第3話
朝の六時、家を出て、近くのネットカフェに向かうことにした。そこをログイン地点として選び、シングルルームを借りて、朝食にシーフードピザを注文し、ついでにいくつかの漫画本も取った。
ネットカフェの個室には監視カメラが設置されていないため、誰にも気づかれずにゲームにログインするのにとても便利だ。
俺は「ミラコール」をバッグから取り出し、頭に装着してから、電源ボタンを押した。
瞬く間に、目の前に地図の画像が現れ、いくつかの赤い点と、自分を示すと思われるアイコンが表示された。
「すごい、リアルすぎる。」
手で赤い点の一つをタップすると、「獣人の王国、ベルカ。フェデオラ市」と表示された。
ログイン地点の名前が表示されると、どの種族を選ぶべきかが決まったようだ。
俺は深呼吸をして、使い方の説明書に記載されたログインのコマンドを、俺だけが聞こえるように、ちょうど良い声で発音した。
「ミラクルソリューション起動」
突然、周りの空間が一変し、体が軽くなるような感覚に包まれ、まるで虚無に溶け込んでいくようだった。そして、気がつけば俺はその部屋にはいなかった。
現在俺が立っている場所には、空や雲、または誰かが住んでいる兆候は一切ない。ただ真っ白な空間に、漂う電子パネルが浮かんでいるだけだった。
ここは「ミラクル」とも呼ばれる「ロビー」の空間であり、部屋の主人の望みに応じて景観が再現される。ここでは、プレイヤーがアバターに関する情報を確認し、ゲームに入る前に準備を整えることができる。
俺が使い方の説明書から知っているのは、それだけだった。
ここが、俺のキャラクターを作成する場所になる。
しかし、なぜここがこんなに真っ白で、電子パネル以外には何もないのだろう?もしかしたら、俺がまだ明確な望みを持っていないので、システムが景観を再現できていないのかもしれない。
とりあえず、無視してキャラクター作成を始めよう。
俺は手を伸ばして、近くに浮かぶ電子パネルを目の前に引き寄せ、その内容を確認した。
「えっ、これって……!? アイディーアカウント0000001」
画面に表示されたのは、キャラクター作成メニューではなく、あるアカウントの数字だった。
俺は右手の人差し指で試しにタップしてみたが、その後の展開には信じられないほど驚いた。
画面が切り替わり、すでに作成されたキャラクターデータが表示され、イラストも付いていた。右上に表示されている種族は「エックスマキナ」、レベルは「ゼロ」、キャラクター名は「マイト」。
表示されている情報はそれだけで、もっと詳しく知りたいならゲームにログインしてステータスを確認する必要がありそうだ。
今の問題に戻ると、俺は昨日「ミラコール」を起動してキャラクター作成ルームに入ることはなかった。なのに、誰かのアカウントが表示されていて、キャラクターの設定がすでに完了している。
もし運営がそんなに親切で俺のためにアカウントを作ってくれたのなら驚きだ。しかし、登録時に自分の本名を使っていたので、キャラクター名が「マイト」なのも納得がいく。
だが、もしそうだとしたら、プレイヤーの創造性や自由を妨げることになるので、こんな大手企業がそんなことをするとは思えない。ましてや俺に特別な理由があるわけでもないし。
キャラクター情報の表示を閉じ、「ログイン履歴」の部分を開いてみたが、当然何も表示されていなかった。つまり、ログアウトしない限り「ログイン履歴」は更新されないのだ。
このことから、これまでに誰も「ミラコール」を使ってこのキャラクタールームにログインしたことはないことがわかる。
つまり、考えられる唯一の可能性は、アカウントを作成したのが「未来技術グループ」の社員で、何らかの理由で試験に参加できなくなったため、この「ミラコール」が俺に渡されたということだ。
その人は試験のために「ミラコール」を別の機器に接続してキャラクターを作成し、結果的に試験に参加できなくなったのだろう。おそらく、試験に参加して体験し、改善点をフィードバックする目的だったに違いない。
五感を完全にシミュレートし、実際の体を仮想世界に投入する新しいデバイスなので、一般の人だけでなく、開発に関わる人たちも試験に参加するのは自然なことだろう。
以上が俺が考えた推測だ。どれだけ正しいかはわからないが、とりあえず受け入れてみるしかない。
「ならば、アカウントを削除してキャラクターを再作成するしかない。」
しかし、どんなに試しても、俺はこのアカウントを削除することができなかった。
一体何が起こっているんだ? このゲームはキャラクター作成が一度だけなのか?
現在の状況から判断すると、どうやらそうみたいだ。
どうせこれはパーマデスゲームだから、仕方がないといえば仕方がない。
しかし、これでは他人のキャラクターをそのまま使うしかないってことか? 自分の思い通りにキャラクターを作成する自由が全くないなんて、まるで俺がただの作業者扱いされているみたい。
それに、種族がエックスマキナだなんて。確かにこの種族は俺の一番好きなものだけど、MnHのフォーラムで読んだ限りでは、この種族は「獣人」の領域に直接ログインすることは許可されていない。獣人とエックスマキナの間には冷戦状態が続いているからだ。
ログインするためには、ゲーム内でエックスマキナの地図に関連する場所を探さなければならない。しかし、それは非常に時間がかかり、ネットカフェを借りている今、金銭的にも無駄だ。
この件で運営に直接連絡したい気持ちもあるが、方法がない。運営の本社に直接行くのも一つの手だが、面倒くさいし、もしかするとこれは彼らが持っている最後のミラコールかもしれない。
大事にすると、参加資格が取り消されるかもしれないから、とりあえずは我慢するしかない。
まだ報酬を手に入れる前にゲームから追い出されたくないからな。
「キャラクター名がマイト!?」
俺は目を見開き、その光景に驚愕した。
ここでじっと考え込んでも時間の無駄だし、現実を受け入れてそのままゲームにログインするしかないだろう。
種族間の詳細な状況については、自分の手で調べるしかない。
「マスクチェンジ」
俺はゲームにログインするためのコマンドを呟いた。
すると、耳に心地よい音が響き、その後、何かが頭を包み込む感覚がした。それはまるで頭の上に蟻が這っているような感じで、白い光が体を巻きつきながら周囲を流れ、曲線を描いて徐々に消えていった。
一瞬、俺は顔に何かを付けているような感覚があった。
すぐに、周囲の景色が徐々に明らかになり、目の前に広がる光景に信じられない思いが募った。
目の前には、現代的な要素が全くない幻想的な都市の風景が広がっていた。周囲の人々は活気に満ちており、その容姿は普通の人とは大きく異なっていた。彼らはただ耳が少し大きく、尻尾が付いただけの人間ではなく、どう見ても獣人であり、おそらくNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だ。
道の両側には木造の家々が並び、その中には顔が見えないようにさまざまなデザインのマスクを着けた人々がいた。彼らの腰や背中には武器が装備されている。直感的に、彼らも俺と同じプレイヤーであると感じた。
「これはマスクス・アンド・ヒーローの世界か?」
俺は青い空を見上げ、清々しさを楽しんでいたが、突然、機械的な声がその静寂を破った。
「ログイン確認成功しました」
「ユーザーマイト」
「位置情報獣人の王国、ベルカ。フェオドラ市」
「リンク完了」
「ようこそ、マスク・アンド・ヒーローへ」
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