告白するヒロインを間違えてしまったモブキャラの俺、気づいたらヒロイン達に好かれていた件

蝶野

一章

第1話 告白するヒロインを間違えたモブキャラ

「……ふぅ。いよいよこの時が来たか」


 とあるギャルゲーのモブキャラに転生してから数ヶ月。

 俺はこれからヒロインの一人に告白して振られ、モブキャラとしての最初で最後の使命を全うする事になる。


 数ヶ月前、目が覚めたら俺は早河晴哉と言うモブキャラに転生していた。

 主人公やヒロイン達と同じクラスに所属しているが、今回の告白以外で彼らと関わる機会は無く、これ以降ストーリーにも登場しないキャラである。


「……そろそろ時間だな」


 先ほど靴箱にラブレターを入れておいた。

 今どきラブレター? と思った奴もいるかもしれないが、その辺の意見は俺じゃなくこのゲームの制作陣へどうぞ。

 俺はただストーリー通りに動いただけなので。

 後は告白して振られるだけ。

 それで俺の役割は完全に終わりだ。


 校舎裏で待つ事数分、不意に足音が聞こえてきた。

 足音はゆっくりと近づいてくる。

 

 そして、呼び出したヒロインが姿を———


「え?」


 ———現さなかった。


「……お、お待たせしてごめんなさい」


 なんと、姿を現したのは……雛森沙紀だった。


 綺麗に整えられた茶髪のボブカットと端整な顔立ち。

 小柄ながらも胸には思わず視線が奪われるほど二つの大きな膨らみ。

 生徒達から聖女様と呼ばれている超絶美少女、それが本作のヒロインの一人、雛森沙紀である。


 だが……俺が呼び出したのは彼女ではない。

 俺がこれから告白するつもりだったのは、もう一人のヒロインである篠原玲奈だ。

 どうして雛森がここに……?


「このラブレターを私の靴箱に入れたの……早河君ですよね?」


 雛森の手には俺のラブレターが。


 なんで雛森がそのラブレターを!?

 ちょっと待て……確か雛森の靴箱って篠原の隣だったよな……


 そこで俺は自分が犯してしまった致命的なミスに気がつく。

 どうやら俺はラブレターを入れる靴箱を間違えてしまったらしい。

 

 何やってんだ俺ぇぇぇ!!!


 本来のストーリーには無い未知の展開。

 俺のしょうもないミスのせいで、取り返しのつかない事になってしまった。


「は、早河君。大丈夫ですか? すごい汗をかいていますけど」

「だ、大丈夫大丈夫」

 

 嘘である。

 実際は何も大丈夫ではない。

 どうする……入れる靴箱を間違えてしまったと正直に伝えるべきか?


「そ、それで……告白の返事なのですが……」


 どうしようか思考を巡らせている間に、雛森は答えた。

 

「ごめんなさい」


 そう言って雛森は深く頭を下げた。


「早河君とはまだお話しした事もないですし……何も知らないので……」


 そして雛森は校舎裏を後にした。


 呆然と立ち尽くしていた俺が振られた現実を把握したのは、雛森の姿が見えなくなってからだった。

 

「あれ? これって……」


 相手は違うが、ヒロインに告白して振られるという役割は達成できた……と言っていいのでは?

 相手は違うが。


「……とりあえず、結果オーライって事で」

 

 問題は無い……はずだ、多分。


 しかし……もしも雛森が告白をオッケーしていたら、一体どうなっていたのだろうか。


「って、モブキャラが何を分不相応な事考えてんだか」


 モブキャラの俺がヒロインから好意を持たれるような展開なんて訪れるはずがない。


 この時の俺は本気でそう思っていた。


「さて……帰るか」


 今回の告白をキッカケに物語が予想外の方向へ動く事など、この時の俺には知る由も無いのである。

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