第1話

夏休みの終わり、二XXX年八月二十八日、午後三時三十分。東京・秋葉原のゲームセンター「ミライ」では、激闘が繰り広げられていた。


カチカチ……、タチタチ……


指が巧みにボタンを叩き、スティックを操り、二人のプレイヤーの操作がまるで軽やかな音楽ように響き渡る。


眩い光が画面を包み込み、その中で激しくぶつかり合う二人のキャラクターが映し出されていた。一方は守りを固め、もう一方は攻撃を繰り出す。


HPバーはどちらも半分を切り、画面中央にはカウントダウンするタイマーが映っていた。


試合が始まって三十分が経過しても、いまだに勝敗は決していなかった。


試合会場の周観りに立ち尽くす客たちは、その試合の行方を見守る視線を集中させていた。歓声を上げ、二人のプレイヤーを応援する者、試合展開を分析し、どちらが勝つか予想する者。


それにしても、興奮しすぎて雰囲気を盛り上げる観客たちの歓声の中で、二人のプレイヤーは戦いに集中し続けていた。一方の手でスティックを操り、もう一方の手でボタンを連打しながら、キャラクターを動かし、次々とパンチやキック、スキルを繰り出していく。


もし二人のうち一人でもうっかり手を抜けば、もう一方に戦局を有利に変えるチャンスを与えてしまうだろう?


カブトムシのキャラクターを操ているプレイヤーが若者で、シンプルな私服を着ており、短い黒髪をしている。その名前で大会に登録したのは、イチジョ・マイトだ。

対するは、ドラゴンナイトを操ているプレイヤーだ。その姿は狐の仮面で顔を隠しており、白い短袖シャツに黒いコート、フレアスカートの下には黒のレギンスを履き、黒髪が肩まで流れていた。


その特徴から、このプレイヤーが女性であることは一目瞭然で、身長は約百四十六センチメートルほどだ。大会には「エム」という名前で登録している。


「ミライ」というゲームセンターは、未来の技術を代表する「ノムラテクノロジーグループ」の子会社「ノムラエンターテイメント」が運営している。その中心で、アーケードゲーム「仮面勇者バトルウォー」の夏季大会決勝戦が繰り広げられていた。

このゲームは約一年前に発売され、日本国内の多くのゲーマーと一部の外国人ゲーマーたちによって大歓迎された。ゲームには、現在十六人のキャラクターが登場し(今後のアップデートで追加予定)、それぞれが異なるスキルと特徴を持ち、異世界の力を宿した仮面のヒーローたちが繰り広げる戦いを描いている。彼らは最強のチャンピオンを決定し、その者が敵勢力との戦いでリーダーシップを発揮することを目指している。


ゲームの背景は、メディアやゲーム雑誌でさまざまに報じられているが、実際には対戦型のゲームである。プレイヤーは、コントローラーのボタンとスティックを駆使してキャラクターを操作し、移動やパンチ、キック、必殺技を繰り出し、敵の攻撃を防ぐことが求められる。


アーケードゲームの筐体で、マイト選手と対戦しているのは、前回のシーズンチャンピオンであるエム選手だ。彼女は短期間で優れた成績を収め、ゲームセンター「ミライ」のトッププロゲーマー十人の中に名を連ねている。彼女は単に一つのゲームだけでなく、ほとんどのアーケードゲームでトップの座を獲得してきた。


彼女の経歴は不明で、冷徹で神秘的な外見に加え、狐の仮面が特徴のため、多くの男性ゲーマーから熱烈な支持と憧れを受けている。


一方で、この夏の大会に突如現れた無名の少年、イチジョマイトは、予選でプロゲーマーたちを次々と倒し、華々しく決勝戦まで駆け上がってきた。

更に三十分が過ぎた。


キャラクター同士が交錯し、戦いはクライマックスに突入する。マイトはカブトムシの制スキルを駆使し、ドラゴンナイトがヒッサツワザを発動できないように妨害していた。


エムの足は焦るように地面をリズムよく鳴らし始めた。


きっと、マイトに制圧されてイライラしているのだろう?


早く決着をつけたいという焦りが彼女の操作に現れていた。


対照的に、マイトは冷静だった。


画面に映る相手の動きを鋭い目で追い、迅速に対策を講じる。彼の口元には自信に満ちた笑みが浮かび、勝利を確信していた。


試合は最終局面に入った。両者のMPゲージが再び満タンになり、ボタン操作は最初よりも速くなる。


どちらが先にヒッサツワザを発動するか、それが勝敗を分ける。 だが、エムの操作速度は最初の頃よりも遅くなっていた。これこそがマイトの策略なのかもしれない。

彼はまず守りに徹し、相手を疲れさせ、焦らせ、そして最終的にエムの操作速度を落とすことが真の狙いだったのだ。


エムのキャラクターが少しでも遅れを見せた瞬間、マイトはすかさず連続攻撃を仕掛けた。


結果、マイトは一瞬の差で、カブトムシが必殺技「サンダーキック」を繰り出し、ドラゴンナイトを即座に撃破した。


画面には「ケー・オー」の二文字が表示され、試合が終わった。


「おめでとうございます!!!  今年の『仮面勇者バトルウォー』夏の大会の勝者は、イチジョマイト選手でございます!」


主催者の祝福の声とともに、マイトのプレイエリアから突然花火が打ち上げられ、彼は一瞬驚いて目を見張った。


観客たちは、センターのトップ1プレイヤーが無名の挑戦者に敗北したことに驚きつつも、主催者の熱い祝福に乗せられ、エムのファン以外の観客たちは新たなチャンピオンを歓迎する歓声と拍手を送った。


もちろん、祝福する者もいれば、不満げに睨む者もいた。特にエムのファンたちは、その鋭い視線でマイトを見つめていた。


その後、二人のプレイヤーはステージ中央に立ち、互いに敬意を表して握手を交わした。


「おめでと」


最初に声をかけたのはエムだった。彼女の声は清らかで、敗北の悔しさを感じさせた。


「ありがとう! お前の技術も悪くないよ。でも、最後に焦ってミスをしたのが敗因だったね。もっと練習すれば、次は俺に勝てるかも」


新人プレイヤーからの長い説教に、エムは手を引っ込め、歯ぎしりするような音を立てた。


「調子に乗らないで、次は負けないよ」


「どうぞ、いつでも受けて立つよ」


会話を終えると、マイトは背を向け、観客たちの見守る中、賞品を受け取りにステージに上がった。


賞品には、十万円の賞金、小さな優勝カップ、そして手頃なサイズの箱に入った秘密のギフトが含まれていた。


マイトは興味津々でギフトを観察し、すぐにでも開けたいと思ったが、周りにたくさんの人がいるため、その場では我慢して持ち帰ることにした。

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