第6話  アンケート調査は大変だっ!おろっ!1年生の結果じゃぁ原稿になんない!どうしよう!

 神倉先輩からアドバイスを受け、私たち三人は原稿作成に取り掛かった。私は予定通り、“中間考査が無いことが高校生活にどのように影響しているか”を調べ始めた。まず手始めにクラスの皆にアンケートを取りまくった。また、花音ちゃんの伝手で、他のクラスでもハンドボール部の子達が協力してくれた。そこで判ってきたことは、“1年生にはよく判らない”ってことだった。そりゃそうか。1年生はまだ高校生活が始まって一月程、どう影響するかが未知数なのも当たり前だ。


 いきなり詰んでしまった私は、再び女神さまを頼るため生徒会室の扉をノックしたのだった。とほほ・・・。


「失礼します。神倉先輩はいらっしゃいますか?」


 『はい、どうぞ。』


 返事を受けて、扉を開けた私は一瞬で固まってしまった。何時もは神倉先輩しかいない部屋に、なんと今日は生徒会本部役員が勢ぞろいしていたのだ。


「あ、あ、あ、あのう、お邪魔でしたでしょうか?」


「いいえ、特に重要な会議って訳ではないから大丈夫よ。むしろ、貴方が私以外の者に聞かれたくない内容だったら、別の機会にした方が良いかしら。」


「い、い、い、いえ、そういう内容ではありません。」


「なら良いわ。Nコンのことでしょう?どうしたの?」


「実は、“中間考査が無いことが高校生活にどのように影響するか”と言う内容で原稿を書こうと思って一年生五十人程にアンケート調査をしてみたんです。」


「ふむ、それで?」


「結果は“良く判らない”って結果になってしまって・・・。これでは原稿にならないので、主題を変えるべきかどうか迷ってしまって・・・。それで相談に伺いました。」


 女神さまは首をやや傾けながら、眼を瞑り、しばらく考えてから口を開いた。


「・・・1年生だけを対象に調査したのよね?」


「はい。」


「ふむ、では2年生を調査してみてはどう?2年生は昨年経験済みよ。主題を変えるかどうかは、その結果次第で決めてはどうかしら?」


 多分、その時の私の顔色は、傍目にも気になるほど青褪めていたに違いない。何故ならば、女神さまではなく、生徒会長の宇久井さんが心配して声を掛けてくれたからだ。


「大丈夫かい?凄く顔色が悪いよ。」


「いえ、いえっ!だ、だ、大丈夫です!顔色が悪いのは元々ですっ!」


「そんなこと言って・・・上級生に対してアンケートを取るのが嫌なのね。」


 焦りまくる私を見て、女神さまは全てを見通されたようだ。ここは素直に肯定しておこう。


「そうですっ。どうやって先輩方相手に調査したらいいのか、まったく解かりませんっ!」


 握り拳でガッツポーズをしながら答えてみたっ。


「そこは強調するところではないでしょう・・・でも困ったわね、さっさと主題を変える?」


 うーむ、確かに未だ主題を変更しても間に合う時期ではある・・・。勇気をもって撤退すべきか?私が考え込んでいると、突然宇久井先輩が驚くべき提案をしてきた。


「面白い内容の調査だよね。興味深い。やめてしまうのは勿体無いな。僕らが調査して、結果を君に渡そうか?集計結果を僕らに教えてくれればいいよ。」


 え?ええぇ?!


「・・・宇久井先輩、この子を甘やかさないでください。自分で調査することも発表の一部なんですから。」


 女神さまが渋い顔をしながら溜め息をついておられる・・・。


「1年生相手には立派に調査してるじゃないか。僕らはちょっとしたお手伝いをするだけだよ。」


「え、え、え、えーと・・・宇久井先輩!そこまで甘える訳にはいきませんっ!神倉先輩のおっしゃる通りですからっ!」


「どうやら神倉君の許可がどうしてもいるようだね。どう?神倉君?」


 女神さまは再び溜め息をつくと、使用が無いと言った顔をして言った。


「宇久井先輩は一度言い出すと引かないんですから・・・。良く無いですよ。そう言う態度は!・・・やれやれ・・・判りましたっ!私からもお願いします。」


 え、えーーーー。女神さまが折れてしまった。ここはお礼を言って、素直にお願いすべきなのだろうか?


「あ、あ、あ、有り難うございます。宜しくお願いします。」


「ああ。任してくれ。そう言う訳で、井鹿、早速調査をするぞ!」


「へいへいっ。調査用紙を作って印刷しとくわ。」


 生徒会書記の井鹿先輩が事も無げに返事している・・・って、感心している場合ではないではないかぁ?!


「あ、あ、あのぅ先輩、調査項目はこれなんですが。1年生にはこの内容を聞いて回ったんです。」


 私はあわてて井鹿先輩に自分のノートを見せた。調査項目が変わってしまっては、1年生で出た結果と比較できないのだ。


「ふんふん、どれどれ・・・うん、悪くないね。じゃぁこれに沿ってアンケート用紙を作るわ。後は任せてくれ。来週には結果を渡せるぜ。」


「はいっ!お願いしますっ!」


 ☆


「はいっ、これ。」


 なんと井鹿先輩は、三日後に2年生全員分のアンケートの回答を持って来てくれた。流石、できる書記は違うなぁ。


「有り難うございます!早速集計に取り掛かりますね!」


 でも、正直2年生全員分とは思ってもみなかった。ちょっと多すぎるよ、これ。集計は、紙織ちゃんと響子ちゃんにも手伝ってもらおうかなぁ・・・。


 ☆


 恐る恐る頼んでみたところ、紙織ちゃんと響子ちゃんは快く集計を手伝ってくれた。有り難や有り難や。


「“単元別小テストが頻繁にあって勉強が大変”って言う回答が多いねぇ。しかも、“科目によって実施日はバラバラだから、日によっては3科目もある”みたいに愚痴ってるものもたくさんあるよ。」


 現在の2年生が入学した時から、中間考査が無くなり、その代わりに単元が終了する毎に小テストが行われるようになったのだ。“単元別小テスト”と先生たちは呼んでいる。小テストと言う割には、扱いは分割しておこなう定期考査のようなもので、厳格に実施されている。私たち1年生は、まだ言うほど受けていないけど、これから段々と2年生が言ってるように大変になっていくのかなぁ・・・。


「でも、肯定的な意見もあるよ。“単元別小テストは範囲が狭いので、中間考査よりも高得点が取りやすい”って回答がしょっちゅう出てくる。ああ、でも逆に“期末考査の範囲が広くて大変になった”って回答も結構あるなぁ。」


 そんなことをしゃべくりながら、紙織ちゃんと響子ちゃんはどんどん集計を進めていく。私はと言うと、作業に必死でそこまでの余裕が無い。二人とも凄いなぁ・・・。

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