第14話 修羅場は不可避
あの後、俺と立花は小さな休憩スペースに移動した。
「いきなり頼んでごめんな、立花」
「う、ううん、大丈夫だよ。でも早河君、なにについてのお話しなの?」
「あー、実は話っていうより確認なんだけど……立花って、もしかして藤宮と付き合ってる?」
「えっ」
どうして知ってるの? といったリアクションを見せる立花。
俺は先週の土曜日に、ショッピングモールで藤宮と立花が一緒にいるのを目撃した事を伝える。
「そ、そうだったんだ…………うん。僕、雫と付き合ってるよ」
そうだろうなと思っていたので驚きはしない。
ただ、二人が交際していない可能性もゼロではなかったので、立花の口からこうして真実を直接聞けた事にはちゃんと意味がある。
「いきなりこんな事聞いてごめん。ただもしもこの先、二人は付き合ってないと俺が勘違いして藤宮に近づいたりしたら立花に迷惑が掛かる。だからハッキリさせておきたかったんだ」
「な、なるほど」
「安心してくれ。この事は誰にも言ってないし、言うつもりもない」
「気を遣ってくれてありがとう。でも僕達は隠れて交際しているわけじゃないから、公になっても別に大丈夫だよ」
それでも、自分から言いふらすつもりはやはりない。
「……なぁ、立花」
ふと気になったことがあるので尋ねてみることに。
「藤宮を好きになったキッカケってなんだ?」
「い、いきなりどうしたの?」
立花はいわゆる鈍感系ラブコメ主人公だ。
ストーリーではヒロイン達も四苦八苦していた。
そんな立花とたった一日で交際に発展した藤宮の攻略法、正直気になる。
「立花と藤宮が仲良くしてるところを前の美術の授業以外で見た事が無かったから、どんな馴れ初めなんだろうって気になったんだ。勿論無理に言う必要はないし、教えてくれるにしても言える範囲で構わない」
「……」
逡巡していた立花だったが少し間を置いた後、小さな声で吐露する。
「し、雫に好意を伝えてもらったから……かな」
「藤宮に好きって言われたからってこと?」
耳まで赤くした立花は小さく頷く。
好意を抱いていると面と向かって伝える事で、意識せざるを得ない状況を強制的に作り出す。
鈍感系主人公に対してそれは最適な攻略法と言えるだろう。
それによって立花は藤宮の事を意識せずにはいられなくなり、そして恋に落ちたのだから実際に効果覿面だったわけだ。
藤宮って見かけによらず大胆というか、積極的というか……
「あはは、変かな? 好きって言われたから好きになったなんて」
「何も変じゃないだろ。好意を抱くキッカケなんて人それぞれだし、そもそも正解があるわけでもない。だから俺はそのキッカケをバカにも否定もしない」
自嘲していた立花は、俺の言葉を聞いて面を食らったような顔をする。
「……早河君って優しいんだね。それに、雰囲気も前と比べて柔らかくなっててすごく親しみやすいよ。前はその……少し近寄り難かったからさ」
……だろうな。
それから立花は僅かに頬を赤らめて……
「僕、今の早河君の方が好きだな」
……おい、何で顔を赤らめる?
立花にそういう気が無いのは分かっているけど、藤宮が変な勘違いして俺を敵視するみたいな展開だけはマジで勘弁願いたい。
いや、ほんとマジで。
「あ、雫……」
立花が俺の後ろを見て呟く。
振り返ると、廊下の奥には立花の恋人である藤宮雫の姿があった。
藤宮は立花に向かって小さく手を振り、立花も手を振り返す。
微笑ましいやり取りだ。
今の立花は、喜びや嬉しさといった正の感情に満ち溢れている。
そんな立花を見て俺は……
「立花……」
「どうしたの?」
「……いや、やっぱり何でもない」
言おうとして、やめた。
言っても立花を混乱させるだけだし、それにもう……
「立花。時間を取らせて悪かった。そろそろ教室に戻ろう」
「そうだね……あっ、ちょっとごめんね」
立花はおもむろにポケットからスマホを取り出す。
「藤宮からメッセージが来たのか?」
「ううん。幼馴染から」
「えっ」
今、幼馴染って言った?
「立花。もしかして、その幼馴染に交際のこと報告した?」
「うん。美玖とはメッセージでお互いの近況報告をしてるからね」
立花によると幼馴染の相坂美玖は交際を祝福してくれているとのことだが、俺はそうは思っていない。
メッセージ上ではそう見えても、相坂本人は祝福なんて絶対していないと確信している。
なぜなら相坂美玖はこのギャルゲーのヒロインの1人であり、幼馴染の立花に対して激重な愛情を抱いている……ヤンデレヒロインなのだから。
そして、相坂はもう少ししたらこの学校に転校してくることになる。
クラスはもちろん俺達と一緒。
知るのが早いか遅いかの違いだが、どのみち藤宮と相坂による修羅場は不可避の確定事項だ。
今頃は藤宮に対して激昂しているだろう。
よくも私の幼馴染を……優斗を奪ったなッ!って。
しかし、この時の俺は想像もしていなかった。
まさか相坂の激重な愛情の矛先が自分に向けられることになるなんて。
俺を巡る修羅場が起こるなんて、想像もしていなかったのである。
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