第10話

 とにかく逃げよう。早く自分の部屋に入ろう。

震える身体にムチ打って、足をもつれさせながらファミレスの配膳ロボットより下手くそな動きで私は逃げる。その間にも何本も矢が飛び、肩やら足やらに音をたてながら襲い掛かる。あぁリクルートスーツに穴が開いた!これ一着しかないのにどうしてくれる!落ち武者に襲われての死亡説なんて誰が信じてくれるんだろう。


 怖い。心臓がバクバクしていた。

こんな所で死ぬの嫌だ!自分の角部屋が今日はとんでも遠く感じてしまう。あと何歩かで到着という時、一本の矢が見事にジャケットの裾を捕らえ、私は鈍い音と共に冷たい床に倒れてしまった。


 傷はない。刺されてはいない。大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせる。あぁ心音がうるさい。大丈夫、ジャケットの裾と床が一本の矢に繋がれて身動き取れなくなっただけ、ただ冷たい床に頬を重ねる。


 なまぬるい風が吹いてきた。ゆっくりとゆうらりと何かが近寄り矢を向ける。殺気のかたまりを感じて、頬からの冷たさが身体全身に回ってきて血の気が引いた。全然大丈夫じゃない。きっともうダメだろう殺される。こんな所で死ぬなんて最低だ。だって絶対勝てないでしょう。弓持った武将に押さえつけられたら現代人は勝てないよ。

 お母さんお父さんおばあちゃん悲しませてごめんね。お兄ちゃんテレビと電子レンジ買ったお金返せなくてごめんね。優一……やっぱりぶっ殺す!


 恐怖に押し潰され、人生をあきらめた時



 壁が動いた。

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