま鱈、奈良なま学鰹、ちよと四五〆目」」」
「「「武具馬ぐぶぐばく三ぶくばぐ、合せて武具馬具六ぶぐばぐ」」」
「「「菊栗きくくり三きく栗、合てむきごみむむきごみ」」」
「はいっ!次、鼻濁音!いくよ!せーのーはいっ!」
「「「か[ん]ぐ、ま[ん]ぐろ、おに[ん]ぎり、りん[ん]ご、か[ん]がみ、がっこう、け[ん]がわ、がっき。」」」
「「「私んが大[ん]が生です。」」」
「「「ごき[ん]げんいか[ん]がですか。」」」
「「「か[ん]ごの中から、うさ[ん]ぎと、ね[ん]ぎと、や[ん]ぎ[ん]がでてきた。」」」
「「「午[ん]ご4時から、午[ん]ご5時55分。」」」
そう、神倉先輩から指南を受けてから、私は響子ちゃんと紙織ちゃんを誘って、毎日毎日無声化と鼻濁音の練習を続けてきた。最初は、上手くできなかったけど、ひと月経った頃から段々とできるようになってきた。でも、まだまだだ。安定して、常にできるようにならないと、できたことにはならない。頑張ろう!
「はいっ!休憩!」
「ふーう・・・だいぶできるようになってきたんじゃない?」
「そうね。始めた頃は全然で、絶望しかなかったけどね。」
「“継続は力なり”よ!続けていけば、いつかはできるようになるんだから。」
・・・そう言えば、西町先生からコンテストの申し込みについて聞かれたけど、二人はどうするのかな?
「ねえねえ、先生から2月の新人戦について参加の有無を聞かれたけど、二人はどうするの?参加する?」
「もち、参加するわ!」
「私も!」
「即答だねぇ・・・部門は?」
「ドルフィンちゃんは、当然アナウンスだよねぇ・・・私はやっぱり朗読かなぁ。全総文に行くまでにできるだけ経験を積んどきたいし。」
「私も。ここで、アナウンスに転向したら、なんだか逃げるみたいで嫌。それに声優を目指すって言う夢もあきらめてないし!」
「そっかぁ・・・。ところで、話は変わるけど、私、明日の放課後は高倉高校に行くんだ。だから練習はお休みするね。何だったら二人も一緒に行く?」
「えっ?何しに行くの?」
「高倉高校の放送部に番組作りの様子を見せてもらうんだよ。実はこの間の県総文で、番組部門の講評を聞いて興味が湧いたんだ。けど、うちは番組作りってやってないでしょ?どうやって作るのか、基本的なことが全く判らなくって・・・。で、番組作りをしている高倉高校の子に頼んでみたらOKが出たの。」
「ドルフィンちゃん、なんで高倉高校の子を知ってるの?中学校時代のお友達?」
「うううん、違うよ。県総文で交流会をやったでしょ?あの時、同じ班になった子と仲良くなったんだ。」
「うーん、ドルフィンちゃんって、見た目と違って、結構社交的だよねぇ・・・。」
「響子ちゃん!見た目と違って・・・って、どういうことなのさ!」
「はははっ、ごめんごめん。ドルフィンちゃんって、見た目は大人しそうに見えるからね。」
「確かにそうね。本質はアグレッシブなんだけどね。」
「ええっ!紙織ちゃんまでそんなこと言うの?いったい、私は人からどう見られてるんだろ???」
「ドルフィンちゃんは、自分が思っている以上に行動的なんだよね。だから、神倉先輩は生徒会選挙の時、ドルフィンちゃんだけを誘ったんだよ。」
「ええっ!そうなの?私はてっきり皆に声をかけていたと思ってた。」
「いいえ。響子ちゃんの言う通り、私たちは声をかけてもらっていないわ。神倉先輩はよく人を見ているよね。」
そうだったのか・・・私って他人から見たら行動的に見えるのかぁ・・・案外自分のことは自分自身ではよく判っていないのかもなぁ・・・。
「まぁ、それは置いといて・・・折角ドルフィンちゃんが御膳立てしてくれたんだから、私も一緒に行くわ。」
「響子ちゃん!何一人だけ付いて行くようなことを言ってるの!私も一緒に行きますよ!」
「はははっ、ごめんごめん。と、言う訳で、ドルフィンちゃん!明日は三人で行きましょ。」
「判った。じゃぁ、三人で行くってLINEしておくね。」
☆
「本日は、宜しくお願いします!」
「「お願いします!」」
「あああ・・・そんなに畏まらないで。大したおもてなしができる訳じゃないから。」
渋川真帆さんが戸惑いを隠せない表情でそう答えた。でも、こちらが押し掛けて迷惑をかけているのは事実だからなぁ・・・。
「いえっ!こちらの我儘を聞いて頂き、本当に有難うございます!皆さんのお邪魔にならないよう努めますので!」
「ほんとにそんなに畏まる必要は無いって。・・・取り敢えず、顧問の桑畑先生を呼んでくるね。先生は番組作りのベテランだから、私の拙い説明よりも、先生に教えて貰う方が良く分かると思うから。」
「はいっ!宜しくお願いします。」
しばらくして、大柄でスキンヘッド、顎鬚と言う独特の風貌を持つ先生が現れた。そう言えば、Nコンや県総文の時に会場で見かけたなぁ・・・。
「やぁ、よく来たね。君たちが東和の放送部員だね。」
「はいっ!東和高校1年の栗栖ですっ!本日は、よろしくお願いします!」
「同じく、東和高校1年の鵜殿です!お願いします!」
「同じく、三輪崎です!お願いします!」
「ほう。三人とも1年生か。渋川に聞いたけど、番組の作り方を勉強したいってことでいいのかな?」
「はいっ!うちの放送部は、これまで番組制作をやったことが無かったので、全くやり方がわかりません。コンテストや県総文に参加して、番組作りに興味を抱いたのですが、何が必要で、どう作っていけば良いのか・・・そう言う基本的な所からわからないんです。それで、本日は渋川さんに無理を言って番組作りの様子を見学させてもらおうと思い、お邪魔しました。」
「そうか・・・基本的なことからか・・・講習会に参加したことは無いのかい?」
「はい、私はアナウンス、この子達は朗読をやってますので、講習会ではそれぞれの部門に参加していて、番組部門には参加していません。」
「なるほど。アナウンスが専門でも、コンテストには番組部門と掛け持ちで参加する学校も少なくないからね。番組を作る高校生が増えてくれるのは、番組作りを専門とする私にとって嬉しいことだ。今日は私が講師になって番組作りの基本を教えてあげよう。」
「本当ですか!お忙しいのに、有り難うございます!お願いします!」
「では、部室に移動しよう。百聞は一見に如かず。いろいろ見てもらった方が話は早いからね。」
高倉高校放送部の部室は結構広かった。十四、五人くらいなら余裕で入れそうだ。長細い部屋の突き当りは窓になっている。両脇は壁で、片方の壁には一面棚が設置してあって、ビデオカメラ、三脚、マイクなどの機材、ファイルやDVDケースなんかが整然と並べられている。もう一方の壁には教室にある黒板の三分の一ほどの大きさのホワイトボードが架けてあって、何やらポストイットが大量に貼ってある。その周りにたくさんの書き込みもある。ホワイトボードの横には机が三つ並んでいて、パソコンが三台とパソコン用スピーカーも三台、外付けのハードディスクなんかが上に置かれていた。
「そこの椅子に座りなさい。」
桑畑先生は、私たちに部屋の中央に置かれた机の前に置かれた椅子に座るよう指示した。
「「「失礼します。」」」
座ると同時に、私は何時ものように、筆記用具とノートを鞄から取り出して、メモを取る用意を整えた。
「おっ!感心だな。言われなくてもメモの用意ができるとは。・・・それでは最初に、番組作りにとって一番重要な企画と構成について説明しよう。」
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