第2話 異変は突然

 告白を終えた翌日、いつも通りの時間に学校へ向かう。

 トラブルこそあれど俺の役割は昨日で終わった事もあり、肩の荷が下りた気分だ。

 これからはひっそりと平穏な学園生活を謳歌するとしよう。


「ん?」


 校門をくぐり玄関へ向かっている途中、周囲の生徒達の視線が一点に集中している事にふと気がつく。

 皆んなの視線の先にいたのは、学園の聖女様である雛森沙紀だった。

 ただ登校しているだけで注目の的になるとは……超絶美少女というのも大変だな。


「……」


 教室に入り席に着いて授業の準備をする。

 その途中、手を止めて隣の席の女子生徒にふと視線を向けた。


 艶のある長い黒髪、スッと通った鼻筋。

 出るとこは出て引っ込むところは引っ込こんだ抜群のスタイル。

 生徒達から女神様と呼ばれている超絶美少女にして、本作のもう一人のヒロイン———篠原玲奈。

 俺が告白するはずだったヒロインである。


 教室の喧騒など気にした様子もなく、篠原はただ黙々と読書を続ける。

 ただ本を読んでいるだけでも篠原は絵になる。

 思わず視線が釘付けになった。


「……何かしら?」

 

 俺の視線に気づいた篠原が問い掛ける。


「そ、その本、面白いのかなって」

「ええ、面白いわよ」


 それだけ? と篠原は表情で問う。

 そして興味を失ったのか、再び篠原の視線は本へと向けられる。

 

「……飲み物でも買ってくるか」

 

 逃げるように教室から出た。

 ……こ、怖かったぁ。

 ゲームで何度も見たから慣れたと思っていたけど、本物は迫力が違う。

 でもその分、篠原が見せる甘々な一面がよりギャップに感じるんだろうなぁ。

 

 そんな事を考えながら少し時間を潰して、朝のHRが始まる直前に教室へ戻る。


 異変に気づいたのはすぐだった。


「ねぇ、聞いた? 早河のやつ雛森さんに告白したらしいよ?」

「全然釣り合ってない自覚無かったのかな?」

「身の程知らずだよねー」


 どうやら俺が雛森に告白した事が広まっているらしい。

 おそらく、あの場に偶然居合わせた誰かが広めたのだろう。

 何でわざわざそんな悪趣味な事をと文句を言ってやりたい。

   

 それから暫く、俺はモブキャラとは思えないほどクラスメート達から注目を集めるのだった。

 悪い意味で。


「……早河君。少しお話ししたい事が……」


 朝のHRが終わってすぐ、雛森が俺のところにやって来た。

 雛森の顔はひどく青ざめている。

 話したい事と言うのは、噂が広まっている件についてなのだろう。


「……分かった」


 俺と雛森は一緒に教室を出る。

 それから俺達はあまり人の来ない小さな広場にやって来た。


「雛森。話って言うのは、噂が広まってる事についてだよな?」

「は、はい」

「先に言っておくけど、雛森が責任を感じる事も謝る必要も無いからな?」

「え、どうして……」

「だって雛森、何も悪くないだろ?」


 雛森がそう言う性格なのは、ゲームをプレイして知っている。

 今回の件、雛森に非は無い。

 むしろ……


「むしろ謝るのは俺の方だ。俺のせいで雛森に迷惑を……」

「そ、そんな事ないですっ。早河君のせいじゃありません」

「いや、でも……」

「でも、じゃないです」

「は、はい」


 迫力に圧倒されて思わず頷いてしまった。


「それに、早河君も何も悪くないのに謝る必要なんてありません」


 雛森はそう言ってくれたが、それでも俺は責任を感じていた。


「……雛森。もしも今後、今回の件で何かあったら俺に言ってくれ」

「……わ、分かりました」


 と、そのタイミングで予鈴が鳴ったので俺達は教室へ戻る。


「早河君って……優しい方ですね」


 教室へ戻っている途中、雛森がボソッとそんな事を呟いたのを俺は知らないのだった。


◇◇◇◇◇


 朝のHRが終わり、晴哉と沙紀が教室を出た後の事。

 クラスメート達は再び噂について話し始める。

 その殆どは晴哉を馬鹿にしたような内容だった。


 そんな彼らは気づいていない。


「……」


 篠原玲奈に冷めた眼差しを向けられている事に。

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